第十話 隠された素性
花さんがマジカル☆ウィッチに変身したため異空間にいる。
その異空間に――
「嘘だろ……花……。冗談だよな……」
悲しそうな可憐さんの声だ。
でも花さんなら、一瞬で私を焼き殺すことが出来るため、まだ安心できない。
「観念して花」
「どうしてですか? 何故、わかったのですか?」
「単独ライブのため杏と愛が離れたときチーム分けで可憐を付けたのは偶然だった。序列8番目の花と私が組むのがベストだったからな。しかし、嫉妬深い花が、可憐が熱を上げている相手に何も感情を示さない事が気にかかった。それに花と続けた巡回でも、来るのが理解っているかのように、まるでビーストたちの手応えが無かった。それなのに……最初はブラックサキュバスだから……。新参者で実力がな無いから狙われていると思ったが、驚くことにハンターまで出て来て、ピンポイントで可憐たちを襲った。それを撃退したのは花だけど、情報を引き出さずに全員焼き殺すなんて……激昂していても、やり過ぎだったわね。また生徒の出席を調べてるという花のアイデアも、原田 翔がビーストロードだというミスリードを誘うためでしょ? 一度、疑ってしまえば、一つ一つが小さな疑問に変わり、調べてみればマジカル♡キュアドルに反発するあの教師も学校を休んで……」
「そうよ、私の父。ブラックサキュバスのマジカル♡バリアの影響で校内に入れないから、インフルエンザということで学校を休ませた。そして私もハンター。ハンターなのにマジカル☆ウィッチに選ばれるなんてね……」
花さんが橘さんに意識を向けている時、私は愛ちゃんに救出される。
「大丈夫ですか?」
「うん。ありがとう」
流石マジカル☆ウィッチ、右腕に嵌められた金属製の腕輪をいとも簡単に粉砕する。
そして、真っ裸だと恥ずかしいから、ブラックサキュバスに変身する。
でも、あまり変わらないけど……。
つまり橘さん達を長阜県に呼んだことで、より複雑になってしまったということ?
花さんは、父親がビーストロードで、自信はハンターで、マジカル☆ウィッチ……。
「この子を餌にして……いない……くっ、どの道あなた達は死ぬのだから、今はそこで勝ち誇った顔でいればいいわ」
私が愛ちゃんに救出された事にやっと気が付いた花さん。
案外いっぱいいっぱいなのかもしれない。
「で、どうするつもり? 私をここで殺すの? 私達に勝てるかしら?」
私達?
あの口うるさい教師が花の隣に数十体のビーストと共に転移いてきた。
「ビーストロードである父とまともに戦えるのは、橘さんだけ。可憐は私と戦うしか無い。そして、愛がこのビーストの群れを捌き切れるはずがない。ふふっ。可愛そうだけど、三人にはビーストに噛み殺されてもらうわ」
数体のビーストに殺されそうになった愛ちゃん。それが倍以上の数のビーストに勝てるはずがない。
「愛、勝つことよりも、マジカル♡キュアドルを守ることに専念しろ。1分、1位分だけ耐えてくれ」
「俺を1分で倒すだと? これだから現実が見えていないガキは嫌いだ」
橘さんは、わざとビーストロードを挑発するように言った。
私だって、成長している。
変身しなくても、マジカル♡バリアを展開するくらいはマジカル♡キュアドルに慣れてきている。
シールドだって、右手と左手で2つ作れる。
だけど……。
このビーストの数じゃ……。
「別に橘に言われたから来たわけじゃないからね。マジカル☆ウィッチに裏切り者が出たということ、そして美月が見つけ出したマジカル♡キュアドルを救うためよ」
真っ白なローブを着たマジカル☆ウィッチが、清純派のブルームーンの美月さんと現れた。
「美月さん!?」
「もう安心よ。二人共頑張ったわね。後の事は明里に任せて」
アイスクィーンと呼ばれる北条 明里は、片手を振り下ろしただけで、ビーストの群れを一瞬にして氷漬けにする。
橘さんは、上空に無数の槍を展開させながらも、手に持った槍で接近戦を挑んでいた。
可憐さんは、花さんの炎を掻い潜り、涙ながらに花さんを殴り飛ばす。
「親友同士、可憐に花を倒させると……可憐が闇落ちしかねないわね」
「美月さん、花さんは……」
「無理よ、花はハンター。心の底から魔法少女たちを憎んでいるの」
「杏、どうにかできないの?」
「出来るとしたら洗脳。でもそれって花じゃない」
「明里、三人を家まで送って。ここからはマジカル☆ウィッチの問題」
「わかったわ。でも貴方の大事なブラックサキュバスを私に任せて良いのかしら?」
「明里だから安心できる」
「調子の良い子を……。まぁ、良いわ。美月、行くわよ」
「待って!! 花さんが……」
「言ったでしょ。これはマジカル☆ウィッチの問題だわ」
美月さんが首を横に振った。




