犯人Ⅰ
「…で、これ以上はもう私の鼻は馬鹿になってしまったので分かりません!」
「あたしですらもう臭いの分かるから、分からないのは当然だよ。」
「どないしましょう。バラバラになるか?」
「何言ってるんですか。私の実力舐めないでくださいよ。」
そう言って穣が指を鳴らすと、ゴミや下水で悪臭が漂い、四方八方に細い路地が広がっている中から、白い毛並みの良いネズミが数十匹出てきた。
「おおっなるほどね」
「この付近に魑怪がいると思うから、見つからないように探してきてくれ。見つけたらすぐに私のところに帰ってくるんだよ。」
穣がそういうと、ネズミたちは一鳴きし、散り散りになって消えた。
「ええやん、えっころ使いこなしてるやん」
玲瓏が先ほどの穣と守眷のやり取りを見て、ほーっと感心の声を上げた。
「ただの飼い主やないかんな。チュー太たちが戻ってくるまで、ここで待っておきましょう。」
穣は玲瓏のマネをして、関西弁で答えた。
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「どう思います?雨惹のこと。」
ネズミの守眷が戻ってくるまで路地で待って数分、穣が口を開いた。
「あたしは全然分かんない…使えるの?」
「うーん、わしが思うにあの子はいっぷりやな。魑魎祓師では無いけど、補助師でもない。でも役に立つのは間違えないと思うから、今日みたいにどんどん連れ出して早く見つけたらんと知識が掴つかん。」
「やっぱり玲瓏さんには分かるんですね、流石昔ながらの名家!」
「独り立ちする前に見抜いたお前に言われると何か腹立つな…」
「8年前に生まれた魑怪を発見したのは、初めて魑怪が視えた高校生だなんて誰でも異常だって思いますよ。」
「キーッキーッ」
足元から生き物の鳴き声がした。
「あ、帰って来た!こっちですよ!」
守眷の鳴き声に素早く反応した穣は、路地の角に現れたネズミの後をおった。
「…この曲がり角のところにいるんだって。」
ネズミの声を聞き取った穣は小声で二人に伝えた。
「…一人か?」
「うん、1人で男。包丁を所持していて、血がこびりついているって。魑怪の姿は見えないらしい。」
嶺が小さくうめき声をあげた。
「うーん、困ったな…男の身体に完全にとりついたんかも知らん。引き剥がすのは大変じゃで。」
「かと言って、傷つけたら文句言われるのはこっちなんでしょ!」
小声で嶺が言い返した。
「魑怪は見当たらないんで、とりあえず古田さんに連絡しましょう。」
穣はそう言って、スマホでメッセージを送った。
「傷を付けなくていいなら、縛っておくのは問題無いじゃろ。あらけないけど、嶺の術で犯人を取り押さえッ、うわっ!」
突如、風を切る音と共に壁に刃物が強い力で刺さった。角の一番端にいた玲瓏は刃物の空を切る音に驚いて声を上げた。
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫じゃ!それより壁を見ろ!」
穣と嶺が壁を見ると、そこには刃物の刺さった周辺に複数の壁に傷がついた痕があった。
「これって…さっきの一投げで…?」
「そうみたいだね、透さんの言ってた通り、魑怪は包丁か男のどっちかに完全にとり憑いている。一回の攻撃で複数の斬撃が出るから、被害者の遺体が激しく損傷していたんだ…」
「どんだけ怨みがあるの…」
「とりあえずあの男を押さえつけよう、あの攻撃はおそらく怨みのとかの気持ちが溜まることで外に発出されるんじゃ!俺たちが触ると逆に自分らが傷つくかもしれんから、触るな!」
「「はい!!」」
2人の返事と共に角から飛び出した玲瓏は飛び掛かってきた男を羽交い絞めにしようとしたが、我を忘れて暴れまわる男は、手を振り回して玲瓏の腕を跳ね除けた。
「う”わああああああああ!!!!!!」
玲瓏に続いて飛び出した二人は、暴れまわる男の攻撃を避けて、玲瓏のそばに駆け寄った。
「大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫。それよりあの男が刃物で切りかかってくる前に押さえつけな…」
「私が近づいて男の動きを抑えます、なので玲瓏さんと嶺は隙をついて男を拘束してください。」
穣がそう言って腕を大きく振ると、猿の守眷が現れた。
「ホンマは俺が一気に片づけたいけど…人間相手じゃあいまちさせるのもあかんからな…」
玲瓏がそういったのと同時に男が壁から刃物を抜き、再びこちらに向かってきた。男の雄たけびと同時に、穣は地面を蹴って男の方に向かって走り出した。
穣は生の術で、守眷という名の動物を出現させることが可能ですが、守眷を出すのに必要な合図とかは無いです。守眷は穣の意識から出現しているようなものなので、棒立ちしていても出来ますが、確実に守眷を出現させるために穣は指を鳴らしたり、腕を振ったりしています。守眷に名づけることは出来ないので、チュー太は本名じゃありません。




