第一話 新天地の三人
長阜県の有名な観光地に到着した。
「温泉も美肌効果バツグンだし、寺なんかも素敵で勉強になるし、食べ物も美味しいから。だから……もう泣かないで」
不貞腐れている私を、初対面のマジカル☆ウィッチ大橋 愛が、ご機嫌取りする。
その後ろで勝ったばかりのソフトクリームを頬張るピンキーレインボーこと狭山 杏。
この土地で頻発するビーストの事件。
それを調査するために、強制的に転校までさせられたのだ。
もう人生滅茶苦茶じゃない!?
愛ちゃんに頭を撫でられていると……。
「見て、あれ! マジカル♡キュアドルじゃない!?」「超レアじゃん! ピンキーレインボーとブラックサキュバスに、マジカル☆ウィッチのシルフィード!」「愛様カッコイイ!!」「いやいや、ブラックサキュバスだろ。変身前も……胸はないけど、スゲー可愛い」「何言ってるのよ、杏ちゃんの良さがわからないの?」「噂は本当だったんだ」「ということは、ここに長期滞在するのかな?」「すげー、毎日でも会えるじゃん」
と、あっという間に人だかりが出来る。
愛ちゃんは、マジカル☆ウィッチに変身すると、私と杏の手を取り、空高くジャンプする。
「た、高い、高いよ!! 落ちたら死んじゃう!!」
先程の人だかりが、米粒のように小さい。
「大丈夫。私は、風を操るシルフィードのウイッチ。落ちたりはしないわ」
目線が変わるだけで……世界がこんなにも美しいって、知らなかった……。
♂ ⇒ ♀
「さて、編入手続きも終わったし、今日から一緒に暮らすんだから、いい加減、杏と仲直りして?」
愛ちゃんに言われて、転校の原因となった杏を見る。
「杏さん、何で私だったの?」
杏は私と愛ちゃんの胸を指差す。
「ツルペタ、同盟」
愛ちゃんは、自分の胸を押さえて、ガクリと項垂れている。
「はぁ? そ、それだけ??」
「それだけじゃない。それが大事」
確かに、清純派のブルームーン美月さんも、ソルイグニスの風化さんも、スタークィーンアナスタシアも、それなりに大きかったような……。
何だか、ムカついて来た。
拳を握ると、「殴ってもいい。だけど、一緒に……お願い」などと言ってくる。
「わ、わかったわ。でも……許したわけじゃないから」
「それでもいい。一緒が大事」
「わ、私……まだ小6だから!!」
突然、フリーズが解けた愛ちゃんが涙目だ。
「でも、大きくない人、少ない」
そんなに胸って大事なのかな?
確かに男もアレのサイズを気にするからな。
♂ ⇒ ♀
「「「「「「きゃー!! 可愛い!!」」」」」」
出迎えてくれた女子大生に引っ変え取っ替え抱きしめられた。
まるでヌイグルミのような扱いを受ける。
まだまだ子供の三人であるため、長阜女子大の寮にお世話になることになっていた。
もっとVIPで高級なマンションで暮らしたかったなと思ったが、これはこれで良いかも。
と、思ったが、やはり……うざい。
ご飯も、お風呂も、共同生活で顔を合わせるところには、必ずお姉さんたちがいて、子猫か子犬を世話するが如くちょっかいを出してくる。
杏は当たり前のように、それに順応して、何から何までお姉さんたちの世話になっている。
愛ちゃんは、波風立てないように絶妙な距離感を築き上げていた。
どうにか部屋に逃げ込んだが、この三日間、まるでビーストの事件に進展がない。
「連休が終わって、明日から登校なんだけど、杏。ビーストの情報は? ……杏?」
見ると、杏はベッドで熟睡していた。
「早っ!」
杏を起こそうと立ち上がると、愛ちゃんに腕を掴まれた。
「良いのよ。私が説明するね」
「でも、元々、これって……杏の仕事でしょ?」
「いろいろ思うところもあるでしょうけど、今は……私の説明を聞いて」
「は、はい……」




