第6話 深淵の樹海に広がる異物
創は深淵の樹海の中を慎重に進んでいた。
「確か、混沌に誘いし者たちの基地があるのは一番近くにあるはげ山だったな。まぁ、あそこは安全圏からも比較的に近いし、山には何故か深淵の使者も少ないしな。深淵の使者に見つからないように急ごう」
そうして、創が遠くに見えるはげ山に向かって走っていると、いきなり巨木の枝に飛び乗った。
そして、下を見てみると、そこには全身が黒いモヤのようなものでできた人型の怪物と全身が黒いモザイクのようなものでできた人型の怪物がいた。
二体の怪物の目は同じで、赤黒色をしていた。
創は巨木の上で身を潜めていると、怪物たちは左右を見渡した後、何処かへ行ってしまった。
創は怪物たちが遠くに行ったことを確認すると下に降りた。
「何とかやり過ごせたようだな。やはり、この辺りは深淵の使者が多いな。もう少し警戒を強める必要がありそうだ」
創がさっき見た二体の人型の怪物はどちらも深淵の使者である。
そうして、創はさっきよりも走るスピードを落としてはげ山に向かった。
はげ山に向かっている最中、創は何度も深淵の使者に遭遇した。
そして、創は深淵の使者に遭遇するたびに木の上に隠れたり、木の後ろに隠れたり、進行方向を変え、遠回りなどしてやり過ごしていたため、はげ山になかなかつけなかった。
創ははげ山に向かって走っていると、今いる場所から少し遠いが、とても不自然な場所を見つけた。
その場所は黒い雲で覆われているはずの深淵の樹海の中に青空が一部だけ広がっていた。
「あの位置的に少し遠回りをする必要があるが、行ってみる価値はありそうだな。よし、あの不自然な場所に向かおう!」
そうして創ははげ山を後回しにして青空が広がる不自然な場所を目指して進み出した。
創は青空が広がる不自然な場所に向かっている最中、あることに気づいた。
それは、創が青空が広がる不自然な場所に近づくにつれて、遭遇する深淵の使者の数が明らかに減っていたのだ。
(あの場所に深淵の使者たちは入れないのか?そうだとしたら、ますますあの場所が一体何なのか気になってくるな。危険な場所でなければいいが)
そうして、創は遂に青空が広がる不自然な場所に到達した。
そして、創は目の前に広がる光景に唖然とした。
そこには、広がる青空の下には草原が広がっており、その中央には大きな穴が開いている。
そして、この草原が広がっているエリアは深淵の侵食が全く無かった。
それに加え、深淵の樹海に充満している、深淵によって侵食された霧もこの草原エリアをきれいに避けている。
そして、創は恐る恐る草原エリアに入ってみたが、何も起こらなかった。
しかし、この草原エリアに入った瞬間、創はあることに気づいた。
それは、この草原エリアに充満している魔力が明らかに濃密かつ、深淵を浄化するほどの神聖な物であった。
「なるほどな、だからこのエリアには全く深淵の侵食が無かったのか。これは明らかに誰かの『聖域』だな。この場所に長居するのは相当危険だ。中央にある大穴を見たらすぐに撤収しよう。」
そうして、創は草原の中央にある大穴を覗いた。
「これはどれくらい下まで続いているんだ?全く底が見えない。だが、この大穴からとても強力かつ、神聖な魔力を感じるな。それにこの魔力の波長はこの聖域内の魔力と一致する。この聖域の主人はこの下にいるということか。主人が来る前にさっさとはげ山に向かおう」
そして、創は深淵の樹海に広がる誰かの聖域から出て、目的地であるはげ山に向かって進み出した。
「今はもう夜なのにあそこだけ青空が広がっていたのか気になっていたが、理由が聖域だったからとはな。あそこの調査は危険すぎて行えそうにないな」
創はもう遠くにある聖域を見ながらそう呟いた。
そうして、創は深淵の使者から隠れながら進み、やっと目的地であるはげ山に着くことができたのだった。