第五話 ブラックサキュバス降臨
赤い眼鏡をかけたソルイグニスの佐藤 風化と一緒に買い物に来ている。
臨海新都心として急速に発展を遂げている東京の第27番目の区がここである。
つまり最新スポットが目白押しであり、人、人、人だらけだ。
一通り買い物を終えた(全部風化さんの洋服なんだけど……)て、マジカル♡キュアドルのオブジェクトが立つ公園に来ている。
勿論、風化さんがマジカル♡キュアドルこと、ソルイグニスだと周囲の人たちは気が付いている。
しかし、警察官やら警備員が私達に一般人を近づけさせない。
そして、風化さんの隣りにいる私の事も注目されている。
「あの子、新しいマジカル♡キュアドルのメンバーなんじゃない?」「めちゃタイプ」「究極のロリっ子」「お持ち帰りしたい!!」とか、言いたい放題言われている。
注目を浴びるということは、それなりの覚悟と精神力が必用だと気付く。
もしも、ここでオナラなんかしたら……。
こんなに注目されていたら、オナラじゃないにしてもどんな失敗も出来ない。
有名スポットなんだから、取材中のカメラクルーやらレポートやらが近くにいてもおかしくない。
騒ぎを聞きつけ、ちゃっかり撮影を始めている。
「フフ。あれは6時のニュースの取材よ。いきなり全国区ね」と風化さんがプレッシャーを与えてくる。
「か、帰りましょう!! 今すぐ!!」
「何を言っているの? まさか遊びに来たとでも思っているの?」
いきなり風化さんが、クイッと赤い眼鏡を正して、怖い風化さんモードになる。
「え……」
「今すぐ、ここで、ブラックサキュバスに変身しなさい!!」
頭の中が真っ白になる。
この人……何言ってんの!?
「希望と勇気を守る正義の使者であるマジカル♡キュアドルは、どんなときもマジカル♡キュアドルなの。皆のアイドルなのよ。ここに集まってくれた人たちに応える責務があるの!」
責務……。
そのキーワードを聞いた途端、体の中の魔力が活性化するのがわかる。
魔法少女の行動を制御するよな……まるでレールが敷かれているような……。
予め組み込まれているような……何か。
抗えない。
恥ずかしいという感情より、理性より、魔法少女の何かが、マジカル♡キュアドルに変身しろと迫ってくる。
勝手に足が動き、風化さんの数歩前に出る。
歩く毎に……追従してくる足元の魔法陣のルーン文字が増えながら黒く輝く。
膨大な光が、その場に留まっていられないと、弾けるように……黒い太陽みたいに輝く。
「希望と勇気を守る正義の使者、マジカル♡キュアドル!!」
はち切れんばかりの恵体にほぼ全裸のような衣装をまとった小さなロリっ子のブラックサキュバスが姿を現すと、暴徒と化した一般人が少しでも近くで見ようと警察官などの壁を突破して近づく。
ブラックサキュバスは、17年前に土方 のぞみが担当して以来、世界中でも出現しなかった幻のマジカル♡キュアドルなのだ。
近づく暴徒をソルイグニスに変身した風化さんが、バリアで防ぐ。
そして、風化さんがオリジナルのダンスを披露し始めると、周囲もそのダンスにつられて数千人が一体感のある一つの芸術になった。
やはり本物は違う。
ソルイグニスの佐藤 風化につられて、私も狂ったように踊り続けた。
♂ ⇒ ♀
「スゲーな。これが初変身かよ。ブラックサキュバス見た瞬間に襲い掛かってきてんじゃねーか……」
ソファーに寝転がってTVを観ていた金髪ハーフの花見 アナスタシアは目を細める。
「危険ね。一刻も早くブラックサキュバスの力を制御できるように訓練させる必用があるわ」
清純派の佐々木 美月も深刻そうな表情でTVに釘付けになる。
「だが流石風化だな。一瞬で場の雰囲気を変えやがった」