♥ 人形駅の呪い「 夏のホラー2020 」
●●●県●●●郡●●●●町にある曽井子駅には、何故だか無数の人形が置かれている。
何時、誰が人形を置いたのか──。
何故、人形を置いたのか──。
何の目的があって、何の狙いがあって、人形を置いたのか──。
駅を利用する者にも、駅を通り過ぎる者にも一切理由は分からない。
勿の論、駅で働いている駅員達にも理由は分からないでいた。
利用者の多い曽井子駅は何時からか “ 人形駅 ” と呼ばれるようになっていた。
誰が “ 人形駅 ” と呼び始めたのかも分からない。
人形は何故だか年々増え続けている。
人形が勝手に増殖しているわけではない。
態々曽井子駅へ人形を甲斐甲斐しく持ち運んで来ている迷惑極まりない人物が居るのだ。
曽井子駅には最新式の防犯カメラが彼方此方に設置されている。
然も、終電の電車が去った後には、早々に侵入禁止にされるようになっている。
改札口の前には頑丈なシャッターが設置されており、朝一に来た駅員がスイッチを押さないと上がらないようになっている。
一般人の入り口は改札口だけの為、シャッターを閉めてしまえば、無人となった駅に潜入する事は出来なくなる。
駅員達は曽井子駅内にある駅員専用の部屋に3人体制で寝泊まりしている。
勿の論、稼働している防犯カメラの画像をチェックは欠かさない。
防犯対策も万全な曽井子駅に、夜な夜な忍び込んでは人形を持ち込む不届きな輩が居るのだから、駅員達と不届き者との仁義なき戦いは終わらない。
未だに迷惑千万な不届き者の正体を突き止めれていないし、人形を置いていく決定的な瞬間を捕らえられていない。
防犯カメラの画像には誰も映っていないのだ。
それでも人形の数は確かに増えている。
不気味な程に増えていた。
怪奇だった……。
あまりにも多くなった人形を処分する為に、近所の由緒正しい蒔邑寺社へ人形の御焚き上げを依頼する事も屡々あった。
然し、人形の御焚き上げをして戴いた日から1週間以内に必ず事故が起こるようになった。
初めは偶然だろうと思っていたが、どうやら偶然ではなく必然である事を蒔邑寺社の和尚から聞かされ、蒔邑寺社へ人形の御焚き上げは残念ながら中止になってしまった。
ご近所の最寄り駅という事もあり、蒔邑寺社の和尚からの厚意で春季彼岸供養会,夏季彼岸供養会,秋季彼岸供養会,冬季彼岸供養会と1年に4回の彼岸供養会を曽井子駅へ態々訪問して営んで戴いている。
どうやら供養の効果はあるようで、4回の供養を終えた後で御焚き上げをして戴くと何の問題もないらしい。
供養会後に御焚き上げをして戴いた日から1週間経とうが、1ヶ月経とうが、1年間経とうが、事故が起こる事はなかった。
これで一安心だと思われたのは、現在から5年前の話だ。
現在はと言うと、曽井子駅の駅長が代わり、代々続けられていた蒔邑寺社の和尚の厚意による1年に4回の訪問彼岸供養会を断るだけでなく、供養会後の御焚き上げも断ると、曽井子駅に置かれていた全ての人形を依頼した親戚の清掃会社に総撤去させ、粗大ゴミとして出させてしまったのである。
曽井子駅からは人形が1体も無くなり、何処にでもあるような至って普通の駅に戻ったのだが……、奇妙で不可思議な出来事が頻繁に起こるようになってしまった。
事故が起こらないだけ未だマシな方ではあるが、下手をすれば事故に繋がり兼ねない不可解な出来事には、駅員達も利用者達も不安で仕方無かった。
【 人形を強制撤去した呪い 】だと誰かが言うと、その噂は瞬く間に拡散されるや否や、曽井子駅は【 呪われた人形駅 】として、有名な都市伝説のサイトにもアップされるようになった。
都市伝説のサイトで存在を知った好き者達が面白半分で訪ねて来るようになった。
駅長は客寄せの為に様々なグッズを作らせ、販売を始めた。
様々なグッズの中で人気が出たのが、こけしと日本人形を合わせたような人形のストラップだった。
何故だか爆発的な大ヒットをした人形ストラップを曽井子駅の公式イメージキャラクターにするや否や、曽井子駅内で怪奇が頻繁に起こり始めた。
何が原因で怪奇が起こるのか理由が分からない。
駅長は怪奇だのオカルトだの霊的なスピリチュアル関係の云々を一切信じない人種だった。
思い付く限りの有りとあらゆる世間一般的な対処を徹底的に尽くし、科学的に証明させる為にも尽力したが、怪奇はまるで平常運転のように常に起こる。
それでも曽井子駅を利用する人達の数は減らない。
至極便利な最寄り駅だからだ。
強制撤去されてしまった人形達の怨念による呪いが原因なのか、今日も曽井子駅の何処かで何等かの怪奇が起きている。