ワカティナ防衛作戦(ルイン視点)十六
ルインはカミラのことを最初に見た時から気づいていた。
カミラが大事そうに抱き抱えている左腕の正体を。
あんなにたくましい左腕の持ち主など第九小隊にはあいつしかいない。
だが、ルインは心の中でそれを否定した。
そんなことはありえない、あいつが死ぬはずはないと。
だから、ルインはカミラが大事そうに抱き抱えている左腕はきっと自分の物だろうと決めつけた。
いや、決めつけずにはいられなかった。
そして、ルインはカミラが大事そうに抱き抱えている左腕から意識を逸らした。
自分の腕なら抱き抱えていてもおかしくないと。
あいつはきっと生きた状態で見つかるだろうと思った。
いや、ルインは思ったのではなく願ったのだ。
どうか、あいつが生きた状態のまま見つかって欲しいと........
だが、意識を逸らしたところで、願ったところで奇跡など起こるはずもなく、残酷な現実は変わることなどなかった...........
ルインはその場に膝から崩れ落ち、号泣した。
目からは溢れ出す涙を必死に止めようとするが、止まるどころか更に溢れ出てくる。
ル「なんで........なんで........なんでなんだよぉぉぉぉおおおおおお!!!!!!!!!!」
ルインは号泣しながらガイエスの左腕に向かって叫んだ。
ル「なんで、こんなところで死んでんだよ!!!なあ、ガイエス!!!なあ!なあ........返事してくれよぉぉぉぉ...........」
ルインはガイエスが死んでいると分かっていても返事を求めて問い掛け続けた。
ル「なあ........ガイエス........お前は俺の結婚式に参加するじゃなかったのかよ........それなのに........それなのに........どうして死んでんだよ...........」
ルインはガイエスの左腕に投げかけるが何も返ってこない。
ル「クソ........クソ........クソぉぉぉ...........」
ルインがガイエスの死が受け入れられずに嘆いていると、朔夜がルインたちの元にやってきた。
鷹「朔夜先輩........それで、第九小隊の他の生き残りの方たちはいましたか?」
鷹の目は生き残りの捜索を終えて帰ってきた朔夜に質問した。
朔「いや、ここにいる奴ら以外は見つからなかった。たぶん全滅したんだろうな」
朔夜は鷹の目に淡々と被害報告を伝えた。
鷹「そう........ですか........この三人しか救うことはできなかったんですか...........」
鷹の目は悔しそうに腕に力を入れながら呟いた。
朔「だが、三人は救うことは出来た。確かに壊滅状態だったが、全滅は避けられたのだから、俺たちが駆けつけたことには意味はあったんだろう」
朔夜は落ち込んでいる鷹の目を慰めるようた言った。
鷹「そうですね........少しでも救えたのだから俺たちが来た意味はあったんでしょうね...........」
鷹の目は少しだけ立ち直ったようだった。
朔「それで?この怪我の具合がだいぶ酷い奴がいるようだが、その手当てはどうするんだ?俺たちじゃあ、あの怪我は治すことは出来ないぞ?」
鷹「ああ、それなら安心してください。あの子の怪我の手当てのために隊長を呼んでおきましたので」
朔「総隊長をすでに呼んでいたのか。確かに総隊長は親馬鹿だからな........鷹の目が総隊長を呼んだとしたら、直ぐに来るだろうな」
鷹「あんまり、任務中では俺のことについて話すのはやめてくださいよ。敵に俺の正体が知られる可能性だってあるんですよ。さすがに敵に正体がバレるとまずいです」
鷹の目は少し朔夜のことを叱るように言った。
朔「それはすまないな。これから気をつけるから許してくれ」
朔夜も今回のことは悪いと思ったのか、素直に鷹の目に謝った。
鷹「まあ、今回は周りに敵がいなかったので別に構いませんが、これからは気を付けてくださいね?俺も正体がバレると動きにくくなるので」
鷹の目は反省している朔夜を見て、そこまで問いつける必要がないことが分かったので、素直に許すことにした。
そうして、鷹の目と朔夜が王直属部隊の隊長である創の話をしていると、いきなり空から目にも留まらぬ速さで何かが降りてきた。
その速度は異常なほど速く、鷹の目と朔夜でも一瞬、反応するのに遅れてしまった。
そして、その空から降ってきた何かが地面に衝突した瞬間、大きな振動と共に砂煙が辺り一帯に舞い上がった。
ルインはいきなり舞い上がった砂煙からカナを守るように抱き抱えて、砂煙が上がった中心地を見た。
そうして、砂煙が止んだ後、ルインたちの目の前にはとある男性が立っていた。
その男性はーーー
創「鷹の目からの要請により馳せ参じた。どうも王直属部隊の隊長を務めさせてもらってます、如月 創です」
創であった。




