第四話 アイドルの資質 後編
「凄いわ。魔法水を全部……体に取り込んだの?」
クイッと赤い眼鏡を正した佐藤 風化が、空っぽのビーカーの底に倒れている、わ、私……を見て驚いている。
体中に力が漲っているけど、自分の体なのに使い方が全くわからなくて、喋ることも立ち上がることも出来ない。
「おいおい、コイツ……ブラックサキュバスじゃん。土方姉さんの再来だぞ?」
いつも私を小馬鹿にしている花見 アナスタシアが驚く。
ふふ、何が何だかわからないけど、してやったり感がある。
「お、おっぱいが……」
狭山 杏の言葉に全員の視線が私の胸に集まった。
「肉体が変化したとい言うの?」
ブルームーンの佐々木さんが驚いている。
私は体の動かし方、つまり魔法の扱い方を佐々木さんから教わり、どうにか歩く程度には体を動かせるようになった。
しかし、意識が……自分を女の子だと認識している。
つまりは、男だった自分は過去の記憶として、今では女であることが当たり前になっている。
そんな事を悩んでいたら、「多分、体が魔法水で分解されて、再構築される時、あるべき正しいカタチになったのよ」と佐々木さんが教えてくれた。
♂ ⇒ ♀
それにしても酷い格好だ。
リ●のカーニバルを思い浮かべて欲しい。
その中でも一際目立つ、ほぼ全裸のような格好が……ブラックサキュバスの衣装なのだ。
というか、衣装というのもおこがましい。
「こんなの恥ずかしくて無理」
と口では言っているが、心の中では……もっと見て欲しい。
どうしたら……この体の魅力を皆に伝えられるのだろうとか考えていた。
そう……衣装に合わせて胸やお尻まで肥大化している。
こんなの小学生の体じゃない。
だから素敵。
そして、踊っている最中に、胸がぽろりとか、衣装の一部が外れて、恥辱を味わいたい。
何やら思考が危ない方向に傾いてくので変身を解くと、服を着ていなかったため全裸になる。
しかし、いつもどおりのツルペタな胸に戻った。
「よかった……」とピンキーレインボーこと狭山 杏の小さな呟きが聞こえた。
♂ ⇒ ♀
佐藤 風化さんから、風化と呼んでと言われた。
その風化が作ってくれた夕食なんだけど、ブラックサキュバスで人前に出ると思うだけで、食欲が無くなる。
簡単に言えばブラックサキュバスのときは露出狂で、今は至って普通の感覚で恥ずかしすぎると泣きそうになる。
「最初だけだ。いざ人前に出ちまえば、注目される快感が忘れられなくなる。だから飯はきちんと食べろ」
珍しくアナスタシアが慰めてくれる。
いつも憎まれ口を叩いているのに、急に優しくするなんて狡い。
嬉しくて涙がこぼれた。
「オイオイ……」
「アナスタシアの言う通りよ。安心して」
佐々木さん……いや、美月お姉さんに言われると信じるしか無い。
♂ ⇒ ♀
用意された自室で、一人ブラックサキュバスに変身する。
スタンドミラーで見た、その容姿は妖艶でエロかっこよかった。
「私って……凄く美人で可愛い。それにこの胸の大きさ……」
自画自賛である。
しかし、自分で自分に惚れてしまう程に、完璧な容姿だ。
「でも、魔法少女って……どんな魔法が使えるんだろう?」
変身できる時点で、凄いとは思うけど。
まぁ、明日からは魔法少女の訓練だと言っていた。
明日になればわかるのかな?