穂村 煌妬
「いいじゃないですか、長い付き合いなんですし!」
「やめろ、恥ずかしい…ってか何で補助師と一緒に来てるんだ?」
「彼はまだ補助師じゃないんです。数時間前から魑怪が見えるようになったんですよ」
「本当か?」
煌妬が目を見開いた。
「あっ、俺!雨惹統です!よろしくお願いします!」
「おい。穣。ちゃんと確かめたんだろうな。精神の乱れで見えた奴を連れてきたのなら、お前は重大な間違いをしたことになるぞ。」
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと確かめましたよ~それにどっからどう見ても元気ぴんぴんじゃないですか!」
「俺はまだ認めていない。だからこいつに魑怪が本当に見えるか確かめるぞ。」
「良いですよ、あと彼の親類、誰も知識ないみたい。だから、何か持っているかもを考えて先生に調査をお願いしようと考えてまーす。」
「ますますお前の判断に疑いを持つぞ…あと、先生はいない。2日後に帰ってくる。」
「ええ、そうなんだ…煌妬さん、知ってるでしょ。私の第六感が統には何かあるって言ってるんです、信じてくださいよ」
「ふん…俺は自分の目で見ないと満足できないのでね、お前、付いてこい。」
「は、はいっ」
煌妬の後を慌てて統は追った。
「あ、煌妬さ~ん。私、守眷はなっちぱなしなんで休ませてもらいますね~あとはお願いします~」
そういうと穣は統たちとは反対方向に向かった。
「えっ?ったく、面倒ごとには逃げやがって…」
煌妬はため息をついた。
「あ、あの!どうやって魑怪が見えるかどうか確かめるんですか?」
「何匹か研究のために捕獲してるやつがいる。それを見せる。」
「…あの、煌妬さんは一体…」
「下の名前呼ぶな。それにお前はまだここの者じゃない。俺のことを教える筋合いは無い。」
「そうですよね…すみません」
「お前が見た魑怪はどんな奴だ?たまりにたまったデカい奴か?」
「いえ、8年前から飼い主を待つ猫の魑怪です。あ、穣が珍しいって言っていたんですけど、何でですかね?」
煌妬が驚いた顔をした。
「だから、穣が自信満々だったのか…!魑魎怪はたまった感情が多い又は重いほど、訴える力が強くなるから、よく見える。お前が見たのは一匹の猫の魑怪。しかも8年前だと既に飼い主の記憶も薄いだろうから、訴える力は弱い。つまり、見えづらいということだ。だから、穣も忘れていたんだ。」
「へえ、だから珍しいんですね。初めての割に弱い力の魑怪を見つけたから。」
「そういうことだ。着いたぞ。」
そういうと煌妬は蔵の扉を開けた。中は明るく、ケースにいろんな魑怪がいた。
「こいつらは生まれた場所から切り離されているから、これ以上大きくなることは無い。ここでは生まれた原因の分からない魑魎怪を解剖することで原因を発見し、これ以上の魑怪の増殖を抑えている。ブラック企業とかいい例だ。ここで解剖して原因が解き明かされることで、その会社が隠してたこととかストレスの原因が分かる。」
「へえ、意外な企業が訴えられるときとかはここでの解剖がきっかけですか?」
「まあ、そうだな。で、どこまで見える?」
「えっと、とりあえず目の前の何か腕が8本ぐらい生えてるやつは視えます。あと、その横のケースに引っ付いているのも…ってかここに並んでるやつは全部見えますよ。あ、あとあのテラリウムみたいなやつに入っているのも。」
「じゃあこれは?」
「えっ!ケースから出てるじゃないですか!そんな小さいのもいるんだ…」
「これはさっき捕まえた。山の動物のだからそこまで強くないし、こいつは喜びから生まれ出たものだから平気だ。」
「…喜びから?憎しみとか怒ってとかじゃないんですか?」
「激しい喜びから生まれる魑魎怪もある。ほら、渋谷のハロウィンとかいい例だ。大勢が酒を呑んで、楽しんで気分が良いまま終わればいいのに、その後暴れまわるだろ。あれと同じだ。こいつも動物が喜んで駆け回ってるんだろ。」
「あっ…もしかしてハンターのかもしれない。」
「ハンター?」
「穣が乗せてくれた馬です。久しぶりに出したついでに山で遊んでおいでって言ってました。」
「間違いなくそれだな。ハンターは狩猟用の馬だが、魑魎怪を祓うには他の動物の方が早いからな。俺たちと違ってあいつは生の術師だからこうやって魑怪を生み出すこともある。後で説教ついでにこいつを持って行ってやろう。」
そういうと煌妬は穣が出した魑怪にガラスの蓋をかぶせ、壁にあるスイッチを押した。するとガラガラガラという音と共にシャッターが開き、夕日の光が差し込んできた。
「お前のことは認める。先生にお前の家系の調査をするように伝えておく。」
「ほ、本当ですか!ありがとうございます。」
「大したことはしていない。先生はいないし、まだ夜遅くないから車を出してやる。明日、誰かをお前のところまで迎えに行かせる。どこに住んでるんだ?」
「三鷹市です。」
「あ~だいたい三時間か…」
「あ、そういえば俺、親に今日は友達の家に泊まるって連絡しました。穣がそうしろって言ったんで。」
煌妬は額に手を当てて、ため息をついた。
「あいつ…はじめっから入れる気満々だったんだな…分かった。今日は泊っていけ。空いてる部屋ならたくさんある。」
「ありがとうございます!」
「はあ、ったく…」
そういうと煌妬は魑怪たちが並んだケースの方に歩き始めた。やってきた沈黙に焦りを感じた統は先ほどは教えてくれなかったことを聞こうと口を開いた。
「あ、あの…俺のこと、認められたのでしたら…お名前を…」
「穂村。穂村煌妬だ。教えたからには下の名で呼ぶな。」
穂村は統に目もくれずにそう言った。
「あ、了解っす…(本気で名前呼びされるの嫌いなんだな…さっき『俺たち』って言っていたけどこの人ももしかして…)」
統は数歩、穂村の方に歩み寄ったその時、ゴオオオッッという轟音と共にケースの中にいた魑怪たちが炎に包まれた。
「うわあああああ!!!な、何があったんですか!!!」
「大丈夫だ。落ち着け。」
「いや、落ち着いていられませんよ!!火事じゃないですか!ってか何で急に火が…「俺だ」」
「え?」
統は燃え尽きたケースから目を話し、穂村を見つめた。
「俺だよ、俺が燃やした。」
穂村は統を見つめた。
「え?それってもしかして、」
「火の術を持つ者。俺は全てを焼き尽くすほどの力を持つ穂村家の1人だ。」
「あ、そうだったんですね…すみません。」
「構わん。俺の炎を太陽の光から作りだされる。それに火を消すこともできるから、安心しろ。」
そういって穂村が手を閉じる動作をすると火が跡形もなく消え、魑怪の燃えカスが少し舞っていた。
「おぉ…すごい」
「太陽の力でしか俺の力は使えない。つまり夜では俺は無能ってことだ。ここにいた魑怪は研究済みで処分するように言われていた…っと、こいつもいつの間にか消えてる。」
そういうと穣の魑怪がいたガラスの蓋を開けた。
「今日泊まるとなれば、部屋が必要だろ。案内してやるから付いてこい。」
「は、はい!」
統は慌てて返事をすると穂村の後についていった。
・穂村煌妬《ほむら あきと》
火の術を持つ者。180㎝はある身長でがたいが良い。固そうな黒髪に暗い赤色の目で、日に当たるとオレンジがかって見える。基本的に太陽の力を借りて火を扱っており、夜はライターを持ち歩いている。日光で出した火の方が威力は強い。いつも怒っているように見えるが、寡黙なだけ。穣と先生以外に煌妬と呼ぶ者はいない。2人がなぜ呼べるのか謎レベル。




