第一話 初恋の女の子
何も出来ないまま、清純派ブルームーンの佐々木 美月自宅に送迎された。
花さんの事を何か言おうものなら、頭ごなしに半分以上説教が含まれたキツイ言葉で論破される。
元高校生の私でも、全く歯が立たない。
終いには悔しくて泣いてしまった。
マジカル☆ウィッチのアイスクィーン北条 明里は我関せずのポーズを死守している。
「花のことは忘れなさい。花のことで貴方が気に病むのは間違っています。マジカル♡キュアドルである前に、小学生だということを忘れないで」
玄関先で、送迎のお礼を言って別れる。
しかし、泣き顔のまま家に戻れる訳がない。
何となく行き先も決めないまま歩いていると、小学校に辿り着いた。
「そう言えば、男の子のときって、街のサッカースクールに通ってたよね」
フェンス越しに校庭を見れば、夢中にサッカーボールを追いかける幼馴染の石垣 京介の姿があった。
「アイツ……私を過去に戻して、女にして、無邪気にサッカーなんて……」
小学生の高学年なら、成長の遅い男子よりも成長の早い女子の方が体力も筋力も上である。
乱入して負かしてやろうかと考えたが、ビーストと戦っているときに実感したのだけれど、この体は運動に向いていない。
「帰ってきたの?」
声をかけてきたのは、サッカークラブでマネージャーをしている同級生の進藤 すずだ。
すずちゃんは、六年の城島 仁の事が大好き。
それは誰も見ても一目瞭然だ。
「うん。ついさっき帰ってきたの」
「泣いてた? なんか辛いことあった?」
細かいところまで、よく見ている。
「うん。ちょっとね……」
「マジカル♡キュアドルの大変さは本人しかわからないかも知れないけど、私で良ければ何でも話してね」
この優しさだ。
男の子とき、試合に出れなくて悩んでいた頃、この優しさに救われ、そして……初めての失恋を経験した。
「ありがとう。でもマネージャーも大変でしょ?」
「大変だけど、友達が悩んでるんだもん。何かしてあげたいと思うのはへんかな?」
ぐっ!?
元男子だった頃の淡い恋心と、可憐さんに引き出されてしまった百合の感情が爆発する。
「どうしたの!? 一人で抱え込まないで」
花さんの悲しみ、すずちゃんの純粋な優しさ、この世界での自分の無力さに、涙が溢れ出た。
クラブのコーチやら見学に来ていた親たちが異変に気付き、ブラックサキュバスの心が折れている事が知れると、ベンチで休ませた方がいいだの、自宅に連絡した方がいいだの、学校の専属カウンセラーを呼んだ方がいいだの……慌ただしくなってきたので帰ろうとしたが、すずちゃんが家で話しを聞くと言い出した。
進藤 すずの自宅は、私も何度か家族で来たことがある地元でも有名なイタリア料理店だ。
「座って」
「うん」
すずちゃんは無理やり話しを聞き出そうとはせずに、暗記しているのかお店で出している飲み物を一つ一つ言い出した。
「凄いね。全部覚えているの?」
「ふふっ。片付けのお手伝いをしていると、どの棚に何があるかで、覚えちゃったの。今のおすすめは……珍しくないけどミックスジュースなの。契約した農家から産地直送で送られてくるフルーツだから、すごく美味しいの。飲んでみて」
おすすめがあるのなら、メニューの一覧は何だったんですか? というツッコミはおいておいて、素直に頷く。
何のフルーツが入っているのかよくわからないミックスジュースを飲みながら、すずちゃんから転校していない間の学校での出来事を聞いている。
あれ?
私の心をほぐしているのかな?
すずちゃんの声や、話し方、会話の内容、表情、全部がすごく居心地がいい。
一旦話しが尽きると、私をチラチラ見ながら言い難そうに、すずちゃんがお願いしてきた。
「あ、あの……ブラックサキュバスの姿が見たい……駄目……かな?」
こんだけ親身になってくれているし、別に出し惜しみすることもないのだけれど。
「多分、この距離でブラックサキュバス見ると、誘惑されちゃうかも……」
「そうなの……残念……」
「ごめんね。清純派のブルームーンだったら良かったんでけど」
「違うの! ブラックサキュバスが……いいの! ブラックサキュバスの全てが知りたくて……」
あれ? ただの熱烈なファン?
特定の人物を優遇するのはよろしくないけど。
「希望と勇気を守る正義の使者、マジカル♡キュアドル!!」
座ったまま変身することもできたけど、やはりアイドルとして憧れてもらうためには、ここは完璧に変身モーションを見栄え良く見てもらう必用がある。
「!?」
「ど、どう……かな。同級生に見られるのは、ちょっと恥ずかしいけど」
肉体までも変化を及ぼすブラックサキュバスのマジカル♡キュアドル化。
「触っていい?」
「え!? さ、触りたいの?」
「うん……」
「うーん。じゃ、約束して。誰にも言わない。余りエッチなことしない。これが最初で最後」
余りエッチなことしないってのは、ちょっとはエッチなことして欲しいってことだ。
すずちゃんは、遠慮せずダイレクトにムチムチのおっぱいに手を伸ばしてきた。
私もお返しとばかりに、すずちゃんの服の中に手を……。
《おっと、久しぶりっす。【なろう規制守るくん】です。ノクターンじゃあるまいし書ける訳がない。この先に起こった出来事は見事に隠蔽化させてもらうぜ!!》




