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剣士4

※不快な表現があります。


私はしばらく薬に頼り切っていたけれど、ある時腹の痛みが取れないことに気付いた。それはいくら回復薬を飲んでも治らなかった。私は戦闘中も嘔吐するようになり、慢性的な怠さと息苦しさで何度も蹲った。リズに素材を追加で貰えるように頼んだ。

何より苦しいのは腹の痛みだった。腹なら何度も抉られたことがあるが、回数で言うなら他の部位も負けてはいない。なぜ激痛を伴うのだろう。

始めは薬が切れたのだろうと気にならなかったが、あまりの体調不良に耐えられなくなった。食事もレーションしか摂取していないせいで、吐いても出てくるものは胃酸と乾パンだけだった。


見かねたデイミスが、それでも戦いに行くと暴れる私を術で縛って拘束した。そして何かもっと食べるようにといつも以上にきつく言ってきた。

デイミスに魔法薬が効かなくなったと言うと、彼女は貴方の処方はリズと話し合って決めるから、安静にしていてと言われた。

折角魔法薬を使って活躍で来ていたのに、こんな形でお預けをくらうなんて思っていなかった。拘束を解こうと藻掻くも、腹に力を入れられなくて解けない。

「こんなもの、薬さえあれば簡単に解けるのに・・!」

こうしている間にも魔族の襲撃は止まらない。今日の敵だってこの前より強くなっているかもしれないのだ。完全に滅ぼしきるまで、急襲は止まらない。

それにしても腹の痛みが強い。こんなに痛いなんてこと今までにあっただろうか。もう、私はダメなのか。薬に体が耐えられなくなったのか。

こんなところで終わるのはいやだ。

私は下腹に力を入れた。そうだ。そんなに腹が痛いなら、ここで切り裂いてしまおうか。

いい加減にしてほしい。やっとみんなの役に立てるのに。こんなことで体が動かなくなるなんて。

私は拳を作って自分の顔を殴った。それで腹の痛みから気を逸らした。ごんっと顔に衝撃が響く。痛い・・苦しい。早く薬が欲しい。両腕に力を込めて拘束魔法を引きちぎる。私を張り付けていた拘束魔法はゆっくりと火花を散らせながら、私から離れていく。

「やった!あたしは大賢者を越えた!!あいつの魔法を攻略した!!」

更に力を込めると、じりじりと腕に魔法が焼き付いてくる。意地でも私をここから動かさない気なのだろうか。体が千切れそうだ。何を躊躇することがある?

今まで何度も体なんて千切れて来たじゃないか。死にかけたし、首も切り落とされそうになった。それでもここまで来た私はけして弱くない。


「どうだ!見ろよ!お前の魔法よりあたしが上だ!」

ようやく拘束魔法から解放された。両腕はじりじりに焼けて、肉を焦がしている。そこらへんに見覚えのない液体が飛び散っている。

剣を持ったまま高笑いする私を、デイミスが呆然と見つめていた。

「キーラ、貴女を助けられなかった私を許して。だけどここからは遠慮しないから。私の言うこと、無理にでも聞いてもらう」

再び杖が振られ、私の体を赤い鎖が巻き付く。拘束魔法を破って満身創痍の私はそれに反応できなかった。思わず嘔吐する私に構わず、デイミスは何か唱えた。

意識がどんどん離れていく。藻掻いても藻掻いても、深い眠りの底に落とされているようだ。

「リズ、しばらくキーラに近づかないで。その子に罪はないのよ?」

ところどころ覚醒した意識の中でデイミスの声がした。

リズがそこにいるのだろうか。うっすら見える景色には、血塗れの大剣を担いだリズの姿があった。




・・・・・・。

・・・・・・。

どれくらい眠っていたのだろう。いや、正確には起きていたのだろうか。起きたことを認識できなかったのだろうか。

目が覚めると、デイミスが私を睨みつけていた。怒っているのか、泣いているのか。よくわからない顔だった。

体の痛みが消えているので、きっと私を助けてくれたのだろう。また迷惑をかけてしまった。早く戦いに行かないと。力を入れようとしても入らない。薬、と呟くとデイミスが私に素材を投げた。彼女は何も言わないでいつまでも私を睨んでいる。

私のことを見捨てたのだろうか。

「ごめんなさい、デイミス。迷惑をかけたね」

こう言うと、彼女は首を振った。

「リズとも話したけど、もう心配ないわ。素材をそのまま摂取しても大丈夫よ」

彼女の顔に深く疲労の色が見られる。渡された素材はどれも一級品。何か言おうとして私は口を動かすが、それを言ってもどうしようもない気がした。

「貴女はもう自分に怒らなくていいのよ。戦いが終わったら、治療に専念しましょう」

デイミスはまだ安静にしていてねと言うと、部屋から去って行った。



ベッドの傍には鎧が置いてある。鎧に手を伸ばそうとして私は動きを止めた。手が伸びない。

これはどういうことかと手を伸ばそうとすると。



手なんてないことに気付く。

おそるおそる体を見ると、手足のないダルマのような体がそこにあった。

悲鳴をあげそうなのをぐっと喉を潰して堪えた。


これが薬に頼った代償なのだろう。デイミスはこんな姿になった自分を助けてくれた。

手足だけで済んでよかった。

薬を飲む分には困らないから。よろけながら口をレイピアに伸ばす。口に咥えられるなら、十分戦える。一人でこれからの戦闘スタイルをシミュレーションしていると、誰かが訪ねて来た。

「おはよう、キーラ。よかったね。君は死にかけていたんだよ?助かってよかった」

「リズ・・・」

リズに怒りの感情など湧かなかった。私の自業自得だから。結局、私はみんなに迷惑をかけるしかないのか。

「おめでとう。君はこれから素材直接摂取が可能だ」

こんな状況でも素材が近くにあると安心する。デイミスがさっき置いて行った素材をリズが口元まで運んできてくれた。

「これは俺からのプレゼントだよ」

リズはそういうと、手足のパーツの鎧を手に取る。そしてそれを器用に私の足にはめていく。

「多少の不便はあるけど、十分手足の役割を果たすはずだよ。それ」

きっちりハマった手足は直ぐに滑らかに動いた。天才錬金術師と大賢者が協力して私を死ぬ気で生かしてくれたということか。

「また面倒なことをさせた、なんて考えないことだ」

鎧をつけて裸状態の私にリズが服を着せていく。

「君は素材に適合する貴重な人間だ。俺とデイミスは君に生かす価値があると判断した。目的のためにね」

「デイミスとアレイシスにちゃんとお礼言いなよ?君のために戦いながら奔走してたんだから」

なんとわざわざ、水辺の勇者から何人か呼んできて、一緒に戦ってくれていたそうだ。私を生かすために。デイミスとリズが私を治療している間に。

あの時の白魔術師が微笑んでいる姿が脳裏に映った。


「ごめんなさいって思うなら、ちゃんと戦って返すんだ」

レイピアを腰につけてくれながらリズは厳しい顔をした。



それから私はアレイシスとデイミスにしっかり謝罪した。酷いことをいったこと。暴れて迷惑をかけたこと。これからは自分勝手に突っ走らず、二人をサポートしながら戦うと約束した。



デイミスに「何の代償もなしに、あそこまで壊れていた自分を助けられるのはおかしい」と言ってみたが、デイミスからは「知る必要はない」と一蹴された。代償は払ったと言っていたので、デイミスの体が心配だったが、彼女はいつも通り強かった。

錬金術や命のやり取りを含む禁術は、その危険度から使用が禁止されている。だが、天才の二人ならそこまでやりかねない。

魔族の襲撃も激化し、野宿も増えた。いよいよ魔王が来襲するのだろう。私の蘇生方法など誰も話題に出さなくなった。

仲間に謝罪もできたし、今までと違って無茶が効く。私は自分の活躍に再び酔いしれた。

全てはこうして丸く収まるための試練だと考えた。

戦いは激化したが、どんな困難も乗り越えて来た四人は無敵だった。







いよいよ最終決戦というとき、北の空から来襲した魔王のアジトに全員で乗り込んだ。水辺の勇者もうまく乗り込めたようだ。

何度も体を焼かれたが、もはや狂戦士のような勢いで私は戦った。どんなに素材を入れても平気だ。この方法で仲間が守れる。

私とアレイシス、リズは本陣を叩くため、正面切って魔王に特攻をかけた。後方でデイミスが回復と防御をかけながら援護している。




どれくらい時間が経っただろうか。夢中で剣を振るっていた私は、後方での援護が止んだことに気付いた。防御魔法とデイミスの魔力が消えた。

「アル!デイミスが!!!」

私が叫ぶとアレイシスは無言で「戦闘続行」の合図を出す。

デイミスが死ぬはずがない。私は魔族の首を切り落としながらそう確信した。

「大丈夫!道は俺が開くから、二人は先に。デイミスも見てくるよ」

戦闘中、リズは頼りになる。次々に襲い掛かってくる魔族は、リズの大剣の一振りで肉塊に変わる。あらかじめ用意した魔方陣で、何体か聖騎士を召喚している。

「わかった!デイミスを頼む!」


いよいよ魔王に戦いを挑むという時、重い扉を開けた私たちの元へ大量の魔族が飛び掛かってきた。私はそれらをすべてリズの呼び出した聖騎士たちと一緒に一掃していった。

「アル、これ!」

アレイシスを援護しながら私は白魔術師に貰った石を渡した。無効化の加護がついている。ないよりはいいだろう。

鎧が片腕吹き飛ばされ、私は聞き手とは逆の左手で剣を握りなおす。

「あたしも後から行く!」

「わかった!!」

アレイシスは聖騎士を数人引きつれて、魔王の城に入っていった。



どうしてこの時、私はこんな選択をしたのだろう。

彼がいくら強いと言っても、全て任せるんじゃなかった。未だにずっと悔やまれる。私がここで間違えなければ、アレイシスだって呪いを付与されないまま助かっていたかもしれないのに。




そして、私はここで気づいてしまった。

魔王を倒すのはいつだって勇敢な勇者様。確かにアレイシスは勇敢だ。強い。

双剣の勇者が魔王を倒すなんて記述・・どこにも見たことがない

私は何か重要なことを見落としているのだろうか。



しばらくして、城が音を立てて崩れ始めた。宙に浮かぶ魔王の城。魔王が魔力を失ったということか。

やったのか・・ついに・・。

うそだ・・。私はアレイシスに合流できなかった。アレイシスは・・勝ったのか?

崩れ落ちる瓦礫の中を走り、アレイシスを探す私。

魔王の城の構造は知らなかったが、聖騎士たちとともにアレイシスを探した。

瓦礫を持ち上げていると、誰かに腕を掴まれた。


「早く脱出しよう。ここは崩れる」

リズがいた。リズは肩で息をしながらアレイシスを担いでいた。驚くことに、全くの無傷だ。

「デイミスは!?」

「大丈夫だ、先に運んでおいた」


なんてことだろう。私はリズの評価を改めるしかない。

「ねえ・・魔王は・・?倒したの?」

「死んでたよ」

リズは振り返らずに答えた。

この時私は、あることに気付いた。リズの背中に大剣を巻いてある袋がないことに。











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