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魍魎祓師  作者: まっふん
10/16

初日終了


「(ふぅ…さっぱりした…)」


共同の風呂に入った統は濡れた髪を拭きながら、廊下に出た。今日は新入りに馴染んでもらおうということで、居間でカードゲームや他愛のない話で盛り上げてくれている。


「(ほんと皆、良い人で良かった…同い年の育とは一番仲良くしときたいんだけどなぁ…)」


晩御飯時も育は統の話に相槌は打つものの自ら話しかけてくることは無かったし、穣と仲良さそうに話してくると背中にグサグサと視線が刺さってきて、蛇ににらまれた蛙のような気持ちになった。


「(なんか色々すごそうな人たちの中に俺は混じっててもいいのか…魑魎祓師でもないし、補助師としても役立つか分からないし、魑魎怪が今後も視える確証はないのに…)」


不安はたくさんあるが、始めの印象が大事なのだ。ここでインキ臭さを出してしまったら、仲良くなりづらくなるかもしれない。よし!と統は気合を入れると居間に続く扉を開いた。


「あ、統くん!さっぱりした~?」


車酔いから立ち直って、居間の中で一番元気いっぱいの颯が手を大きく振った。


「お風呂、ありがとうございます。さっぱりしました。」


「良かった良かった。さっき話していたんだけどね、明日統くんは何も予定は無いよね?」


お茶を飲んでいた伊奴使が統を見た。


「はい、明日は魑魎祓師について先生が教えてくれるからって車で穂村さんに言われたので…」


「なるほど、それは良かった。挨拶した時に私が都内での魑魎怪よる殺人事件の話をしたの覚えているかい?」


「はい、覚えてます」


「さっき警察の方から連絡が来てね。どうやら犯人っぽい魑怪が見つかったらしいんだ。今は何も害が無さそうだから何とも言えないんだけど、明日中に祓ってほしいって言われてるから、いきなりだけど統くんには現場を見てもらおうと思ってね。」


「ええっ!?いきなり現場に行って大丈夫なんですか…?俺迷惑じゃないですかね…」


「自分で迷惑って言ってるから連れていく必要ないじゃないですか。」


育が拗ねた声で伊奴使に言った。


「大丈夫大丈夫。今のところ害が無いってことは何かしらの条件がそろうことで凶暴化するってことだからね。それにそういう耐性もつけてもらわないとね。」


「えっと…誰が明日行くんですか?」


「都会だからあまり大きく動かなくて済む穣と嶺と透を連れていこうと考えてるよ。透がいるから嶺にとってもいい練習になるでしょ。」


「透…嶺…」


「水と氷の魑魎祓師の2人だ。」


統のつぶやきに穂村が答えた。


「嶺は統くんより年下で、透はほむくんと同い年だよ。」


「俺より年下!?」


「うん、中学3年生だよ」


「魑魎祓師になかなか同性っていないのにまさかの唯一の後輩が女子なんてほんと可愛くて仕方がない!」


穣が頬を両手で挟んで嬉しそうに言った。


「へえ…唯一の同性の後輩…ってんん!?」


「どうした?」


「え、いや、待ってください。あ、振袖…ってそういうことだったんだ…」


「おい、おまえ、まさか…」


育が何か気づいたように統の顔を指で指した。


「穣のことを男だと思っていたのか?」


「は、はい…そうです…ちょっと怪しいなって…」


統はしどろもどろになりながら正直に答えた。


「へっ?っちょ、アッハハハハハ!!それは面白すぎる!」


穣がキョトンとした顔を歪ませて爆笑した。伊奴使も穂村も声を出して笑ってはいないものの下を向いて笑いをこらえていた。


「お前、ふざけるなよ!どこをどう見て穣が男なんだ!女の子だろ!失礼な奴め!」


「いやいやいやごめんって。だって顔も雰囲気も服装もどっちともとれなくて…」


距離を縮めてキレてきた育に圧倒されながらも統は答えた。


「…だから俺が穣に近づくと睨んできたんだね…」


「えー!!はぐむん、嫉妬??もう、かわいいなあ~」


統の鋭い指摘に颯が目じりを下げて、ニコニコと微笑んだ。


「ねえちゃんっ子過ぎるだろ…まあ仲悪いよりいいけど…」


穂村は呆れたように溜息をついた。


「なっ、う、うるさいっ!穣を心配してるだけだ!」


育が少し頬を赤らめながら、否定してくるのを見た統は、可愛いところもあるじゃんと見る目が変わった。


「統くん、やっぱり君は面白いね。皆と馴染めそうで良かった。」


ひとしきり笑った伊奴使が嬉しそうに統を見た。


「失礼なこと言ってすみませんでした…」


「よくあることだし気にしてないよ。でも2日目になっても気づかなかったのも珍しいけどね」


「俺って鈍感なのかな…」


「かもしれないね。とりあえず明日は新たな魑魎祓師に会うけど、東日本で大活躍中の2人だからちゃんと顔と名前を憶えて帰ってね。統くんにやって欲しいことは、明日の3人の術を見てその内容を私に報告すること。ちゃんと魑怪の姿かたちも教えてね。」


「あの…補助師って俺一人だけですか?」


「いやいや、魑怪がいる辺りを管轄としている補助師たちが来るから一人じゃないよ。流石に来たばっかりの人に全てを任せることは出来ないからね。」


「良かった…」


「じゃあ、私は警察に連絡してくるね。9時にはここを出るから、穣と統くんは支度をそれまでに済ませておいてね…じゃあ皆、おやすみ。」


「「「おやすみなさい」」」

 

何人かが伊奴使の挨拶に返事をした。


「いきなりの実地、どっきどきだね~」


「不安です…」


「大丈夫だよ!透はほむくんと同レベルに強いし、嶺ちゃんも中3の割にはしっかりしてるし!」


颯が統を励ますように肩をポンポンとたたいた。


「いや、皆の強さじゃなくて…ほんとに明日も魑怪が見えるのかなって…」


「大丈夫だよ。昨日のあの猫の魑怪は統が視えると判断して、襲おうとしていたもん。それにまだ完全体になる前の魑怪が視えてる時点で間違いなく明日も視える。」


穣の力強い瞳に統は己を納得させるかのようにうんうんと頷いた。


「よし!じゃあ明日の統くんの健闘を祈ってもう一回、大富豪をしよう!」


「もう夜中だぞ…」


「帰りたい…」


颯がカードをせっせと切る横で育と穂村がため息をついた。



「おやすみ」


数個隣の部屋にいる穂村と就寝の挨拶をした統は扉を閉めた。結局1回で終わりと思っていたが、統が大貧民になってしまい、これじゃあ歓迎会の〆には悪いとなって、2回大富豪をした。何人かでワイワイと夜中まで過ごすのは修学旅行ぐらいしかなかったので、統自身としては楽しかった。だが、明日の自分がどうなってるのかが不安でしかない。


「はぁ~~~~~大丈夫っかな…」


のろのろと寝る支度をした統は満腹の上に緊張していたのか、心配で目が冴えるようなことも無く、すぐに眠りについた。




穣って女の子か…?みたいな表現を以前書いていたで、追加しました。穣は年がら年中パンツスタイルです。160㎝身長がある上に細身で育とほぼ同じ顔なので中性的な顔のイメージを持っていただければ…

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