第九話 マジカル☆ウィッチ?
胸に押しつけたビーストの荒れ狂うような激しい怒りが消え始めたのか、猫のようにゴロゴロと喉を鳴らし始める。
「だ、駄目!! な、舐めないで!!」
まるで親猫が子猫の毛づくろいをするかのように、優しくペロペロと舌で胸を舐めた。
こんな悶える姿を生徒たちに見せられないと、マジカル♡バリアの透過率を低くして、生徒たちから何が行われるか見えなくする。
「ガルルルルルゥ!!!!!!」
校舎の屋上からビーストの威嚇する声が聞こえた。
「えっ!? もう一体いるの!?」
ビーストに胸を押しつけて魅了しているのが精一杯だ。
もう一体をどうこう出来る余裕はない。
屋上から飛び降りたビーストは、生徒目掛けて突進していく。
「駄目!! あ……間に合わない……」
その時、胸に押しつけていた走り出す。
ビーストがマジカル♡バリアを破り、もう一体のビーストの首筋に噛み付いた。
再度、マジカル♡バリアをビースト二体と自分が内側に入るように展開する。
激しくもみ合う二体のビースト。
しかし、誘惑したビーストは野生? の力を失ってしまっているのか、劣勢になり始め……遂には首の骨を折られてしまった。
「ビ、ビースト!?」
分かち合えると思ったビーストが目の前で殺され、ブラックサキュバスは膝をガクリと地面に落とした。
ビーストはブラックサキュバスを敵と認識し、ゆっくりと近づいてくる。
「ボーッとしてたら死ぬわよ!?」
一陣の風が吹くと、目の前には真っ赤な魔女ローブを着て、槍を手にした……魔法少女?
いや魔女が立っていた。
「産まれたばかりのビーストが、マジカル☆ウィッチに勝てる道理はない」
マジカル☆ウィッチは、自分がアレだけ苦戦していたビーストを軽々と一撃で葬った。
「怪我はない? 立てるかしら?」
「あ、はい……」
差し出された手を取り立ち上がる。
そして、周囲を見ると、いつの間にかマジカル♡バリアが消され、生徒たちの姿も見えない。
「生徒がいない……」
「ここはそっくりだけど、全く別の世界。ビーストと戦う時は、こっちの世界に転移させるの」
「転移……」
「そ、それより……。そ、その胸どうにかしなさいよ。精神攻撃耐性がある私を魅了するって、ど、どうなのよ……」
「ご、ごめんなさい。へ、変身を解きます」
変身を解いた制服姿の私を見て、マジカル☆ウィッチさんは、目を見開いて驚く。
「ツ、ツルペタのガキンチョじゃない!? そ、そう言えば……TVに写っていたわね……」
♂ ⇒ ♀
マジカル☆ウィッチさんが変身を解くと、元の世界に戻ってこれた。
学校には政府関係者やら警察やらが押しかけているので、近くの公園に逃げ込む。
「私は、橘 玲香。高校一年よ」
「……です。助けてくれて……ありがとうございます」
「まったく、マジカル♡キュアドルでビーストと戦うなんて、危険にも程があるわ」
「ごめんなさい」
ここから橘さんとビーストの戦いの歴史が語られた。
橘さんの話しをヒントにビーストの事を整理すると、ビーストは元々人間である。
人間をビースト化させないように頑張るのが、マジカル♡キュアドルでの役割。
ビースト化してしまった人間を倒すのが、マジカル☆ウィッチの役割。
つまりビースト化してしまった人間は、元に戻せない。
また今回のような堂々と姿を現す魔獣型ビーストは珍しく、人間に紛れて悪さをするビーストが大半らしい。
「ということは、あのビーストは……うちの学校の生徒?」
「多分ね。でも、ビースト化してマジカル☆ウィッチに倒されたビーストの……つまり人間だった頃の痕跡は、何も残らない。誰も覚えていない。つまりいなかったと同じなの」
「でも、私は……誰かわかればきっと、覚えています。自信があります!」
「うん、魔法少女だからね。でも、政府関係者、警察、学校の先生、生徒……あそこにいる全てはビーストが現れたことだけは覚えているのだけれど、元々の人間については誰も知らないし、覚えていないはずよ。それが不幸中の幸いなのか、悲劇なのかわからないけど……ね」
「そんな……」
「悲しまないで。ブラックサキュバスになって一週間でしょ? ビースト化はもっと前から、その生徒を蝕んでいたのよ。貴方の力不足じゃないわ。それに全ての人を助けられると思わないで、ビースト化しそうな人間が1000人いたら1人助けられたら良い方だと思って……ほら、泣かないの」
悔しくて、可哀想で、無力な自分が許せなくて、頭の中がゴチャゴチャになる。
橘さんは、私が泣き止むまで、そっと隣で寄り添ってくれていた。
「私と、パートナー契約を結ばないか?」
今回は別件の調査で偶然、学校の付近にいたらしい。
普通はこんなに早くマジカル☆ウィッチは現場に来ることは出来ない。
しかし、パートナー契約を結べば、マジカル♡キュアドルはいつでもマジカル☆ウィッチの橘さんを呼び出せる。
橘さんは悪い人じゃないし、信用できる。
立ち上がり、橘さんの目をしっかり見て答えた。
「はい、なります!」
すると橘さんに、ぐっと体を引き寄せられ……キ、キスをされた!?




