38 親友-9
はじめまして&お久しぶりです。
諸事情で、長らく更新が停止していましたが、再開いたしました。
マイペース更新になると思いますが、完結目指して頑張りたいと思いますので、お付き合いいただけたら幸いです。
DKでは、すっかりくつろぎモードの谷田部課長が一人、コタツテーブルの上に広がったおつまみ群の中から、柿ピーを拾い出し、ポリポリとかじっていた。
そういえば、付き合っていた当初も、ビールのツマミと言えば、柿ピーとイカの燻製が定番だった。
飲めない私が、好物のピーナッツを選り分けて、いざ『さあ食べよう』と、ルンルン気分で口に運ぼうとした所をすかさず横取りされ、二人でピーナッツ争奪戦を繰り広げたこともあったっけ。
他愛無いことでケンカして、じゃれ合って。
その一つ一つが、煌いていた、あの頃。
ふっと、記憶の中と目の前の情景が重なり、胸の奥に、甘い痛みを伴った想いの欠片が去来する。
――だめだめ!
しっかりしなよ、梓。
気持ちまで、純粋だったあの頃にシンクロしそうになり、自分を戒めるように、ぎゅっと目を瞑った。
それにしても、
いつもなら、自分一人しかいない空間に、他人が居る。
と言うのは、とても不思議な気分だ。
それも、心密かに思い続けている相手が、自分の生活エリアに当たり前のように存在しているその光景は、不思議と言うか、実に、こそばゆい。
「美加ちゃん、やっと寝ましたよ」
アルコールのせいばかりではなく、自然と緩んでしまう頬の筋肉を引き締めつつ、ポリポリとおつまみを口に運ぶ課長に、声をかける。
「そうか……。少しでも、気が晴れたなら、いいんだが」
柔らかな笑みが、その顔に浮かぶ。
常識人の課長らしからぬ深夜の部下宅来訪は、もう一人の傷心の部下を心配しての事だったらしい。
「美加ちゃんなら、大丈夫ですよ、きっと。彼女は、ああ見えても芯の強い、しっかりした女性ですから。私も、出来る限りフォローしますし」
小型の愛玩犬を思わせる、愛らしい華奢な外見からは想像できないほど、彼女は仕事をバリバリこなす、キャリアウーマンなのだ。
今回は、その熱心さが裏目に出てしまったけれど、これに懲りて仕事をおろそかにするような無責任なことを、彼女はしないだろう。
でも、だからこそ、頑張り過ぎてしまわないように、気を配るのは先輩である私の役目だと思う。
「ああ。よろしく頼むよ。男の俺では、踏み込めないこともあるだろうから」
「はい。任せて下さい」
美加ちゃんは、大切な友人だ。
格好つけて言うなら、『親友』。
課長に頼まれるまでもなく、元の元気な美加ちゃんに戻ってくれるなら、彼女のためになるなら、出来る限りのことをしよう。
心の内で、私は、改めて強くそう誓った。