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世界の果てでも愛しましょう  作者: シャカリキブサイク
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1. 部屋の中心と城壁の外で

 


 朝食を終えて部屋に戻ると窓の外がやったらやかましくなっている。

 野次馬根性丸出しで窓から眺めると、例の男が衛兵達に連行される所だった。

 逮捕なのか国外退去のための連行なのかは知らないけど、普通に考えて婦女暴行の現行犯だからそれなりの罰としての連行だろう。知らないけど。


 ……あいつ、確か正義の剣士だなんだと言ってたけどまさかあいつが勇者ではあるまいな?もしそうであれば私は勇者の誘いを蹴った上で犯罪者に仕立て上げたことになる訳だが。

 まあ状況的に奴がロリコンの誘拐犯で婦女暴行を働いたのは目撃者多数だしなんの間違いもないか。ガハハ。


「勇者なんて存在するんだね、モカさん」


 窓際に来たカフェが同じく連行されていく男を眺めながら、どこか遠い目をして言った。


「御伽話の存在を現実で語るなんて全くもってナンセンスだ」


「そう?私は面白いと思うよ。だって勇者ってすごく強いんじゃないの?」


「そうだろうね。でも勇者が現れたってことはそれだけの理由があるんだよ。神は悪戯に勇者を作らないって教えもあるくらいだし」


 今なんかフラグみたいなのが立ち上がった気がする。

 神が勇者を生み出すほどの理由って何だろうと考えながら連行されていく男を眺めていると、突然男がこちらを見た。

 奴のロリコンセンサーに反応したのだろうか?単純に気持ち悪いな。


「……何言ってるか分かった?」


「……まあね」


 そして、私達を見ながら何かを呟いた男は満足したのかそのまま城壁へと歩いていった。


「……龍は目覚めた、か」


 何を意味するのかは分からないし、何故私達に言ったのかも分からない。

 奴の目的も分からないし非常にモヤモヤする。


「あ、あいつがどこかに行ったって事はもうお出掛けしてもいいんだよね!」


「んっ?ああ、まあ、そうなるのか?」


 私が難しい顔をしているのが気に食わないのか、カフェがいきなり元気になって私を持ち上げる。

 文句の一つも出ないうちにそのまま私を小脇に抱えて外に飛び出すのだった。




 ーーーーー




「おかしい、あのキャラクターは本来あそこにいないはずなんだ」


 追い出された街の城壁近くで、俺は自分の記憶を辿っていた。

 ベリ、とボロボロになっていたガワを顔から剥がして魔法で燃やし、数日ぶりの我が顔をさすりながら、自分の記憶との相違点を照らし合わせていく。

 この世界は元MMORPGである。

 何故元なのかというと、サービス終了と共にオフラインでも遊べるようにアップデートを施して消えたゲームだからだ。

 しかしそのゲームに何で俺が?と思ってたけど、まあなってしまったものは仕方がない。気がする。

 別に好きでもなんでもないが、暇な時にプレイし続ける程度には気に入っていたゲームだから主要キャラクターやストーリーに絡むモブはある程度頭の中に入っている。

 しかも開発陣の中に相当なクズがいるらしく、あらゆるキャラクターは絶望的な生い立ちを持っていたり、世界観はかなり終わっているというか、敵の気分で世界が終わりそうだったりする。勿論荒んでしまい犯罪などに手を染めるNPC達が多くいる中、彼女達は唯一まともな感性を持ち合わせていたキャラクターだったので特に印象的だったのを覚えてるし、勝手に流れ続ける右下の全体チャットにも度々名前があがるくらいには清涼剤だった。


 滅ぼされた村の生き残りであるカフェ・ラテアートと、小さな身体にも関わらず数々の苦難が続いた旅路で妹分たるカフェを守り続けたモカ・マキアート。


 彼女達は本来なら俺が拠点にしていた街で力を合わせながら暮らす癒し系モブキャラだったはずなのだ。

 部屋で寝てたと思ったら突如この世界に無理やり連れてこられ、イベントをこなしながら俺はゲームで拠点にしていたあの街を目指し、遂にたどり着いた。

 勿論、癒しである彼女達に会うことも楽しみにしながらだ。

 しかし街というか国は見る影もなく荒れ果て、その原因はモカ・マキアートと聞いた時には本気で腰を抜かした。

 あの優しい彼女に一体何が起きたのか。

 俺が何らかの選択肢を誤った結果なのか。

 指名手配書に写る彼女はゲーム中で見たことがないほど残忍な顔をしていた。

 凶悪な斧を振り回し、相方のカフェ・ラテアートと共に街を、国を混沌に陥れた大罪人。

 その理由を知るべく彼女達を追った結果がこの始末だ。

 ほとぼりが冷めるまでは街には入れなさそうだし、どちらにしても警戒されている以上俺にはもう何もできない。


「あの『勇者』からも逃げてくれるならそれが一番なんだけどな」


 このゲーム内の主要キャラクターはクズだ。

 それは勇者とて例外ではない。

 奴は強大な力を持つ二人をあらゆる手を使ってでも手に入れようとするだろうが、この街なら恐らく心配はないだろうと思う。


 少なくとも、街の人はあの二人の味方のようだったから。


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