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無償の愛  作者: あお


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33/48

相談2_視点変更



「は?…アレン、お前それ本気いってんのか?」


俺の朝、というかパン屋の朝は早い。

パンの製造、焼成に時間がかかるからだ。

店に並べるようなパンは最近親父から、定番商品に関して俺の作ったパンも並べてもらえるようになった。

というのはこの際どうでもいい。

それよりもコイツだ。


パンを焼くために捏ねられた生地を鉄板に並べているとドタバタと閉店と表示されているはずの扉が開いて、つい最近出会った人物が飛び込んできた。

ちらりと親父を見ると、可愛がっているアレンにいい顔している。

まぁ、確かにいいやつだ。

顔もかわいいし、他の女みたいに媚びるような真似もしない。

人の言葉を受け止められる素直なやつ。

こういうやつが妹だと溺愛する兄が誕生しそうだな…って、おいおい、なに俺を貸すとか言ってんだよ。

ちょっと待てや。

まだこれから焼き始めようと思って…!

反抗しようにも、首元を掴まれて店を追い出される。

くっそー。


店の裏にアレンを連れていく。

厨房が裏側にあるからパンのいい匂いが漂ってくるから、鼻がひくひくと自然に動いた。

ああ、いつも通りいい匂いだ。


で、アレンの話ね。

聞くとこの前の続きの様だ。

あの時はそんな人いませんみたいな顔してるのに、今目の前で話すアレンは顔を真っ赤に染めあがっている。

っておいおい。

抱きしめられてドキドキした?

頭撫でられてドキドキした?

最初なにも思わなかったのに、なんでか最近気になるって?


「うん…、ねえおかしいのかな」

「バッ!…はぁ」


罵ろうと思ったけどやめた。

本当に不安で目が揺らいでいるからだ。

なんでかアレンには優しくしなければいけないと思わされるところがある。

あ、いや、そういうんじゃねえよ?

俺の一番はパンだから。


「お前、俺が前に言った言葉覚えてるか?」

「え?」

「“自分がいつもと違ってると感じた時、その時の自分について考えろ”そういっただろ?」


ちゃんと考えたのか?と問うと、少しおいてから首を振る。


「なんでだよ!」

「だ、だって、……わからなかったんだよ」

「は?」


沈黙して俯くアレンに、思わずため息が漏れる。

そいつの事思い出しながら鏡で自分を見ろよ。一発だ。


「…じゃあさ、お前そいつに撫でられたり抱きしめられたりされたんだろ?」

「う、うん…」

「お前の親父さんにもしてもらったことあるんだろ?」

「うん」

「比べてみてどうよ?」

「比べて?」


コクリと頷くと、アレンは首を捻って


「お義父さんは嬉しくなる…、ヴォルさんは…」

「どうなん?」

「…嬉しいけど。は、恥ずかしくなる…」

「じゃあ、そいつが他のやつにお前と同じことしてたらどうよ?」

「え…」


まるで考えたこともないという様なポカンとした顔の後、俺の言う通り想像しているのか徐々に顔色を悪くするアレンに俺は思いっきり溜息をつきそうになった。

が、堪える。

こいつ、図太そうで繊細そうだからな。


「嫌なんじゃねーの?」

「………」


コクリと、小さく頷いたアレンはもう泣きそうだった。

いや、想像しただけで泣きそうになんなよ。

俺が虐めたって思われるじゃねーか、親父に。


「もう答え出せるんじゃねーの?」

「………」

「親父さんはただ嬉しいだけで、その、ヴォルさん?にはドキドキして恥ずかしい。でも他のやつには同じようにしてほしくない」


答えはしないが頷くアレンの頭に手をのせた。

触り心地のいい髪の毛。柔らかくてふわふわしている。

…なんでだ?

いや、今はこっちを解決しないとだな。


「もう簡単だろ?ヴォルさんって人のことを、お前はどう思ってるのか」


そうして少しの沈黙の後、小さな声でぼそりと呟くアレンの言葉を一言も聞き漏らすことなく拾い上げた俺の耳は素晴らしい。


「す、好き…」

「ほら、答え出たじゃねーか」


真っ赤な顔でコクリと頷く。


(やっとわかったかこいつ)


「つーか、お前にそういう態度とるってことは相手も…」

「言わないで!」


赤い顔のまま言葉を遮るアレンに驚いていると、我に返ったようにごめんと呟いて俯いた。

アレンの茶色い髪の毛が、耳から落ちて顔を隠す。


「思わせぶりなことする人じゃないって思ってる。けど、私自信ない…」

「自信?好きになる気持ちに自信が必要……、あぁ~付き合うってなったら、そいつに釣り合わないって思ってんのか。

だから自信がないと?」


思わずニヤニヤと口元が緩んでしまうが仕方がない。

だって面白いんだから。

誰誰が好きだの、どう思ってるんだの言ってる女子たちの会話を遠巻きにみたこともあったが、実際にこうして話していると面白いもんだ。

あの時楽しそうに話してた女子たちよ、すまんな。

今なら気持ちがわかる。


「自信がねーのは、自分に出来ることがないって思ってるからだ。

お前今親父さんに料理教わって、しかも好きなやつに魔法も教えてもらってんだろ?なら、今やってることを一生懸命頑張ってみろ。

今出来なくても頑張れば頑張る分結果がでる。結果が出ればその分お前の自信に繋がるだろ?」

「そ、それでも自信が出なかったら?」

「そしたら次だ!他の事にもチャレンジしろ!自分の経験が増えればそれだけで十分な自信に繋がるんだからな!」

「コクリ君…」


目に輝きを取り戻したアレンに俺は笑う。


「で、好きな人が出来たアレンに聞きたいんだが」

「す、好きな人ってっ!」

「あー、そういうのいいから、…で!」

「あ、うん。なに?」

「なんで髪の毛そんなにふわふわしてるんだ?」

「へ?」


目を丸くするアレンだが、本当に不思議だった。

貴族ならば高い金でもはらって、石鹸をや香油を使っていると思うが、平民はそういったものはない。

いや、あるにはある。

王都に近いこともあるし、貴族もいる町だ。

高価なものも取り扱う店はあるから、金に余裕のあるやつは買っているだろう。

だけど普通の平民は特別な事でもない限り買うことはない。


森の中に石鹸と似た効果を持つ植物もあると聞くが、森の中に入らないといけない場所で、そこら辺の雑草とは違うのだ。

しかも例え手に入れたとしても加工しなければ洗浄力が強くて余り使い物にならないときいた。

つまり平民はくしでゴミを落とし、湯で汚れを落とすしかない。

そんな中アレンの柔らかい、ふわふわしている清潔感あふれる髪の毛を見て不思議に思ったのだ。

つーか、こんなふわふわな髪をしているのに自信がないとか意味がわからん。


そこで尋ねるとなんと、炭酸水といわれる泡が発生する水で洗い落とす方法と、たまに小麦粉を使用した小麦粉シャンプーなるものを作っているらしい。

炭酸水はお菓子作りでも使用している重曹に、く、くえーさん?だかというものを加えて作るそうだ。

重曹は鉱石屋で重曹が含まれる鉱石を購入しているから、アレンがいうく、くえーるさん?というのもあるだろう。

そういってたし。


また小麦粉シャンプーは、小麦粉と水を1対9ぐらいで混ぜ合わせ、弱火のまま、小麦粉が玉にならないように混ぜる。

小麦粉が解けて、とろみのある液体を覚まして使うらしい。

他にも、塩がたくさんあれば塩シャンプーもあるけど、でも塩よりは小麦粉の方が手に入りやすいことから、アレンは小麦粉シャンプーなるものを作っているらしい。


どこでそんな知識を手に入れたのか知らないけど、いいこと聞いた。

別に今のままで不便はなかったけど、目の前に綺麗な髪の毛があると、真似したくもなるだろう。

それに小麦粉ならばたくさんある。

親父がだめだというのなら、床に落ちてしまった小麦粉を使えばいい。

早速今日から試してみよう。



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