第0章 はじまりの記憶
目が覚めると、見慣れない天井が広がっていた。
「ん……? 」
ゆっくりと上半身を起こし、周囲を見渡してみる。まず俺が寝ていたベットに、学生らしい勉強机と椅子。整然と並べられた本棚、そしてその上には可愛らしいくまのぬいぐるみが飾られている。白を基調としたこの部屋は、いかにも女の子が住んでいます! といった部屋模様だった。
「ここは一体……?」
自分がどうしてこんな場所にいるのか、理由を探るために昨日の記憶を思い返そうとしてみようとしたところで気付く。なにも思い出せない。昨日の晩ごはんはおろか、自分の名前や年齢すら思い出せない。
つまるところここはどこ、私は誰状態だ。
ここは俺の部屋なのだろうか……? そんなことを考えていたその時、部屋の扉がゆっくりと開いた。扉の先には肩くらいにまで伸ばした白い髪をなびかせた、目鼻立ちのはっきりした少女が現れた。その少女のことを一言でいうならめちゃくちゃ可愛い。俺はロリコンではないが、そのロリっぽい顔立ちをみるとつい甘やかしてしまいたくなる。
「おはよう、よく眠れた? 」
白い髪の女の子は微笑みながら部屋に入り、俺が寝ているベットのほうに近づいてきた。
「ええっと、君は? 」
女の子の顔をじっと見つめる。眼福……じゃなくて、彼女は一瞬、驚いているような、少し悲しいような表情を浮かべた後、優しい声色で答えてくれた。
「私の名前はシロ。ここは私の部屋だよ。」
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あれから、リビングのような部屋に案内されると、シロと名乗った白髪の少女は机の奥に移動し椅子に腰掛けた。それから俺の方に手を振って、目の前にある椅子を示す。
どうやら座れということらしい。
指示された通りに椅子に座ってから、俺は気になっていることを聞いてみる。
「ええっと……シロさん。俺は一体どうしっ」
「敬語はなしでいいよ」
ココアを入れながらシロは言葉を遮る。
「……じゃあ、お言葉に甘えて。どうして俺は君の部屋に?」
「それが」
シロは首を傾げて、「実は私にもわからないんだよねぇ」と言った。
「ええ……でもさっきここは私の部屋って。」
「そうなんだけどぉ」シロの表情が曇る。「君と同じで記憶を失ってるんだよね」
「記憶を失ってるって……じゃあなんで自分の部屋ってわかったんだ?」
「それはあれだよ、神様からの天啓的な?」
シロはしどろもどろしながらそんなことを言ってきた。
……怪しい。怪しすぎるぞこの女。神様からの天啓的なってなんだよ。誤魔化すにしてももう少しましな言い訳あるだろ。
このままこの女と一緒にいるのは危険な気がする。よし、一旦この家から出よう。
そんなことを考えているのがシロにはお見通しだったみたいで。
「いいの? ノア君いま住むところあるの?」
……と、小悪魔的な、ニコっとした可愛らしい微笑みで言ってきた。
確かに、俺はいま家の場所がわからんし、そもそも家があるのかすらわからない。それに加えて文無しときた。
正直言って詰みである。こんな状態で外の世界に飛び出たら死ぬのは明確だった。
「この家で過ごせば雨風防げて、お金もかからないし、しかも!」
「しかも?」
「……君の記憶を呼び覚ますお手伝いもできる!」
俺の記憶を呼び覚ますお手伝いって……。
「なにか当てはあるのか?」
「まあ私君のこと知ってるし」
「はあ!?」
なんていった今!? 俺のこと知ってるって言わなかったか!?
「それならシロが俺のこと教えてくれたらっ」
「記憶がないのが気に食わないので教えません~。お手伝いはするから自分で思い出してね☆ 」
「こいつ……」
そんな俺のぼやきは、セミの声でかき消されてしまったのだった。




