初めてのお呼ばれ_一部視点変更有
そして更に3日が経ち、ヴォルティスさんとの約束の日。
お義母さんに選んでもらった服を着て、一人先にご飯を食べて、そしてまだ来なかったこともあって洗濯を干そうと裏に行こうとしたところで、チリンチリンと来客を知らせる音がなった。
ヴォルティスさんのことだから開店時間を考慮してくれたのだろうと思う。
「おはようございます、ヴォルティスさん!」
「おはよう、アレン」
朝からキラキラ輝く笑顔を向けられ、私は思わず太陽を直視したような眩しさを感じて目を瞑る。
「ヴォルティス様、アレンをよろしくお願いします」
深々とお辞儀をするお義母さんに、お義父さんは「少しいいだろうか」とヴォルティスさんに近づいた。
「陽が暮れる前に送り届けますよ」
そう告げるヴォルティスさんだったが、お義父さんが話したいことは別件だったらしく二人はこそこそは話をしだす。
小声で会話は聞こえない為、お義母さんと共に首を傾げていると、もう終わったのか、ヴォルティスさんが私の方にやってきた。
「ではアレン行こうか」
私に向かって手を差し出すヴォルティスさんは、その見た目もあって絵本に出てくる王子様みたいだった。
差し出された手に自分の手を乗せると、そっと優しく握られた。
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カランカランと音を立てて、騎士のヴォルティスさんとアレンが店を出ていった。
ガラス窓から見えなくなるまで手を振るアレンに、俺たちも手を振って見送る。
そうして見えなくなったところで、サリーナが残っていた洗濯物を干すために二階に駆け上がっていった。
(…ヴォルティスさんのいう事が本当なら、俺たちはアレンの"前"の親を探すわけにはいかねーな)
朝早くにやってきた騎士_ヴォルティスさん_がアレンを伴い店を出て行こうとしたところで俺は引き止め、声を潜めてこういった。
『アレンが言っていた白い”うさぎ”について何かわかりましたら教えてほしいのですが』
俺と同じぐらいの背丈のヴォルティスさんは、必然的にその整った顔立ちが俺の真正面にくる。
サリーナが好きな俺としてはときめくことはないが、自分の息子_レイン_を思うと複雑な気持ちになった。
眉を顰め顔を歪めるヴォルティスさんを促すと、待たせているアレンを気遣ってかすぐに声を潜めたまま話をした。
『白い小さな魔物、アレンはあれを”うさぎ”と呼んでいたが、正式名称は“セオン”と呼ばれる魔物の可能性が高い。
敵意を向けなければ襲われることはないが、敵意を少しでも見せると狂暴な姿に変化するといわれている。
そしてもう一つ。これはあまり口外してほしくないことなのだが…』
そういって話すことを躊躇うヴォルティスさんに、俺は口外しないことを約束した。
『セオンには、人の記憶を抜き取る能力があるといわれているのだ』
『!で…、ではアレンは…!』
『ただの記憶を抜くだけならば、私とて愛するアレンの記憶を取り戻すために行動する。
だが、あの時あの場で伝えなかった理由は、私の記憶に確証が持てなかった事、そして…セオンがただの記憶ではなく、その人物にとっての嫌な記憶を吸い取る。と言われていた為だ』
『い、嫌な記憶…?』
『思い出したくない、忘れたい、なくしてしまいたいと強く願うほどの記憶だ。
アレンは森でさまよっている中、おそらく頭に衝撃を受けたのだろう。身動きが取れないほどの痛みと言ってたからな。
その時の影響で一時的に”おじさん”の事も思い出せなかったと思われる。
だがそれ以外の部分は?ただの記憶喪失であるなら、思い出したくない記憶を無理にでも思い出そうとした際、体が拒絶反応を見せるだろう。
でもあの時思い出そうとしたアレンには、そういった反応は全く見せじ、ただ困惑しているように見えた。
私は、アレンにとって負の遺産になるような記憶を、セオンに吸い取られたのだと考えている。
そして、アレンが忘れてしまいたいと思っているような悪い記憶を、私は取り戻したくはないとも、思っているのだ』
『!』
『勿論疑問に思う点がいくつもある限り、調査を打ち切りにすることはしない』
ちらりとヴォルティスさんの目線が動く。
視線の先にはアレンがいて、サリーナと共に俺たちを不思議そうに首を傾げているところだった。
『奥さんと話し合ってほしい。そして私と考えが同じであることを祈っている』
口早にそう伝えたヴォルティスさんは、俺から離れ、アレンの元に向かう。
アレンの手を取り、優雅な仕草で立ち去る後姿を俺はサリーナと共に見送った。
なんとも言えない感情が沸き起こるのは可愛い娘が旅立ってしまう未来が近いからなのか、それともヴォルティスさんにいわれた魔物についての衝撃か。
俺は手早く開店準備を進める。
ヴォルティスさんは言っていたな。
”陽が暮れる前に”と。
つまりそれは、俺がサリーナに話をする猶予が、この開店までの間の時間だとということだ。
アレンは聞き耳を立てるような子ではないが、それでもアレンがいる家の中で、こんな話はしたくなかった。
かといって営業中は他の客の目もある。
手早く準備を進めていると、洗濯物を干し終わったサリーナが二階から降りて来た。
「サリーナ、話があるから、そのまま準備しながら聞いてくれ」
本来ならば、こんな大事な話はちゃんと向かい合って話したかったが、仕方なかった。
なにしろ時間がないんだからな。
不思議そうに手を動かしながらも耳を傾けるサリーナに、俺はヴォルティスさんから告げられた話を伝えるために口を開いた。
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「アレンは貴族区に入るのは初めてか?」
ヴォルティスさんと一緒に貴族区に向かって歩いていると、ふわりと微笑まれながら聞かれる。
「はい。貴族に知り合いはいませんので」
「これから入るところは貴族区でも騎士団の領域だから問題はないが、それでも何かあった場合に対処できるよう私から出来る限り離れないでもらいたい。
いいか?」
何かあった場合ってところに引っ掛かりを持つが、「はい」と頷いた。
役所で手続した時も1年の間は私が何かの事件に巻き込まれたとしても、処罰が重くなると聞いている。
大人しくヴォルティスさんのそばにいたほうが、なにかと迷惑を掛けずにすむし、第一初めての場所で一人でうろうろして迷いたくない。
それにしても陽があるといっても、まだ朝早い時間の為どのお店も閉まっているから、静かな通りを歩くのは何かと新鮮だったなと思い出していると貴族区に辿り着く。
街の中心部に位置しているが貴族区は平民と完全に分かれている。
塀が設けられて、門の両端に騎士の格好をした人が守るように立っていた。
ヴォルティスさんによると第三騎士団の人らしい。
第三騎士団の人は町の門番に配属されている人達で、外で異常が発生した場合一早く対処する騎士だ。
ヴォルティスさんのいる第二騎士団が駆け付けるまでの間の対処と、街の人たちの避難指示を担っているらしい。
だから貴族区へ続く門も第三騎士団が担当している。
門番さんにヴォルティスさんが話しかけると閉じていた門が開いて、私はヴォルティスさんに続いて貴族区に入った。
騎士寮は門から近く、塀に面したところに建てられていた為、然程門からの距離はなかった。
そして騎士団長と副団長に関しては、同じ寮内ではなく、すこし離れた場所にそれぞれ建てられていた。
周りにある貴族の家ほどの大きさはないにしても、お店ーイートーより十分大きいその建物が団長と副団長の為だと思うと、唖然とする。
何故別の建物なのかというと情報漏洩が以前あったとかで、その対策らしい。
それにしても大きいし、広い。
「歩かせてばかりですまない、疲れたか?」
「いえ!全然疲れてないので大丈夫です!」
これは本当だ。
ヴォルティスさんより背が低い私を気にして、私に歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれる。
だから気にしないで欲しいとへらりと笑うと、安堵したかのようにほほ笑まれて、門のところから離れていた手を再び繋がれた。
大きな手に包まれる安心感はあるけれど、なんだかドキドキするのはヴォルティスさんが私服だからかわからない。
「あ、あの…?」
「迷子防止だ」
それは人混みの中に飛び込んでいこうとする子供に対していうセリフじゃないんですか?
ま、いっか…?とあまり深く考えずに、ヴォルティスさんの隣を歩く。
団長の為の建物だから、周りに人もいないし。
少しドキドキしているだけで、ヴォルティスさんと手を繋ぐのが嫌だと思ってないから、気にすることじゃない。




