第三話 敗北
愛ちゃんがビーストを退治しに向かって20分くらい経過した。
しかし、愛ちゃんが帰って来ない。
「希望と勇気を守る正義の使者、マジカル♡キュアドル!!」
別に巫山戯ているわけじゃない。
変身すると必ず自動で口走るのだ。
「待つ。これはマジカル☆ウィッチの仕事」
「杏、でも……遅すぎるわ!」
杏の制止を振り切り、校舎に向かって走った。
いつでもマジカル♡シールドを展開できるように気持の準備をする。
校舎の中に、愛ちゃんの姿を見けられなかった。
「何処?」
校舎の二階から、異世界に包まれている体育館が見えた。
「あそこに、愛ちゃんが!!」
渡り廊下を走り、体育館に近づく。
すると中からビーストの唸り声が聞こえた。
体育館の壁の下にある小窓から中の様子を伺う。
「えっ!? 愛ちゃん!!」
複数のビーストが、愛ちゃんの四肢に噛みつき引き千切ろうと引っ張り合っていた。
無意識に体育館の扉に手をかけ、「マジカル♡セクシー!!」とビースト達を誘惑する。
これは前回ビーストを胸に押し付けたのが、危険極まりないと怒られたため、必死に考えたオリジナル技だ。
つまりちょっとエッチな格好で誘惑するのだが……。
「駄目……逃げて……」
よく見れば愛ちゃんの手足が、絶対に曲がってはいけない方向に曲がっている!?
5匹のビーストがマジカル♡セクシーに釣られて、愛ちゃんを放り投げ……私に向かってくる!?
「マ、マジカル♡シールド!!」
対戦車砲も弾き返すと言われている程強力なマジカル♡シールドは、先頭のビーストの突進を止めるが、残った四匹はマジカル♡シールドを避けて、こっちに向かってくる。
「ど、どうしよう!?」
咄嗟に、橘さんの事を思い出し……召喚した。
「ギャイン!!!」
いつものように一陣の風が吹き、目の前には真っ赤な魔女ローブを着た、大きな槍を持つ魔法少女が現れる。
そして、ビーストたちが吹き飛ばされた。
「よく頑張ったわね。後は任せなさい」
橘さんの強さは圧倒的だった。
体育館の天井を埋め尽くす程……数万の槍が、一気に天井から降り注ぐ。
一瞬にして5匹のビーストは消滅した。
「愛ちゃん!!」
愛ちゃんは、ボロボロだった。
数本の指は食い千切られ、体中の骨が粉砕されていた。
「マジカル☆ウィッチにも、マジカル♡リザレクションあるんですよね?」
中々回復しない愛ちゃんの様子に業を煮やして、パジャマ姿の橘さんに食って掛かった。
「ない。だから契約者が必用。これ大事」
杏が体育館の中に入って来た。
そして、私達のことを無視して、愛ちゃんに口づけする。
愛ちゃんも杏を求めるように濃密なキスで応える。
「えっ? 二人は……契約者?」
「そうね。それよりも、まだ戦いは終わってないわ」
再びマジカル☆ウィッチに変身した橘さん。
「どういうことですか?」
「間違いない。近くにビーストロードがいる」
「マジカル☆ウィッチの力は、異世界でしか使えない。だから変身すると、異世界と半分つなげる。そして、ビーストを見つけると、ビーストごと異世界に連れ込む」
「えっと……」
「つまり、現実世界にいるビーストを探すために、貴方の協力が必用なの」
「は、はい。意味はわかりませんが、協力します!!」
「まず、マジカル♡バリアを展開して。それも最大範囲で。そうすればビーストロードがいれば、そこに違和感を感じるはず」
「はい!」
橘さんの指示通り、最大パワーでマジカル♡バリアを展開する。
何故か橘さんは、私の手をしっかりと握っていた。
「凄い……。学校全体を覆ってしまったの!?」
残念ながら、ビーストロードは校外に逃げてしまったらしい。
♂ ⇒ ♀
「ごめんなさい……私の力が及ばないばかりに……皆に迷惑をかけて……橘さんまで呼んでしまって……」
「良いのよ。私だって愛と同じ頃は、先輩によく助けられてたわ」
愛ちゃんの怪我を完全完治するため、杏の魔力は吸い尽くされてしまい、杏はベッドで愛ちゃんと添い寝している。
何故添い寝? と思ったが、薄情に見える杏も、愛ちゃんの事が心配なんだと思うと、ほっこりする。
「ビーストロードがいるのなら、この案件はあなた達だけじゃ、手に負えないわね」
そう言うと、可愛い熊さん柄のパジャマを着た橘さんは、スマホでアチラコチラに連絡を取り始めた。
その口調は完全に怒っていた。
「だから、無理ってなんなのよ!! 今すぐに来なさい!! 来ないと殴り込みに行くわよ!!」




