大好きな気持ち
「失礼する」
陽が沈み、とっくに薄暗くなった店内を照らすため私が魔法を使って明かりを灯した時、突如訪れたヴォルさんに私達は驚く。
だけども歓迎し向かい入れると、兜を取ったヴォルさんは渋い顔をしながらも席に着いた。
「ヴォルさん、どうしたの…?」
顔色が悪いヴォルさんに声をかけながら、なにがあったのか尋ねるもヴォルさんは難しい顔をするばかりだった。
そんなヴォルさんの様子に私達は後片付けを後回しにし、ヴォルさんを席に案内して話を伺うことにする。
勿論他の客はいない状態だ。
「…アレンは、もし君と同じ人間がいたら会いたいか?」
暫くの沈黙の後、辛そうな表情で訊ねられた言葉はこうだった。
「それは、どういう、こと…?」
ヴォルさんの言葉の意味を図ることが出来ない私は、言葉の真相を尋ねる。
最初こそ長い沈黙だったが、今回はそれほど待つことなく話を聞くことができた。
「アレンの事をそうだと断定しているのではない。
だが、わが国では極稀に“尋ね人”と呼ばれる者が現れる」
「“尋ね人”?」
「そうだ。この国にはない色彩に、我々が知らない言語を話す人が、ある日急に現れる。何処から来たのかも一切不明だ。そういった者の総称を“尋ね人”と言われている」
「…私は、当てはまるの?」
思わずそう尋ねてしまった。
私のように茶色の髪の色や目の色をした人は、この町の中にも多くいる。
他の地域の町に行った事はないけれど、でもこの町に両手の数以上にいるってことは他の町にも沢山いると思うんだ。
それに私は言葉もわかるし喋れるから、ヴォルさんのいう“尋ね人”の特徴に当てはまっていないと自分でも思っているのだが、何故だか不安になったのだ。
いや、“尋ね人”という表現にあまりいい思いを抱けていないから、そう思うのかもしれない。
「色彩や言語についてはアレンには当てはまらない。だが………」
「だが?」
「…以前、アレンは言っていただろう。“ウサギ”という言葉を。
その言葉を尋ね人に告げたところ反応があったのだ。
私達にはわからない言葉に対して、尋ね人だけが反応した。この事でアレンと尋ね人との共通点が生まれたんだ」
ヴォルさんの言葉に、私はお義父さんとお義母さんを顔を見た。
二人のなにかを決意した顔をみて、私はこの話を聞くのは私が初めてなのだと察した。
「……私は、もしかしてこの世界の人じゃないの?」
声が震える。
でも仕方ない。
私は今、大好きな人たちに否定されてしまうんじゃないかという大きな不安を抱いているのだから。
そして、もしかしたら…拒絶されてしまうのではないかという恐怖を、しっかりと感じていた。
「アレン、顔を上げて」
向かい側に座っているお義母さんに言われて気付く程、私は余裕がなかったのだろう。
自分が俯いていることもわからなかった。
ゆっくりと顔を上げると、いつも見ているお義母さんとお義父さんの笑みが、心を温かくしてくれる。
「私たちはアレンが大好きよ」
「ああ、そうだ。例えアレンが尋ね人であっても、俺達はアレンという人間を愛している」
二人の言葉が胸に染みわたる。
温かい物がぶわりと広がり、鼻の奥がツーンと痛みを感じ、涙で視界が滲んできた。
「……先に言われてしまったな」
隣に座っているヴォルさんが呟いたような気がしたが、横に首を振られて否定された。
「アレンには記憶がない。それは以前話したように“セオン”と呼ばれる魔物の影響が大きいと私達は考えているが、同時にアレンが尋ね人でこの世界に来た反動で忘れてしまったという可能性もあるんだ」
「…じゃあ他の……尋ね人の人たちも私のように記憶がないの?」
そう尋ねてみたが、すぐに否定される。
「まだ正確にはわかっていないが、今生き残っている尋ね人はこの国の言葉を覚え始め、少しだけだが会話が出来ているそうだ。
その中で、以前いた世界との違いを感じている様子が見受けられたという報告から、記憶はあるのだと判断している。
そこで、もしかしたら同じ尋ね人でも人によって違う影響が出るのではないかと考えたんだ」
「…私は記憶だけど、他の人は言語にってこと?」
「そういうことだ。それでもう一度問いたい。
まだアレンが尋ね人であるとわかった訳ではないが……、“ウサギ”というものを知っていた者と会う機会があれば、会いたいと思うか?」
初めとは違う問いかけ方に、私はヴォルさんの優しさを感じた。
そして、ついさっきまで感じていた不安な気持ちはお義父さんとお義母さんが消し去ってくれたから、私は今素直に受け止められる。
「会いたい、…会ってみたいです」
私が記憶喪失な事や森で目覚めた事、きっといまだにお義父さんとお義母さんは気にしている。
それに、お義父さんとお義母さんは渡さないといってくれていたが、それでも私の本当の両親が現れたら、どうなってしまうのだろうという不安もある。
でも私が尋ね人で、この世界の者でなければ、落とされた場所が森の中であったことも運が悪かっただけだったといえるし、本当の両親が現れる心配もない。
今前向きに考えられているのも、私が尋ね人でも関係なく好きだといってくれる両親のお陰だ。
何の心配もいらないことが、こんなにも心を強くしてくれる。
そしてお義母さんとお義父さんと一緒に、尋ね人がいるドゥード地域にいつ出発するかを決めた。
まだ住民登録が仮段階である私が地域を移動する行為にいい顔をしていないお義父さんは着いて行きたそうだったが、ヴォルさんがいるから大丈夫だと遠慮し、渋々納得してくれた。
「ヴォルティス様、アレンの事よろしくお願いします」
「勿論だ。必ず守ることを約束する」
そしてまだ勤務中だった為早々に店を後にするヴォルさんを三人で見送る。
「お義父さんもお義母さんも、私が尋ね人かもしれないって知ってたんだね」
店に入り、残っていた後片付けを再開しながら私は二人に尋ねると、二人は難しい顔していた。
「…“アレンがそうなのかもしれないと知っていた”というより、“尋ね人という存在を知っていた”といった方がいいな。
本当に最近のことだがヴォルティス様が尋ね人の事を話してくれたんだ」
「最初は私達も疑わなかったわ。ヴォルティス様の話に出てくるような尋ね人の特徴に当てはまらないんだもの。
だた、最初にアレンが着ていた服をヴォルティス様に渡した時、少し表情が曇ったの。
それで、もしかしたら、と思ったのよ」
「服?」
「そうよ。女の子がおしゃれで着るような服ではないっていうのはわかるけど、それにしても作りがまるで違うもの」
「伸び縮みするような素材の服は、どの店でも売ってないんだ。
…まぁ、貴族が行くような高級店とかにはあるんだろうと思っていたから、最初は不思議にも思わなかったがな」
「よく考えたらあんなデザイン高級店で扱わないだろうし、それにヴォルティス様の反応で、これは高位貴族でも知らない素材なんだってわかったの。
だからアレンに尋ね人の特徴がなくても、もしかしたらって思うようになったっていう感じね」
「尋ね人だと考えたら辻褄がいい感じで合ってくるし、アレンには悪いが、今日ヴォルティス様が尋ね人かもしれないって言った時には喜びそうになってしまったな」
「喜ぶ?」
食器を洗う手を止めて、二人を見上げると本当にそう思っていたのだろう、にこやかに笑っていた。
「だってそうだろ?俺達家族を引き離そうとするような輩はいないってことなんだぞ」
「そうそう。アレンを渡す気はさらさらなかったけど、面倒な人が出てきたらヴォルティス様を使わないと!って思ってたんだから」
「お義父さん、お義母さん…」
やっぱり不安に思うことなんてなかったんだと改めて実感した私は、それはもう嬉しくなった。
二人にこの気持ちを伝えたい。
そう思い、私は濡れた手をエプロンで拭いて、一番近くにいたお義父さんに…は晩御飯の用意で火を使っていたから、お義母さんに抱き着いた。
掃除中のお義母さんは驚いていたけれど、笑顔で受け止めてくれた。
「あのね、私も大好きだよ。お義母さんとお義父さんの事、すっごく大好き!」




