ワカティナ防衛作戦(創視点)十一
創はみんなと離れた後、前線キャンプから少し離れた丘のようになっている場所の頂上で空を眺めながら黄昏ていた。
創「みんなには悪いことしちまったなぁ........」
創は先ほどの出来事を思い出し、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
創「まさか、母さんのことを思い出すとは........ここは戦場なのにな........いや、戦場だからこそ母さんのことを思い出したのかな...........」
創はあの世にいる母親に想いを馳せながら呟いた。
創「母さん........俺........生物兵器を殺すのしんどいよ........もう........誰かが苦しむ記憶なんて見たくない...........」
創は三角座りをして、顔を足に押し付けながら弱々しく呟いた。
創が使用する技である暴食せし影の捕食者は影の権能と暴食の権能に加え、創が保有する潜在能力である魂喰らいの龍が組み合わせて作られている。
この魂喰らいの龍と言う潜在能力は捕食した対象の魂を喰らい、捕食した対象の全てを奪い取る能力である。
そのため、捕食した対象の権能から潜在能力、捕食した対象が今まで身につけてきた技術から記憶まで、ありとあらゆるものを奪い取り、その取り込んだ魂の魔力量の分だけ創の魂の魔力量限界値が大きくなる。
ちなみに、捕食された魂は輪廻の輪に入る前に施される全ての情報を消し去る工程の『浄化』を先にやり終えた状態であり、魂喰らいの龍で星録された魂は全てを奪われた後はちゃんと輪廻の輪に戻ることが出来る。
そして、この魂喰らいの龍と言う潜在能力は多くの者の魂を取り込めば取り込むほど自分が強化されていく。
なので、多くの者はこの潜在能力を欲しがるだろう。
しかし、歴代の魂喰らいの龍の所持者は全員が己の手でこの世から去っている。
その理由は魂喰らいの龍が相手の記憶を全て受け継ぐためである。
そのため、自分が捕食した相手の生まれた時から死ぬまでの記憶がその者の感情付きで全て頭の中で再生される。
この記憶の再生はいわゆる誰かの人生を疑似体験させられるものである。
例えば、捕食した対象が過去に拷問にあっていた時、魂喰らいの龍の所持者は自分がその拷問を実際に体験しているかのように錯覚する。
そのため、辛い経験を大量にしてきた者を捕食した場合は自分も同じ体験をするため、最悪である。
そして、捕食した対象から自分へと向けられる憎悪や負の感情も己の精神にダイレクトアタックしてくるため、魂喰らいの龍の所持者は精神が崩壊し、自ら命を断つことを選ぶ。
強い力にはその分の代償があると言うことだ。
そして、創は今回のワカティナ防衛作戦で大量の生物兵器を殺し、暴食せし影の捕食者で捕食してきた。
創は暴食せし影の捕食者で捕食する度に魂喰らいの龍の能力で生物兵器に変えられてきたものたちの記憶が大量に流れてくる。
そして、創が生み出したブラックホールには魂喰らいの龍が付与されており、ブラックホールが未だに生物兵器を飲み込んでいるため、創の脳内にはずっと生物兵器に変えられた者たちの記憶が流れている状況である。
そのため、ある程度慣れている創でも一日中誰かの苦しみを味わい続けるのは精神的に疲れてしまう。
なので、創は表ではいつもの調子を取り繕っているあら普通に見えるが、内面は精神的ダメージによりボロボロである。
創はこの生物兵器に変えられた者たちの記憶を見たせいでで、彼が大好きであった母親のことを思い出してしまったのだろう。
このように魂喰らいの龍に創は頭を悩まされているのだが、本人はこの潜在能力を保持していて良かったと考えている。
何故なら、自分が殺した相手の人生を知ることは命を奪った者としての責務であるからと考えているからだ。
そして、相手の人生を見ることにより、様々な視点での意見を知ることも出来るからだ。
どうして、彼は自分に反逆したのか?どうして、彼は犯罪者になってしまったのか?など彼らがどうしてそうなってしまったのか彼らの人生を体験することにより知ることが出来る。
だから、二度と同じような被害者が出ないように対策を練ることが出来るのだ。
そのため、創は神国アヴァロンがより良い国になるように様々な政策が行えてきたのだ。
創「実際に体験していない俺でもここまで辛いと言うことは、本当に体験した彼らは俺の苦しみよりも遥かにキツい苦しみを味わったんだろうな...........」
創は生物兵器に変えられた者たちのことを思うと更に心が痛んだ。
創「来世では幸せに暮らせるように頑張って平和な国を作るからさ、みんなは輪廻転生するまで安らかに眠ってくれ...........」
創は生物兵器に変えられた者たちが来世では平和に幸せに暮らせるように願った。
そうして、創は黄昏ていると急に寂しくなったので、アイナに通信を入れることにしたのだった。