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ずっと、夢に見る。

こんにちは、遊月です!

Twitterの人気企画「殺伐感情戦線」、今回のテーマは「約束」です。幼い頃に交わした叶う保証のない約束……それが叶う瞬間というのは、もしかしたらある種の狂気すら孕んだものなのかも知れません。


本編スタートです!

『あいちゃん、またあおうね』

『うん! ぜったい、あいにくるから!』

『やくそくだからね!?』

『うん、やくそく!』

『ぜったいだよ、ぜったいだからね!?』

『ぜったい、なつみちゃんにあいにくるから!』


 うそつき。


 ……え?


  * * * * * * *


「おはよう。なんか、うなされてたよ?」

「ん……ごめん、ちょっと昔の夢見てて」

「そうなんだ」

「うん、だから心配いらないからね」

 目覚めた場所はいつも通り、安アパートの一室。同棲している恋人が淹れてくれたコーヒーをちびちび飲みながら、心配してくれていたらしい彼女の頭を撫でた。

 まるで猫みたいに気持ち良さそうな顔で目を細める彼女は、とても可愛い。思わず笑ったわたしに気付いてむくれるところも、たまらなく愛しかった。


 彼女――藤崎(ふじさき)夏希(なつき)と出会ったのは、妊娠をきっかけに大学を辞めてしばらくしてからのこと。通い続けることも考えたけど、どこから立つのかわからない噂話がゼミ中で広まって、好奇に満ちた視線とか、セクハラ紛いのことを平気で言ってくる教授とかに耐えられなくなって、自主退学した。

 結局相手はどこかに行ったし、なんとか育てる決心をしたお腹の子は、予定日まで生きていられなかった。いっぺんに全部失ってしまったような空虚感が全身を包んで、もういっそ楽になりたいと思って陸橋から飛び降りようとしたときに止めてくれたのが、夏希だった。


『行かないで!』


 泣きながらわたしのスカートを掴む彼女に呆気にとられて、慰めたりして。それから慰めたりしているうちに、彼女も過去に辛い別れを経験していたことを知った。

 周りに頼れる人なんて誰もいない中で、同じ孤独を抱えた者同士が出会って。その距離が縮まるのに、時間なんて必要なかった。

 元々“そっち”だったわけではないけど、夏希が求めてくるのを拒む気になんてなれなくて、むしろそれまで付き合っていた人たちよりよっぽど優しくて、寄り添うような彼女の態度が嬉しくて、何度も泣いて。そのたびに『痛かった?』と訊いてくる慌てた顔も可愛かった。

 今ではそんなことなくなったけど、それってたぶん、夏希の傍を居場所だって思えるようになった証なのかも――そう思うと、心の内側から安心感が込み上げてくる。


「……もう、(あい)ちゃん? 私もコーヒー持ってるんだから、急に抱きついたら零れるよ?」

「ごめん、なんかすごい、夏希のこと好きだなって思って」

「それは嬉しいけどさ……。あ、ねぇ、藍ちゃん」

「ん?」

「昔の夢って、どんな夢だったの?」

「……うーん、」

「あぁ、別に言いたくなかったら言わなくていいんだよ? その……、いろんなことあったもんね。けど、ちょっと気になったんだ」

 気まずそうに言葉を切った夏希は、何か琴線に触れたのではないかと心配しているようだった。別にそんなことではない、早く安心させたくて「大したことじゃないよ」と返す。


「わたしって親の転勤でこの近くに越してきて、大学入るんでひとり暮らし始めたんだけど……。その最初の引っ越し前にした約束の夢だったの」

「約束?」

「よくあるやつだけどね。友達が走ってきて、いつか絶対会おうってお互いに言うの。たぶんほんとにやってたんじゃないかな。前からたまに見てはいたんだけど、最近ね……」

 夢の最後が変わったのは、つい最近のことだった。

 それまではなつみちゃんと再会の約束をするところで終わりだったのに、最近になって、決まってやり取りの最後に『うそつき』と言われるようになった。それから、もう懐かしいだけだった夢が怖くなってしまったのだ。

「夢が怖いなんて、なんか子どもみたいだよね」

「うーん……。もしかしたら藍ちゃん自身が気にしてるんじゃない?」

「わたしが?」

「うん、絶対会いに戻るって約束したのにずっと戻らなかったから……。藍ちゃんってそういうの気にしそうだもんね」


 確かに、毎月――下手したら毎週のように――交換していた手紙も1年も経つ頃には送らなくなっていたし、夢を見ても彼女に会うためだけに帰ろうとは思わなかった。けど、それを気にするって……。

「でも、羨ましいな」

「え?」

「だって、その子は昔の藍ちゃんを知ってて、今でもずっと藍ちゃんの心に居続けてるんだもん」

 どこか拗ねたように言う夏希を抱き締めて、「今のわたしを知ってるのは夏希だけだよ」と返す。昔の思い出にまで嫉妬してくれるところは愛しくもあって、ほんの少しだけその目が怖かったから。


「だから、いま大事なのは夏希だよ」

「……うん」

 背中に回された手に力が込められて、少しだけ苦しかった。

前書きに引き続き、遊月です!

どうしても男の影を出さずにいられない症候群みたいになっていますが、自分でもよくわからないところだったりするんですよね……なんなのでしょう?


次回、お会いしましょう!

ではではっ!!

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