夢が手招く
こんにちは、遊月です!
「約束」作品、2話目の投稿となります。信じるというのは、とても難しいことなのかもしれませんね。
どこか様子のおかしい夏希に、藍は……
本編スタートです!
うそつき。
うそつきうそつき、うそつきうそつき。
うそつきうそつきうそつき、うそつきうそつきうそつき、うそつきうそつきうそつき。
私、覚えてたのに。
ずっと覚えてたのに。
何があっても、何されても、何しても、何見ても、何聞いても、何触っても、ちゃんと覚えてたのに。
うそつきうそつきうそつきうそつき、うそつきうそつきうそつきうそつき、うそつきうそつきうそつきうそつき、うそつきうそつきうそつきうそつき。
* * * * * * *
「夏希?」
「え?」
「もしかして、調子悪い? なんかぼーっとしてたよ」
「ん、なんでもないよ。ありがと、藍ちゃん」
「そう?」
このところ、夏希がぼんやりしていることが増えてきた。確かに朝晩とお昼の気温差が激しい時期になってきて、わたしも体調を崩したりすることもある。けど、夏希のそれはなんだか、そういうものとは違うような気がして。
今も、そう。お互い仕事が休みということで近所のスイーツ店に来ているけど、どこか上の空で、パフェのアイスが溶けはじめているのにも気付いていないようだった。少しでも気が晴れればと思って夏希の好きなお店を選んだつもりだったけど、効果はいまいちだったみたいだ。
スイーツ店を出たあと、駅前ロータリーのベンチで並んで座りながら、またぼんやりしていた夏希に尋ねてみることにした。
「ねぇ夏希、このあと行きたいとこある?」
「行きたいとこ?」
「うん、どこでもいいよ。だって今日ふたりとも休みだし、たっぷり時間あるから」
「そう? じゃあさ……」
少しだけ躊躇うような間が空き、ようやく彼女の口から出てきたのは。
「藍ちゃんのおうち……とか駄目?」
「え、うちって……うち?」
「う、うん……」
夏希が言っている「わたしのうち」というのは、きっと夏希と同棲するようになるまで使っていたアパートのことではない。たぶん、父と母が住んでいる、言うなら実家とも呼ぶべき場所。この辺りからでも、電車を2本くらい乗り換えれば2時間足らずで着く距離だ。だからこそあまり連絡を密にしなくて済んでいて、だからここ数ヵ月であったことなんて何も知らないはずだった。
「うちかぁ……うち行くのはさ、」
「駄目なの? ちゃんと挨拶しておきたいなってずっと思ってたの、藍ちゃんのご両親に」
「あ、挨拶? え、なんで、え?」
「なんで?」
「え、なんでって言われても……」
「なんか、私のことを知られるの嫌とか、そういうこと?」
「そんなこと言ってないよ」
「言ってるのはそういうことだよ」
「違うって」
「ほんと?」
「何それ」
心外だった。
そんなの、まるでわたしが夏希との関係を周りに知られたくないと思ってるみたいだ。そうじゃない、わたしが言いたくないのは夏希のことじゃなくて……
「だってわたし、学校辞めたことも言ってないんだよ?」
「すぐに言えばよかったのに」
「言えないよ、入学費とか払ってくれたし、今もたまに仕送りとかしてくれてるんだよ? なるべく使わずにとってはあるけど、それはさ、」
「私も一緒に言ってあげるから」
「そういうことじゃなくて、」
「うそつき」
「……え」
「いま大事なのは私だって、こないだ言ってくれてたよね? それならさ、それならさ……」
「夏希、さっきから何なの?」
泣きそうだった。
親に説明するって、どこから? 男に遊ばれて子どもできて、大学辞めたところから? そんなこと言ったらどういう反応するかなんて、20年近く生きてればわかるよ。
絶対怒られる、もしかしてら泣いたりもするかも知れない、そんなの見たくない、聞きたくない、いつかは言わなきゃいけないにしても、今はまだ言いたくない。その気持ちをわかってくれているはずの夏希が、どうしてこうも猶予を許さないようなことを言うのか、本気でわからなかった。
それに、わたしが夏希とのことを周囲に知られたくないと思ってるような言い草も我慢できなかった。確かに、世間的にはまだ大っぴらには言えるような関係ではないかもしれない。生産性がないだとか揶揄されてしまうような関係かもしれない。でも、わたしは夏希のことが本気で好きで、大切で、隠したいなんて思ったことはない。もし誰かに訊かれれば、躊躇なく「恋人です」って言う自信があった。
だから、そんな風に思っていると疑われていることが、心の底から悲しくて。
「藍ちゃん、私ね、ほんと安心したいの、だから早めに会わせてよ」
「なんでそんなに不安なの? わたし普段から夏希に好きだって言ってるし、行動にも出してるつもりだよ? そんなに、わたしのこと信用できないの?」
駄目だ、口に出すと辛すぎる。
どう頑張ったところでわたしたちは違う人間だから、完全に気持ちを共有して理解するなんて無理なのはわかってるけど、それでも、改めて夏希がわたしの気持ちを信じてくれていないことを思ったら、視界が滲んできた。
「…………、先に帰ってるから」
小さく呟かれた声に答えようとしても、喉がひくついて何も出せなかった。
夜、少しだけ時間を潰して、ようやく決心して帰った部屋に、夏希の姿はなかった。電話をかけても繋がらなくて、そのまま朝まで待っても、夏希が帰ってくることはなかった。
前書きに引き続き、遊月です!
うーん、喧嘩のシーンというのは書いていて精神的にくるものがありますね。私自身は夏希ちゃんの真意も知っている状態で書いているので、藍ちゃんのモノローグに対して、自分で書きながら「違うんだよ、そうじゃないんだよ……」と自分で訴えかけていたりします。
次回、いよいよ完結です。
またお会いしましょう!
ではではっ!!