玲瓏 透
ばったばたしてて、やっと書けたー!!!
古田が送ってきた住所付近に着いたところで、穣は車内の窓を全開にして、思いっきり息を吸い込んだ。
「何してるの…?」
まるで犬のように鼻をスンスン言わせる穣に微妙に引きながら、統は尋ねた。
「西の方から微かに血と下水のような匂いがする。」
「確かにしますね…西というよりは南西ですね。被害者のものかは分かりませんが、この独特な臭さは嫌な感情の入り混じった魑怪の匂いです。」
穣と同じように空気を吸いこんだ伊奴使は素早くこたえた。
「え…?何にも匂わないけど…」
「それが普通だから大丈夫ですよ。穣は猫の能力を借りてますし、私は元々一般人の何千倍嗅覚が鋭いですから。」
「何千倍…鼻がしょげそうですね…」
「慣れてるから大丈夫ですよ…あぁ、もしもし透くん?」
『おはようございます。先生ら、いつ着くんです?俺と嶺、もう待ち合わせの駅に着いてますよ』
伊奴使の電話から、男性の声がした。
「駅から10分の所にいますよ。先ほど古田くんから、新たな遺体が見つかったと報告を受けてね…先に魑怪を見つけてこちらで処分してしまおうと考えているんです。今から予測がついている場所に向かうので、お二人もそちらに来ていただけませんか?」
『えぇ~それはえっころヤバいですね、お二人さんの嗅覚は信じてるんでどこまでも付いて行きますよ』
「それは嬉しいですね、南西の方だと思うのですが、まだ場所が確定していないので、とりあえず今私達がいる場所に来てください。」
『わかりました、とりあえず今送られた3人目の遺体が見つかった方に向かって歩いていきますよ。ささ、嶺行くぜよ~』
『あ”ぁ?うざいんだけど…』
電話の向こうから若い女の子の声が聞こえた。
「今の声って…」
「氷の術を持つ嶺だよ、中2で反抗期なんだ」
「年下…こわ…」
「まあ、確かに見た目はね。中身は普通の女の子だよ。」
「じゃあ、お二人ともお願いします。」
そういうと伊奴使は電話を切った。
「先生はどんな魑怪だと思う?」
「三人の被害者が出ているので、並大抵では無いでしょうね。万が一と思って、透を配置して正解です。ここまで来たのに申し訳ないけど、統くんは私から離れないでください。本当は車内で待っていて欲しいのですが、車内より私といた方が安全ですから。」
「分かりました…」
「私と統くんは古田くんと合流します。穣は二人と合流して魑怪を発見して処分してください。もし犯人が人間だけだった場合は、すぐに古田さんに連絡してください。」
「了解です」
そういうと三人は車を降りた。そこから数分歩くとパトカーや野次馬、スーツを着た刑事が数十人いる事件現場に到着した。
「伊奴使さん、おはようございます。こんなことになってしまうとは思わなくて…」
先ほどの電話と同じ声をした細身の眼鏡をかけた青年が立っていた。
「古田くん、おはよう。私もここまで早く被害が広がるとは私も思っていなかったよ。」
「眷獣師さん、お久しぶりです…そちらの方は?」
「お久しぶりです。彼は昨日から魑魎怪が見えるようになった雨惹統くんです。ハイスピードで魑魎怪の知識を身につけてもらおうと思って連れて来たんですけど、ここまでになるとは思っていなくて…」
「なるほど…いくらハイスピードといっても、いきなり現場に連れてくるのはなかなかですね…」
「雨惹統です。よろしくお願いします。」
「古田瓈玖と申します。補助師は補助師ですが、少し特殊ケースです。」
古田は最近の激務のせいか、少し皺になったスーツを伸ばした。
「私達の予測では南西の方に魑怪がいる。透の三人が犯人の発見と魑怪の祓術を行うよ。三人が人間の犯人を捕まえるのは禁止だし、正当防衛以外での人間に対する祓術の使用は禁止されているからね。だから、古田君には三人が犯人から魑怪を引き離したと同時に確保して欲しい。」
「分かりました。とても助かります。資料にも掲載しているのですが、犯行には複数のナイフまたは複数人が関わっているかもしれません。一つの遺体に様々な深さの傷が入っているので…ともかく犯人が自身にとり憑いている魑怪に気付いての攻撃ではない限り、ややこしいことになるので注意をお願いします。」
「大丈夫ですよ~透さんがいるので多少の融通は効きますし、私の守眷は攻撃のための生では無いので。」
「いえ、眷獣師さんについては心配していないのですが、私が心配しているのは…」
「お~い先生!ちょうどですね。」
統が振り向くと、少し猫目の緑かかった黒色の髪型の男と、背の低い黒スキニーに厚底スニーカーを履いた女子が近づいてきた。
「透くん、ちょうどだね。」
「おはようございます、先生。古田さん、穣。で、この子が…」
「雨惹統です。よろしくお願いします。」
「あ~昨日言ってた子ね、玲瓏透です。よろしくぅ」
「(玲瓏って…穂村さんが言っていた水の術を持つ者で穂村家の因縁の相手…)」
「嶺~おはよう」
穣が嶺と呼ばれる全身黒コーデにシルバーのアクセサリーをした、いかにも都会を歩いているKPOPが好きそうなキツそうな顔をした女の子に抱き着いた。
「で、こっちが氷室嶺。わしの親戚で氷の術が使える。」
玲瓏が嶺の代わりに答えた。
「よろしく…お願いします。」
嶺は無言でジトーっと統を見つめ、フイとそっぽを向いた。
「(ええ…育よりどうすればいいのか分からん…)」
「はいはい、挨拶は済んだかな?三人には早急に今回の犯人と、そいつにとり憑いていると思われる魑怪の排除をしてきて欲しいんだ。」
「了解っす、あっちゃの方ですよね」
そういうと玲瓏は南西の方を指さした。
「そうだよ、犯人だけの場合は古田くんに即連絡。魑怪が攻撃して来たら、犯人を保護しながら処分すること!」
「「「はい!!」」」
三人は伊奴使に返事をすると南西の方に走っていった。
「さて…私達は犯人の残した跡から、こうなってしまった原因を探りましょうか。」
「はい…」
古田が持ち上げた立ち入り禁止テープを括りながら、統はドキマギしながら返事をした。
・古田 瓈玖
眼鏡をかけた細身の刑事として働いている27歳の補助師。地域に密着している形の補助師では無いが、伊奴使に不可解な事件を持ち込んだりしている。沃野家と親戚で、真面目で堅実。
・玲瓏 透
水の術を持つ者。緑がかった髪と深海のような目を持つ細身。玲瓏家は穂村家と対立しており、透と煌妬の仲も良くない。嫌味の言い合いをずっとしている。高知県出身で東京に来て数年経っているが、未だに方言が抜けていない。
・氷室 嶺
氷の術を持つ者。玲瓏家とはとこぐらいの親戚関係。いつも全身黒コーデでいわゆるクロミちゃん系。男性を毛嫌いしており、師弟関係でもある透も疎まれている。中学2年だが大人っぽいルックスの上に無口なので、よく年上に見られる。




