第ニ話 第八の事件
「えっ? 中学校ですか?」
小学生の三人が担当するのだから、てっきり小学校だと思っていた。
「ごめんね。言いそびれちゃった」
愛ちゃんは、顔の前に両手を合わせて謝るけど、これ絶対にわざとだよね……と思ってしまった。
「い、一応、全員同じ教室になったから、心配しないで」
まぁ、何があってもマジカル☆ウィッチの愛ちゃんが守ってくれると信じてるし、いざとなれば橘さんも召喚できる。
しかし、中学校ってのは、小学校と全然イメージが違うもんだなと、改めて感じた。
元々、男子高校生だったけど、中学校ってのは、本当に子供から大人に変わる場所なんだなって。
三人の自己紹介が終わり、用意されていた席に着く。
三人の席はバラバラで杏が窓際の一番前、私が廊下側の一番前、そして愛ちゃんが真ん中の列の一番後ろだ。
「よろしくね。私、飯島 紗耶香。わからないことがあれば何でも聞いて」
「はい。よろしくです」
用意されていた教科書を開く。
まぁ、中2レベルの授業なら、問題ない。
「まだ小5なのに凄いね。やっぱり魔法少女は頭も良いの?」
授業中に数学の問題をサラサラと解いていたことに驚いた紗耶香さんが質問してきた。
「ううん。たまたま……そう、塾で……先行してやったところだったの」
やっぱり中学生にもなると、大人の女に生まれ変わる感じが凄い、なんかエロい。
そう感じるのは、元男だからじゃない……ブラックサキュバスの何かが、変身前でも精神を侵食していきたからだ。
何でそんな事になるのかって言うと、『人間をビースト化させないように頑張るのが、マジカル♡キュアドルでの役割』だから。
思春期の男女の身体や精神状態を敏感に感じるためらしい。
なるほど、だから私が紗耶香さんの母性本能をくすぐる度に、ちょっとエッチな波動(肉体的に精神的に)が紗耶香さんから出るのは仕方がないのだ。
多分そうなんだよ……ね。
でも、紗耶香さんからは、毎日が喜びに満たされている感じがする。
きっとビースト化とは無縁なんだろう。
そうか、こういう風に皆と話してみれば、ビースト化しそうな生徒が見つかるかも。
♂ ⇒ ♀
「中学生がビースト化する原因って、将来の不安、恋、自分の容姿、勉強、人間関係、いじめ、全部大事」
寮の部屋で杏がまともな事を言い出した。
「だけど、ビースト化した生徒のことは誰も覚えていない。だから本当にそれらが原因だったか不明。意味不明」
杏の言葉に愛ちゃんが俯く。
「愛、気にする必用はない。ビースト化殺す、それ大事」
「ちょっと!! 杏!! 言い方!!」
無神経な杏に憤りを感じて立ち上がろうとすると、愛ちゃんが肩を手で押さえつけた。
「良いの。でも、誰かがやらなければならないなら、人任せにはできない」
「愛ちゃん……」
嫌な空気になってしまった。
「おーい。あれ? 喧嘩? 若い時は喧嘩は沢山した方が良いぞ。もっと仲良くなれるし、もっと人付き合いが上手くなる。うん、逃げちゃ駄目だ。それより、飯の時間だぞ?」
大学生の四年生の深瀬 水樹さんが知らせに来てくれた。
「だ、大丈夫です」
愛ちゃんが立ち上がると、私と杏も立ち上がって、無言のまま食堂へ向かった。
♂ ⇒ ♀
翌朝、恥ずかしがってなんていられない。
ビースト化した生徒が現れたら……愛ちゃんに辛い思いをさせてしまうから。
朝イチでブラックサキュバスに変身して、校門の前であいさつ運動の生徒に混じり、波動のおかしな生徒を探すことにした。
ブラックサキュバスの姿は、男子中学生には刺激が強すぎるのか、股間を押させたり前屈みになる生徒が続出して、風紀が乱れると先生に中断させられてしまった。
「でも、ビースト化する生徒を未然に発見出来るんですよ!?」
「その生徒がビースト化するってのが、そもそも信憑性の無い話だんだが?」
「はぁ? 先生たちが……私達を呼んだから、ここまで来たんですけど?」
「それは教育委員会の判断で、現場の判断ではない」
はぁ? 何言ってんの? この人……。
「無理。ビースト化した生徒の記憶は魔法少女以外誰にも残らない。物理的にも記録は消滅する。それを踏まえて、この先生の言っていることは正しい」
遅刻ギリギリに来た杏に言われると余計悔しい。
「ビースト化が頻発する現場に、マジカル♡キュアドルやマジカル☆ウィッチが投入されるのは、今回が初めてなの。いろいろ問題が出るのは仕方ないわ」
愛ちゃんに言われると、仕方ないのかなって……思えてきた。
「ビ、ビーストだ!! 校舎内にビーストが現れた!!!」
校舎内から大慌てで逃げたす生徒、冷静に避難するように指示する校内放送。
マジカル☆ウィッチに変身した愛ちゃんは、「ここで待ってなさい」と言うと、シルフィードの力を開放して、校舎内に一飛びで侵入した。




