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マジカル♡キュアドル!!  作者: きっと小春
第ニ章 長阜県のビーストロード編
16/23

第五話 狭山 杏という少女

 ビーストの現場には橘さんたちが行っているはず、だから私達の行く場所は――


「誰もいませんね」

 マジカル☆ウィッチに変身した愛ちゃんが、放送室から出て来る。

《職員室にビーストの情報が来る前に放送があった》

 この事実に気が付いたのは、悔しけど杏だ。

「橘さんの所に行く?」

「駄目。それ敵の狙いかも」

「危険です。私の力ではビーストロードから二人を護れません」

 愛ちゃんは、俯いてしまった。

 自分の力の無さに自信を失い掛けているのだ。

「教室に戻りましょう」


 ♂ ⇒ ♀


 結局、その日は何も進展がなく、橘さんたちは帰って来なかった。

「ソレはソレ、コレはコレ。つまりコレ」

 杏は一枚の紙をテーブルに置いた。

「長阜県転入記念・ピンキーレインボー単独ライブ?」

「違う。資料は最後まで読む」

 えっと……。

「単独ライブ(ブラックサキュバスを添えて)……えっ? 無理、無理、無理、無理、無理、無理……。ライブなんて絶対に無理!!」

「何言ってるの? マジカル♡キュアドルの役割を放棄する気!? 馬鹿にしないで!!」

 杏が別人のように凄い剣幕で怒り出した。

 必死に愛ちゃんがなだめている。

 でも役割とか言うんだったら、他のこともしっかりして欲しい。

「わ、わかったわよ……。やったこと無かったから自信がないだけ。そんなに怒らないで」

 涙目の杏はベッドの下からいろいろ取り出す。

「マジカル♡キュアドルに変身すれば勝手に体は動く。でも心配ならこのDVD観て」

 杏と愛ちゃんはお風呂に行ってしまった。

 一人になりたかったので、渡されたポータブルDVDプレイヤーを観ることにした。


 去年出来たばかりの臨海新都心アリーナ。

 地響きのような声援の中、スポットライトが次々とマジカル♡キュアドルをステージに浮かび上がらせる。

 その中央に巨大なステージがあり、そのステージには、卒業してしまった7人の魔法少女と今のメンバーがいた。

 清純派のブルームーンの美月を始めて見た時、そのオーラに圧倒されたけど、卒業した7人はもっとアイドルのオーラが出ていた。

 歌、ダンスは勿論、仕草、表情、すべてがアイドルの頂点だった。

 怒涛の5曲が終了して、私もほっと一息つく。

 ちょっとしたトークを挟み、また曲が始まる。

 でも卒業ライブだから現役のマジカル♡キュアドルたちは余り映らない。

 それでも、バックで踊る……杏の姿に衝撃を受けた。

「まるで別人じゃない!!」

「杏は、マジカル♡キュアドルの本質を体験してもらいたかったの」

 いつの間にか隣に湯上がりの愛ちゃんがいた。

 濡れた髪を後ろに一つにまとめており、ちょっと大人の雰囲気だ。

「どういうことですか?」

「杏は、大勢でいれば……この通り、凄いパフォーマンスを発揮できるけど、引っ込み思案で一人では何も出来ない。でもブラックサキュバスにも、あのステージを……興奮を体感して欲しいと、私にだけ……言っていたの」

「杏って……私の事……嫌いなんじゃ……」

「そんな事ないわ。この長阜の件だって、仲良くなりたいから……そうだよね。誘い方とか全然駄目だったわね」

「もしかして、わ、私のために単独ライブを!?」

「うん」

「愛ちゃん!? 杏は何処にいるの?」

「えっと、長湯なんで……まだお風呂に入っているとかな」


 寮の廊下は走ってはいけないが、全力で浴室に向かった。

 丁度、お風呂から上がってきた杏を見付け、そのまま抱きついた。

「杏、ごめんなさい。私……全然子供だった……」

「苦しい……。それに裸、ちょっと恥ずかしい」

「あっ……ごめん」

 杏はバスタオルで体を隠しているけど、ちょっとエッチでとても綺麗だった。

「うぅ……。愛が余計なこと言ったんでしょ?」

「うん。でも、何も気付かなくて、杏のこと……嫌なやつだなって……」

「仕方ない。皆にそう思われてる。だけど、どうして良いか解らない」

「もっと話そう。沢山話そうよ」

 裸になって、杏をまた露天風呂に誘った。

「タオルで隠して、見るのも見られるのも恥ずかしい……」

「杏なら気にしない」

「わ、私が気にするの!」


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