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第1章 第1話 海の記憶

 あれから、シロとの記憶探しの日々が始まった。

 ……とは言っても、数週間、起きては飯を食って、すこしでかけたり、シロと話したりして寝るという普通の生活をただしていただけだったのだが。


 今日も今日で変化なし、俺はスマホもないので家の本棚に置いてあった本を適当に取って、俺の寝床(もちろん俺の分のベットなんてあるわけがないので、リビングにあるソファー)に寝転び読む。


「ぐーたらしてるねぇノアくん」

 なぜか床に布団を敷き、スマホでYouTubuを見ているシロが話しかけてきた。

「シロも人のこと言えないだろが」


 シロもどっからどうみてもぐーたらしている。

 ちなみになぜシロがリビングに布団を敷いているのか理由を尋ねたところ、「だってせっかくノアくんと同じ屋根の下なんだよ? 一緒にねなきゃ損だね」ということらしい。


 ……どうやら俺とシロはかなり親密な仲だったということが、この数週間で伺えた。

 普通男と女が同じ部屋で寝るなんてイレギュラーだ。多分。きっと。

 俺は仰向けに寝そべって、無防備におへそを晒しているシロを見つめる。


「……なあシロ」

「どしたのノアくん」

 俺はこの数瞬間で、抱いていた仮説を確かめようと質問をしてみることにした。

「恋人っている?」

 そう、この無防備さ、そして親密な仲だったということが伝わってくるこの感じ、俺とシロは恋仲だったのではないかと考えたのだ。それなら納得が行く。

「ノアくん……」

 シロはスマホを置いて、その場で起き上がると、俺の目を真剣に見つめて……。

 そしてこう言った。

「海へ行こう」

「……は?」


 ~~~~~~~~~~~~~~


 うるさい蝉の声、まっすぐと俺を突き刺す日光、何故か俺は来たくもない海へとやってきていた。

 シロに連れられここまでやってきたが、もうすでに帰りたい。


「なあ、どうして俺ここに連れてこられたん?」

「いいじゃん、折角の夏だよ? 海に行かなきゃ損だよ、それに見て! 貸切状態だよ」

 そう言って浜辺を軽く走っていくシロ。


 ……そう、俺が目覚めてから数週間たったが、ひと目見て分かる異変があった。

 人がいないのだ。誰一人。街ですれ違う人も、スーパーやコンビニの店員も。誰一人としてこの世界にはいなかった。


 大異変である。しかしシロは「まあまあ、大丈夫だよ。きっとノアくんの記憶が戻ればなんとかなる」

 そう言って聞かなかった。


「じゃーん」


 不意に呼ばれシロの方を見ると、白を基準とした、可愛らしいフリフリがついた水着姿のシロがいた。

 こう見るとシロはかなり幼く見える。胸もそこまで大きくないし、身長も低め(150センチくらいだろうか)で、幼い顔つきときた。正直に言ってしまうと小学生高学年、中学生くらいに見えてしまう。


「なにか失礼なこと考えてない?」

「いやなにも」

 女の感ってやつだろうか、恐ろしい。


「それで、なにかご感想は」

「感想?」

「女の子の水着だよ? 可愛いの一言くらいはあってもいいんじゃない?」

「可愛い」

「もう、つれないなぁ」


 はいはい、とぼやきながらシロの方に近づく。

「それで、なにをするんだ?」

「ふっふっふ、もちろん遊ぶんだよ」

「ちょ、おい!」

 そう言うとシロは俺の手を掴み、海へと走り出す。

「つめひゃ!?」

「何今の声」

 こいつ今めっちゃ情けない声でつめひゃって言ったぞ。

「うるさいなぁ! えい!」

「うわっ」

 これでもかと海水を手で俺の方に飛ばして、かけてくる。

 確かにものすごく冷たい。やられたらやりかえす。男女平等精神を持つ俺にそんなことをするとは……。

 俺は両手を海水につっこみ、今持てる全てのちからをそこに注いだ。

「きゃー!!」

 誰もいない海で、しばらくそうやって二人で遊んだのだった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~


「あぁ疲れたぁ」

 砂場になぜか置かれていたレジャーシートに思いっきり寝転がるシロ。

 俺の分のレジャーシートはどうやらないらしい。おかしい。というか寝転がるんじゃなくて座れば俺も座れるだろうが。

 そう言いたいのを飲み込んだ。

「きれいだねぇ」

 シロの目線の先には、キラキラと揺れる海に、オレンジ色の空が広がっていた。

「ああ、きれいだな」

「……前にもこんなことあったな、とかない?」

「ないな」

「そっかぁ」

 しょんぼりとした声が波の音とともに消えていく。

 しかしそれもつかの間、シロは思いっきり立ち上がると、

「さ! 夏祭りへと行こう!」

「誰もいないこの世界で?」

 誰もいない寂しい夏祭りになる、というかそもそも人いないのに夏祭りやってないだろ。

「きっとやってるよ、私が願ってるんだから」

「なんだそ……」

 そう言いながら俺も立ち上がり、シロの方を見て、そのなんとも言えない、微笑んでいるようで、どこか物悲しいその横顔が、たまらなく美しく見えて。

「それじゃいこっか」

 振り返ってシロは海を背にあるき出した。

 その後ろ姿には、強い決意があった。


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