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魍魎祓師  作者: まっふん
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先生

「先生だよ、先生。」


穣の言葉で統の背筋に緊張感が走った。


「大丈夫大丈夫!めちゃくちゃ緩い人だから!」


「魑怪が見えただなんてたまたまだ。なんの役にも立たないって言われたらどうしよう…」


「その時は私が怒られるね」


「…あぁぁぁっ!くそ…まただ…」


「ん?育、どうしたの?」


「また連敗更新だ。どこに隠れてもすぐ見つけられる」


「仕方ないよ、先生は犬の能力を常に使える人だから。さあさ、行こう行こう」


穣は悔しそうにしている育の腕を引っ張って立たせ、三人は寮の入り口に向かって歩き始めた。



「いぬせーん、おかえり~」


穣がヒラヒラと手を振りながら、道場の前に立っている穂村と穂村より身長が低く、スーツを着た男に声をかけた。


「おっ、穣に育。私がいない間、元気にしてたかい?」


「3日間、親がいなくて寂しがる高校生がいるわけないじゃん」


育がボソリと言った。


「育、聞こえてますよ~」


まだ数mはあるのに何で聞こえるのだと統は耳を疑った。


「で、君が穣が言っていた昨日から魑魎怪が見えるようになった子かな?」


いぬせんと呼ばれた男性は、スーツに黒角眼鏡と緩い七三の髪型といういかにも仕事帰りのサラリーマンという格好をしている。所々に白髪が混じっており、30代後半に見える。


「はい、雨惹統と申します。よろしくお願いします!」


「そんなに固くなくていいよ、学校の先生では無いからね。私は伊奴使峯(いぬつかみね)よろしくね。」


「お願いします…」


「早速なんだけど、君の苗字ってどう書くんだい?」


「雨に魅力に惹かれるの惹です」


「えっ!?そうだったの!?てっきり天の音だと思って伝えてた!」


「はあ、穣…そこ大事だろ…間違えて先生に伝えてしまったじゃないか…」


穂村が額に手を当てて、ため息をついた。


「雨に惹かれるねぇ…天の音ならまだ心当たりがあるものの雨惹は聞いたことが無いね…」


伊奴使はうーんと首を傾げた。


「もしかしたら地方の補助師に同じ名前がいるかもしれないから探してみよう。ご家族からは魑魎怪に関する話は聞いたことが無いのかい?」


「無いです…おそらく、親戚で見えている人もいないと思います。何か違うと感じたことが無いので…」


「それは困ったね…雨惹はお父さんの姓で合っているかな?」


「はい。そこから辿るとしても、おじいちゃんが昔縁を切ったみたいで、そこから前はどうなってるか分からないし、おばあちゃんも結構前に亡くなってます。」


「そこまで来ると何かありそうだな」


「間違いないね。私の方で調査してみるよ。それまでは補助師とも魑魎祓師とも言えないから、こっちの世界を知るために皆と過ごすといいよ。他の補助師たちは昔からこの世界に慣れているからね」


「はい、ありがとうございます。」


伊奴使は笑顔で頷くと、穣の方を向いた。


「で、穣。学校はどうだった?」


「まあ、山の麓よりは人数は多いし、活気はあった。でも魑怪が絶対にいる雰囲気だった…それに女子がめんどくさそう。」


「まあまあ、君たち二人に良い環境じゃないか」


「嫌だ。俺は行かない。」


「私も行きたくない。頭から血出して帰るよ?」


穣と育がそっくりな表情とポーズで伊奴使をにらんだ。


「駄々こねないの。一年待ってあげたじゃないか。ちゃんと卒業しなかったら私は認めないよ。」


「…ちょっと待って。穣が話しているのって俺の学校のこと…?」


「そうだよ?」


「何で俺の学校の報告してるの?…まさか。」


「そう、そのまさかだよ。二人には君の学校に転入してもらう。」


「えっ!?えええええっ!?!?いや、流石にそこまでしてもらう必要は…」


「違う。お前のためなんかこれっぽちも言っていない。もともと都会よりの学校に転入するつもりだった。それがたまたまお前が現れたことで、お前の学校ってなっただけだ。」


育が統を睨みつけながら言った。


「二人は煌妬とかと違って、周りの人の影響を受けやすいからね。穣は人が多いところにいると、無意識のうちに人の会話が大量に流れ込んでくるから頭痛が激しくなるし、育は反対に誰かの意識内に入ってしまう恐れがあるんだよ。」


「でも穣とはg…の術は特定の生き物にしか出来ないんじゃなかったっけ…?」


育と言いかけた瞬間、育がすごい勢いで睨んできたので、統は慌てて言い直した。


「二人ともここに来る前から、術をある程度身につけていたからね。限定的だけど、感情が高ぶったりすると、限定的な枠が外れることもあるんだよ。そういう状況になっても問題ないかどうかを審査するために二人をあえて学校という場所に放り込むんだ。後、高校卒業は義務教育だからね。」


伊奴使は穣と育のむすっとした顔を見ながら言った。


「でも良かったじゃないか。友達を一から作れっていうわけじゃない。雨惹がいたらまだそこから友達を作りやすいだろ。雨惹の周りは良い奴が多そうだし。」


「確かに煌妬の言う通りだね。もう既に一があるんだから、穣は間違いなく大丈夫だよ。問題は育だね」


穂村と伊奴使が育を見た。


「お前は人に突っかかり過ぎだぞ。穣が心配なのはまあ分かるが…善悪の判断ぐらいは穣もできる。癪に障らないことは多いがそれを耐えて成長しろ。まぁ、穂村家次男の俺に言われる筋合いは無いけどな。」


「(次男だからってどういうことだ…?)」


統は穂村のその言葉を聞いて、頭を捻った。4人兄弟で何か決定的な違いがあるのだろうか。


「言い方が悪いのは分かってるけど…遠まわしな言い方が面倒くさいし、伝わらない馬鹿が多いから。」


「はあ…育。人は建前と本音で出来てるの。私たちはその本音を見抜くことが出来るけど…それは良いことにも悪いことにも繋がる。他の人と同じようにその人の口から本音を聞けるまで待てるようにするのが私たちの制御の練習だよ。統の行っている学校は今より大きいし、人も多い。独り立ちするのに絶好のチャンスだし、今が一番楽な環境だと思う。バラバラの学校じゃないだけマシでしょ。」


さっきまで嫌な顔をしていた穣が育を励ました。姉だからか自分の想いをこらえて相手を正すことが穣には出来るのだ。いや、顔を見る限り、嫌そうなのに変わりはなさそうだ。


「まぁまぁ、大丈夫だよ。俺の知っている限りでは皆良い人ばっかりだよ。それに俺自身も二人に来てもらえるのは安心だし、嬉しい。」


「んー、まあ、そっか…統もあんなこと言われたら、学校生活不安になるよね。」


「チッ…穣と同じクラスならまだ耐えられる。」


「良かった。じゃあ、決まりだね。今週中には二人の転入届を出しておくから、友達への説明はしておいてね。それじゃ折角だし、統には道場の中がどうなっているか見せてあげよう。」


伊奴使はパンッと手をたたくと、穂村が背を向けていた建物に向かって歩み始めた。






伊奴使 峯(いぬつか みね)

犬と同じような感覚を持つ。身長は176cm。38歳で若干白髪交じりの髪型。魑魎祓師では無いが東日本の魑魎祓師と補助師たちを統括している。眷獣師家とは親戚で穣と育には特に気にかけている。

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