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無償の愛  作者: あお


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告白【終】


"幸せになっていいのか"


その言葉の答えを、聞くのが怖かった。

あの女の子のように、幸せになってはいけないといわれるかもしれないという不安がまだあったから。


でもおじさんは違うと、期待が大半を占めて、私は震える声でそう尋ねた。


「当たり前だ!!!」


ハァハァと息を切らせたヴォルさんが、ツカツカと私の方に歩いてくる。

そして膝をついて、魔物の血が付いた手袋を脱ぎ捨て、私の顔を引き寄せた。


「俺はアレンと共に幸せになりたい!

だから幸せになっていいのかなど言わないでくれ!」

「ヴォル、さん…」


苦しそうな、辛そうな表情を浮かべるヴォルさんは、いったいどこから聞いていたのだろうかと思案する。

そして目線を動かした時、分厚そうな鎧が切り裂かれた場所が目に入った。


「アレンのお陰だよ」

「え…?」


私の目線に気付いたのか、ヴォルさんが私の頬から手を離し、切り裂かれた鎧の下にある素肌を見せる。

そこには傷なんてあったことすらわからないほどの、綺麗な肌があった。

先程まで血が流れていただなんて思えないくらいで私は心の底から安堵した。


それにしても、どうして私だと思うのだろうか。

あの場所に私はいなかったのにとヴォルさんを見つめていると、くすりと笑われる。


「アレンの魔力ならわかる。

優しくて心地いい、ずっと感じていたい穏やかな魔力なんだ」

「そう、なんだ…」


そう言われると恥ずかしくなるけれど、私の魔力だと気づいてくれたことも嬉しかった。


「魔法の指導者として、あんな魔法のやり方は本来であれば咎めなければいけない。

だが、今回の戦いの中多くの負傷者が出た。すぐに手当てしなければならないほどの重傷者もいた。

それを君が救ってくれたんだ。あの場に立った者の代表として、アレンに礼を伝えたい。

ありがとう。本当に」


そうしてヴォルさんは右手を左胸に、左手を腰に回し、そして地面に片膝をつけ、頭を垂れる。

いつか見た姿勢に私はふと思い出した。


「…それ、レインがヴォルさんにしていた…」

「騎士の中での最上級の敬意を示す格好だ。

自分の主と認めた者への忠誠の場でも使われる」

「敬意を示す…、って忠誠!?だめ!ダメだよ!ヴォルさん頭上げて!!」


慌ててヴォルさんの頭を起こそうと肩を下から押し上げようとしても、びくともしないヴォルさんに私は顔がどんどん熱くなる。

全っ然動かない!!


『フホホホッ!』


突然声を上げて笑ったおじさんに、私は振り向いた。

目尻から流れ出た涙を拭いているのか、目元に指を添えているおじさん。


『明菜ちゃん、いや“アレンちゃん”かな?

さっきの質問の返事はもうその者がしたのか?』

「え?」

『まだなら、儂がしよう。

”幸せになっていいんじゃよ。”

この返事でも足りないというならば、どうか幸せになって欲しい。

儂から明菜ちゃん、そしてアレンちゃんへのお願いじゃ』


その瞬間、心が解き放たれたような気分になった。


そして思う。


(心が傷ついたら治らないって、違うかもしれない)


人に傷つけられた心は、人の愛情によって修復されて、そして強くなる。


ああ、なんて…


(なんて私は幸せなんだろう……)


「アレン」


ヴォルさんに呼びかけられた私は我に返り、顔を上げているヴォルさんを見る。


「彼はなんといっているんだ?」


言葉が通じないヴォルさんとおじさんは、うまく疎通が出来ない。

だからこそどちらの言語も理解できる私に聞いているのだろうと、おじさんの方に顔を向けると何故か土下座の格好をしていた。


「え!?おじさん!?」

『明菜ちゃんは、儂の娘のようなもんじゃ。

さっき言っていた好いているやつはこの男じゃろ?

だから告げてくれ、明菜ちゃんをよろしく頼むと』

「つ、伝えるから頭上げてよぉ」

『フホホホ、ちゃんと伝えるのじゃよ』


おじさんの頭をあげさせ、私はヴォルさんに視線を向ける。

催促されているような感じがしなくもない。


「お爺さんとおじさんが似ているって言ってたこと覚えてる?」

「ああ、覚えている」

「それでね、お爺さんがおじさんであることがわかったの。

でね、私がおじさんの娘みたいなものだから、よろしくって、そういってる」

「そうか……。

なら俺からも伝えてくれないか?“必ず幸せにする”と」

「ほえ!?」


な、なななななんという羞恥心を煽ることを!と私は顔を真っ赤にして、そしておじさんの耳に手を当てて告げる。

ヴォルさんの言葉だとは言え、私が自分自身で「ヴォルさんが私の事幸せにするっていってる」なんてことをヴォルさんの目の前で言えない。

でもその言葉を聞いたおじさんは、また嬉しそうに笑って私の頭を撫でたのだった。






■





そして魔物の襲撃もあり、一日ずらしての出発をした私達はやっとイヴェール町にたどり着く。


お義母さんとお義父さんの元に帰って、私の記憶が戻ったこと。

そして私が尋ね人であったことを伝えた。


昔の記憶については詳しく説明していない。

説明したくないし、思い出したくないような記憶だからだ。

それに話したとしてもお母さんはもう死んでいて、お父さんのような人はお母さんを殺した事できっと捕まってる。

第一、世界が違うのだ。

違う世界の人のことで、お義母さんとお義父さんを悪い気持ちにしたくないという気持ちが強かった。


でも代わりにおじさんの事を沢山話した。

おじさんに遊んでもらった事もそうだけど、会ってきた尋ね人はおじさんだったこと、そして私の事をおじさんがちゃんと覚えてくれていたということが嬉しかったと、たくさん…それはもうたくさん話した。


お義母さんもお義父さんも、よかったねと言ってくれて

でも一番は私が無事に帰ってくれたことが嬉しいといっていた。



ここまで付き合ってくれたヴォルさんを見送ると二人に告げて、私は陽が暮れる時間に店の外に出た。


「ヴォルさん、あのね……話したい事があるの」


家の一番近くに流れている川に、ヴォルさんを連れて向かう。

日本であれば夕陽に照らされて、まだ遊ぼうよと友達に呼びかける男の子達がいたり、電子ピアノを使って音楽を弾いたり、歌を歌っていたり、ジョギングをしていたり。

そんな人たちにあふれているだろう時間帯でも、この世界では見ることはない。


「私の“前の”名前は箕輪 明菜っていうの」


記憶がなかった時にも、どこか違和感を感じてしまった見慣れない容貌に服装。

与えられた名前も嬉しかったけれど、それでもどこか違和感があったアレンという外国人みたいな名前。


当たり前だよね。

黒髪で黒い瞳が大半の日本で、青色の瞳とか赤色の髪の毛の人とか見たことなかったんだから。


「私小さい頃から親に虐待されていたの。

殴られたり叩かれたりするのは当たり前で……、でも他の子よりは治りが早かった。

それも成長していくにつれ、小さい傷ならすぐに治る位の治癒力があって、親にも周りの子にも化け物扱いされてきた。

…あ、元の世界では当たり前の反応だから、ヴォルさんは気にしないでね。この世界とは違って元の世界には魔法という概念がない。ううん。もしかしたら微量な魔力過ぎて無いものとされてきていたのかもしれない。

でも今思えば、それが私の魔力量が多い原因だったのかもしれないと思うんだ」


私の体格に見合わない魔力量に驚いていたヴォルさんを思い出す。

そしてこうも言っていたよね。

”その魔力量が自信の体の適正量だと判断した結果で、これより減ってしまえば体に支障をきたす”とも。

だから、私の体はあの境遇に耐えられるように、自分の意思とは関係なく魔法を行使されていて、そして結果ヴォルさんも驚くほどまでに魔力量が増えていったのだと、そう考える。


「私が治癒魔法を使えた理由はわからない。

でもセオンの言葉通りなら、私はもとから治癒魔法を使えたと思ってる。

だって、セオンは辛い記憶を抜き取る代わりに、一部の魔法を封印するだけだもの。

人によってはとても大事になるかもしれないことだけど、でもそうでないかもしれない。

辛い記憶を呼び起こしても大丈夫だと答えた人には、きっと……ううん。絶対セオンはちゃんと記憶を返していたわ」


本当のところはわからない。

でも私がセオンと話し、感じた印象なのだ。


(そういえば、セオンにありがとうと伝えてなかったな)


と思い出す。


私は振り向いた。

振り向いて、夕陽に照らされるヴォルさんの顔をまじまじと見た。


金色の髪の毛は夕陽に照らされ赤く色づき、空色の瞳は赤い夕陽に照らされている。


そしてヴォルさんの表情は、とても強張っていた。

これから私がどんな発言をするのかわからないからが大きいと思う。


私は手を握りしめ、少しでも落ち着かせるように息を大きく吸い込んだ。


そして



「私、アレン・フィーズはヴォルティス・フォンティーヌのことを生涯愛することを誓います!」



恥ずかしくなるくらい大きな声で叫んだ。

そして、真向かいにいるヴォルティスさんを真っ直ぐに見る。


正直自信は全然足りない。

でもこれ以上待てない気持ちが大きかった。


私以外にもヴォルさんを好きな人は大勢いる。

そして私より、ヴォルさんを射止めてしまうような綺麗で素晴らしい女性は沢山いることだってわかっている。


でも、


いつでも私のことを一番に思ってくれて

命のやり取りをした時でさえ、私のことで駆けつけてくれたヴォルさん。


そんなヴォルさんを絶対に渡したくない。


絶対に、幸せになるならヴォルさんと一緒がいい。


強く思った。


突然の告白に目を見開くヴォルさん。



「だから、私とどうか結婚を前提に付き合ってくれませんか!?」


 

そんなヴォルさんに続けて交際を申し込むと、ヴォルさんの顔が赤く染まる。


夕日に照らされているからじゃない。それがわかるほどに真っ赤に染まった。


そして、


ぎゅうっと力強く抱き締められた。


そして耳元で囁くように告げられる。


「俺も愛している」


その言葉が嬉しくて、私はまた涙を流した。







涙で歪んだ視界の中、あの時見た小さな女の子の姿が私をまっすぐ見ていた気がした。


怒っているわけでもなさそうな無表情の中に、少しだけ悲しみの色が見えるのは気の所為か。


でも、もう女の子に対する怖さは感じない。


だって、私のことを丸ごと受け止め、そして愛してくれる存在がいると知ったから。




女の子は私に何も告げることなく、少しだけ微笑みを浮かべた後、背を向けて消えた。











fin


完結です!

ここまで見ていただきありがとうございました!

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