第七話 ブラックサキュバスだって!
「杏て、すごい人気があるね」
転入してから一ヶ月が過ぎた。
杏のまわりには、恋に恋する乙女たちが群がっている。
「はい。愛と勇気を司るマジカル♡キュアドルですから。ですが、恋は必ず成就するわけではありません」
「そうなの?」
「相手がいての恋ですから。相手にも好みや事情があったりします。それを捻じ曲げて付き合うように仕向けるのは洗脳です」
誘惑と解放を司るブラックサキュバスにとって痛い言葉だ。
「じゃー、杏は何してるの?」
「愛とは何かを教えたり、告白できるように自分のアピールポイントを磨かせたり、勇気を出すように背中を押したりですね」
「ふーん……」
「取り敢えず、恥ずかしいので手を離してもらえませんか?」
「えー。女の子と触れ合っていたいの」
「可愛く言っても駄目です。それに私は……」
「杏が好きなんでしょ?」
「ちょ!? そ、それを何故!?」
「こう見えてもマジカル♡キュアドルでブラックサキュバスだよ。そのくらいわかるよ。それに愛ちゃんのこと襲う気になれば、とっくにブラックサキュバスの誘惑で落としてるから。私は女の子と触れ合えるなら誰でもいいの」
「んー。複雑な気持ですね……」
♂ ⇒ ♀
男子とは距離を置き、女子からは冷たい目で見られる私。
でも、隣の飯島 紗耶香さんとは仲良しだ。
「今度の土曜日県大会の予選なの」
紗耶香さんは陸上部なのだ。
「俺も……だけど補欠なんだよな」
後ろの席の長岡 大介が話に混じってくる。
大介はあからさまに第二次性徴を迎えていない。
だからなのか、性や恋に興味がまったくなく、そのため私のことを性的ないやらしい目で見ない。
そんな大介だから、普通に話せる。
でも私と話せる唯一無二の存在である大介は、男子たちから嫉妬されることが多い。
「中学生って大変なんだね」
「そうだよ、中学生になったら何の部活に入るつもりなの?」
「えー、なるべく目立たないよに、文化部かな?」
「そうかー。意外とユニフォームって露出度が高いからね」
「そんなの気にするなよ。逆にどうどうと水泳部でいいんじゃね?」
「大介、エッチ」
「エロ大介」
「な、何だよ……」
♂ ⇒ ♀
と、全く役たたずのブラックサキュバスだけど、橘さんの作戦にちゃんと参加している。
「あの鬱陶しい先生いなければいいね」
「アイツ、駄目」
「二人共、そんなこと言わないの」
愛ちゃんにたしなめられながら、職員室に入る。
「出席簿、閲覧したい」
「どうぞ、でも一応私の目の前で見てね」
若い女の先生は、ピンキーレインボーの大ファンで、杏の言う事なら何でも聞いてくれた。
各学年の出席簿を三人で手分けして調べる。
「やっぱり、この原田 翔って生徒があやしいですね。丁度、一週間休んでます」
「でも彼、今年殆ど学校来ていない」
橘さんの提案で、学校を覆うようにマジカル♡バリアを一日中展開することになった。
それもビーストロードから見つかりやすいように堂々と。
つまりマジカル♡バリアで発見されまいと学校に来ない生徒がビーストロードの可能性が高い。
「明日からはマジカル♡バリアを展開させない予定なので、そのとき原田 翔が登校していたら……」
「間違いないですよね」




