好きなものには素直に
「……ちょっと!どこ行ってたのよ! 戻ってきたらいないから心配したじゃない!」
人気のないテラスでぼーっと庭を眺めていると、髪を少し乱したティファニー様が飲み物を両手に持ってやってきた。
「あ、ごめんなさい勝手にテラスに出て。ていうかいいんですか?いつものティファニー様語で」
「いいのよ今このテラス二人きりじゃない。で?王子と話したの?見返せた?ギャフンって言わせてやった?まぁさすがに言うでしょう、今日のあんたとっても可愛いもの。これ見て落ちない男なんていないわよ。これまでの所業をぜーんぶ謝罪して、これからは君に尽くします!くらいは言ってもらわないと気が済まないわ!」
乱れた髪を丁寧に直しながら早口でまくしたてるティファニー様をじっと見つめる。
「え?何その顔?まさか褒め言葉の一つもなかったとか?ちょんぎってやりましょうか?」
グレイスは、にこりと笑った。
「無事話せました。で、盛大に振ってまいりました!」
ティファニー様は飲もうと口まで近づけていたグラスを直前でピタッと止めると、ギギギっと音がなりそうな動きで顔をこちらに向けた。
「は?ああ?え?あんたそれでよかったの!?」
「言ったじゃないですか、もう好きじゃないって」
「待って。言ってた、言ってたけど、王子との婚約よ?9年続いたヤツ。そんな簡単に……」
「私、自分が幸せになる道を選ぶと決めたので。アルバート様の隣は、そうじゃなかったみたいです。残念ですし、家にも迷惑をかけてしまうのですが」
「……そう。あんたが決めたなら、私が口を出すことじゃないわね。頑張ったわ、本当に。お疲れ様」
ティファニー様の優しい菫色の目と、頭を撫でる骨が目立つ大きな手に思わず涙が滲んだ。
「私、頑張りました。いろんなこと」
ティファニー様は無言で、でも温かくこちらを見ている。
夜なのに風は生ぬるく、渡されたスパークリングジュースが喉に心地いい。一気にグラスを煽って空にすると、体ごとティファニー様の方にまっすぐ向き合った。
「あの。ティファニー様。今言うタイミングかわからないんですけど、私ティファニーのこと好きです」
「は?あー、はいはい。ありがとうね、私も好きよ。またお店に遊びに来て。まだまだ磨けば光るわよ」
こいつは何言ってるんだ?みたいな目をしたのも一瞬、ティファニー様はすぐにいつもの調子に戻る。 緊張していた空気が弛んだ。
「いえ、師匠としてではなく。一生一緒にいたいです。好きです」
真面目な顔で再度伝えると、ティファニー様は、ふーっと長く息を全て吐き出し、テラスに組んだ腕に額をつけて俯いた。
息を吐ききったあと、よろよろと身体を起こし、正面に立つ。向かい合うと、身長の高さや体格の良さが際立つ。あぁ、この人、男の人なんだな。
「……グレイスちゃん。自分が何言ってるかわかってる?そもそもあんたこっちの姿見るのだって今日初めてじゃない。女友達って意味の好きならありがたく受け取るわ。でも、私性別上は男なんだから、軽々しく好きなんて言わない方がいいわ」
「ティファニー様の性別なんてどうでもいいんです。自分でもこれが恋愛感情なのか、どういう気持ちなのかわからないんですけど、ティファニー様と一緒にいる時間が今までで一番幸せで、これからもティファニー様とずっと一緒にいたいんです」
「……あんた、なんつーか図太くなったわね。いやまぁ確かに好きな物には素直になれみたいなこと言ったけど」
「ティファニー様が男性を好きなのは存じております。でも、私それでも……」
「何言ってんのよ、私、男が好きなんて一言も言ってないわよ」
「え?」
「恋愛対象は頑張り屋の可愛い女の子よ。綺麗な格好するのはただの趣味」
ティファニー様は天を仰ぎ息を吐く。
形の良い額にかかっていた髪をざっとかきあげると、こちらに流し目を送りニヤッと笑った。
「これからが楽しみね、惚れさせてくれるんでしょ? 」




