眷獣師 育
ガタンッ!!
大きな衝撃と共に車内が揺れ、その揺れで統は目を覚ました。車は夕暮れの山の中を走っていた。
「目が覚めたか。起こしてすまないな、。普通は高速でしか行けないがここはうちの私道だからな。多少揺れるが近道だ。」
穂村がバックミラーにちらりと目をやりながら言った。助手席にいる颯は楽しそうに窓の外の景色を眺めていた。
「だからいかつい車なんですね…」
「いったあぁ…」
揺れで頭を窓にぶつけた穣が目を覚ました。
「あと1時間もすれば着くぞ。」
「久しぶりに煌妬さんの車に乗ったけど、ほんと揺れがひどいね…」
「仕方ないだろ。お前らみたいに山登りするわけにはいかないからな。」
「穣はいつも動物に乗って移動してるの?」
「そうそう、いつもはもっと足の速い守眷に乗ってるよ」
「他の術師の人たちも自分の術を使って移動してるの?」
「そうだよ、颯はまあ昨日ので分かるでしょ。他の人は山の斜面を凍らせて一気に下ったり、水の力で移動したりしているね。大地さんと実璃ちゃんはどう移動しているかうまく説明出来ないんだけど…煌妬さんは火を使うからね。燃やすわけにはいかないでしょ」
「あぁ…なるほど…」
また車が大きく揺れ、舌を噛みそうになった統は静かにすることにした。
・
「お疲れ~、いやーやっぱり車はキツイね~」
「お前、次から乗せないぞ。あと一時間ぐらいで先生が帰ってくるらしい。それまでどっかで待っててくれ。」
穂村がスマホを見ながら言った。
「じゃ、縁側で話そう!煌妬さんは給仕係ね!」
「なんだ給仕係って…」
「僕、お腹空いた~」
「手伝わないお前に飯をやるつもりはない。それに先生が来るんだし、先生の金で出前取ってもらおう。」
「じゃあ、僕寿司が良い!」
「いや、ピザでしょ!こっちは子供三人いるんだよ?」
「大人だって三人ですぅ…お子様な舌じゃないの!」
「雨惹はどっちがいい?」
穂村がぎゃいぎゃいと騒ぐ2人を無視して統に尋ねた。
「え?俺に決定権あるんですか?」
「どうせ新入り祝いも兼ねるだろ」
「えー、まだ会ったこともないのに申し訳ないな…けど、寿司が食べたいです!」
「よし。おい、お前ら寿司で決定したから黙れ。雨惹も待っているんだからさっさと縁側に行け。」
スマホで先生に連絡を入れたであろう穂村が止めに入った。
「はーい。統、行こう」
返事をした穣が歩き出したので、統は慌ててついて行った。
・
「いつも暇なときはここでまったりしてるんだ」
穣が案内してくれた縁側は昨日、入った寮の奥にあった。日本庭園が見渡すことが出来、程よく日差しが入ってきそうな場所だ。
「台所にお菓子あるからさ、持ってくるね。その間は玄太郎と遊んで待っててよ!」
立ち上がろうとした統を止めた穣がそう言って統に背を向けると、どこからともなく穣の相棒である玄太郎が現れた。
「おおっ、げんちゃろじゃん。元気にしてたか?」
玄太郎はニャーと返事をし、統の肘に頭をこすりつけた。
「かわいいなあ…俺も猫欲しかったんだよなぁ…玄太郎はハンターみたいに消えたりしないのか?」
玄太郎は統の問いに答えるかのようにしっぽを揺らした。
「そういや、まだ俺、あの三人以外の人たちにも会ってないんだよな…皆、年上なのかな。穣の弟の育にも会ってないし…」
「おい、お前に俺を呼び捨てする権利は無いぞ。」
「うおっ!聞かれてた!?ってえ!?」
統が慌てて振り向くと黒髪の穣が立っていた。しかし、よく見ると穣より背は高いし、目も緑色だ。
「あ…弟さん…」
「お前、穣に何にもしていないだろうな?」
育が上から統を見下ろしながら、青筋を立てて聞いた。
「いや、何もしてないです。むしろ、穣が引っ張て来て…」
「ふん、図々しい。なんで何の役にも立たなさそうなお前が穣と一緒にいるんだ。俺は認めないぞ」
何を!?と心の中で統は突っ込んだ。どうやら育は穣のことが相当好きなシスコンのようだ。
「あ~あのさ、俺もまだ自分の役割よくわかんないんだよね…俺、雨惹統。同い年だし、仲よくしよう!」
「お前と仲良くする気なんてさらさら無い。」
育が統の笑顔をにらみつけ、数秒無言で向き合っているとお待たせ~という声と共に穣が帰って来た。
「あれ、育じゃん。帰ってきてたの」
「穣たちが帰ってくるより前に…」
「そりゃそうか。統、昨日から言ってた双子の弟の育だよ」
「あ、うん。そっくりすぎてすぐ分かった。」
「そう?統は髪色で判断しているわけじゃないんだね。さっき颯が車酔いから覚めたみたいだから、こっちに来るかも。育は?」
「…いる」
穣と統が二人なのが嫌なのか育はストンと縁側に座った。
「はい、これお茶ね。統が行ってる学校どう?楽しい?」
「ありがとう。え?俺の行ってる高校?まあどこの高校ともあんまり変わらない気がするけど…でもイベントとか皆で協力し合って盛り上げてるって感じで楽しいよ。」
「ふーん、今日学校の中に入ったんだけどさ、やっぱ都会の方だからかもしれないけど、あんまり良い空気じゃなかったから…」
「思春期のめんどくさい奴らの集まりなんだから、魑怪がいてもおかしくないだろ。」
「えっ俺の学校にいるの!?」
「そりゃいるでしょ。イベントも楽しいって言ってたんだから、テンション上がった生徒の喜びやテストで赤点とった生徒の悲しみとか魑怪が集まる要素はゴロゴロあるよ。」
「あ~えー…俺ディスられてる?」
昨日、穣に赤点ギリギリだった話をしたのを思い出した統は苦笑いした。
「頭がガンガンするぐらいイライラしたり、泣きたくなるぐらい嬉しかったり、叫びたいくらい辛い時とかあるでしょ?でもその時に学校とか公共の場で人が大勢いる場所だったらどうする?急に叫ぶ?」
「いや、しない。」
「そう。そのグッとこらえたり、叫び声を飲み込んだり、涙を抑えるために瞬きをたくさんしたり…そういった拍子に魑魎怪は生まれるんだ。」
「だから、人が多いほど生まれやすいのか…」
統は穣の話に納得したかのように頷いた。
「そうそう。視えたらさ、魑魎怪が生まれないような方法とかできるんだと思うんだけどさ、霊感みたいな感じで見える人は限られているからね…」
「どういう人が見えるとかあるの?」
「まあ、とりあえず魑魎祓師って呼ばれる人たちは皆見える。それに加えて祓う能力が無くても親戚関係にある人も視えるかな。後は統みたいな特異型。精神的に不安定な時に見えやすいらしいけどさ、突発的に見える人もいるんだね。」
「俺みたいな人、他にもいる?」
「いない。少なくても聞いた限りではね。だから先生に調べてもらう。」
「…来た。」
突然、育が呟いた。
「え?」
統が声の主の方を向くと育は目を閉じて、眉を寄せていた。
「蛇の意識に入ってる。目を閉じていた方がより鮮明に見えるからね。」
穣が小声で言った。
「へえ…で、何が来たの?」
「決まってるじゃん。先生だよ先生。」
・眷獣師 育
穣の双子の弟。両生類・爬虫類・鳥類の頭の中に入り込み、意識を操ることが出来る「生」の祓師。穣と同じストレートの銀髪だが、似合わないとからかわれたことからずっと黒色に染めている。目は深緑色。穣より身長が高く、昔から夜遅くまでゲームやっていたが身長は175cmはある。性格は穣と正反対で、人見知りで愛想が悪い。穣のことを本当に大切に思っているため、穣の言うことは聞くが、穣と仲が良い人には大抵突っかかる。
先生が来るまで時間かかりすぎてる…もうちょっと簡潔にまとめたいのですが、出来ない!!(笑)




