第八話 ヘッドショット
ビーストロードと確定するだけの証拠がない。
原田 翔の自宅を訪ねてみたが、本人は雲隠れした後だった。
そんな恐ろしい相手がいなくて、ちょっとだけホッとする。
マジカル☆ウィッチの三人は、日頃の警備の疲れが溜まっているらしくガックリと肩を落とした。
「今日は午後からマジカル☆ウィッチの報告会があるから、大人しく寮にいて欲しい」
橘さんからお願いされると、嫌とは言えない。
「愛ちゃんも報告会?」
「うん」
ということは、杏と二人っきりだ。
杏に手を出してしまったら、一生チクチク言われかねない。
「丁度いい、単独ライブの打ち合わせする」
半分は私のためのライブだ。
気合を入れて頑張らないと!
♂ ⇒ ♀
杏に立ち位置、ダンス、視線など事細かに指示されるが、情報が多すぎて言われた通りに出来ない。
「ブラックサキュバスに変身して、きっと驚く」
バストのサイズに嫉妬するから杏の前では余り変身したくないのだけど……。
「希望と勇気を守る正義の使者、マジカル♡キュアドル!!」
杏の言った通りだ。
何も考えなくても、自然と体が動く。
どうすれば観客を魅了でき、喜ばせ、可愛く見せるか、ブラックサキュバスが勝手に体を操る。
「フッ。ブラックサキュバスに練習など不要ね」
違う。
これは……本心ではない。
杏、怒らないで!
「うん、完璧じゃないけど、十分……だから変身解く、魅了される」
良かった、怒ってない!!
変身を解くと、ツルペタなちんちくりんに戻った。
別にこれはこれでいいんだけどね。
だって、可愛いし。
♂ ⇒ ♀
今日は土曜日。
寮に可憐さんが突撃してきた。
「遊びに行こう!!」
可憐さんは、愛ちゃんと杏を無視して、私を連れ出す。
『エッチな事はしませんからね!』
「ばーか、今日は真面目な買い物。明日、橘先輩の誕生日なんだよ」
「そうなの!?」
「だからプレゼントを買いに行こうって」
「あれ? だったら花さんとか愛ちゃんとか誘った方が……。って、嘘は駄目ですよ」
可憐さんの心の中を覗くと、橘さんの誕生日はもっと先だった。
「ははっ。別になんもなくても、良いだろ」
「うん……」
電車を乗り継いで、長阜県でも県庁所在地の大きな街に来た。
頭2つほど背の高い可憐さんと並んで歩くと、仲の良い姉妹みたいだ。
『お姉さんも悪くないけど、彼女がいい』
『もう……そんなことばかり言わないの!』
可憐さんはギュッと手を握ってきた。
こんな街中でと思ったが、周囲にマジカル♡キュアドルだと気付かれちゃったみたい。
『流石に大人気だな』
『どうしよう……。こんなところで握手会なんて開けないし』
『任せろ』
マジカル☆ウィッチに変身した可憐さんは、周囲の野次馬からにげるように私をお姫様抱っこすると、駅ビルの屋上へとひとっ飛びする。
「いきなり……心の準備が!!」
「怖がってる顔も可愛い」
可憐さんは、からかいながら私を地面に下ろす。
「あ……」
電池が切れたように意識が消え去っていく。
「おい!! いやぁ!!」
可憐さんの叫び声が遠くに聞こえる。
地面が目の前に迫ってくるが、何も出来ない。
何が起こっ……




