不可思議な現象
その光は弱々かったが、確かにそこにあった。
閉じた瞼を押し開く――と、そこにはいつもの天井があった。
私は少なからず当惑しながら
つい先ほどまで感じていた 生々しい死の実感を思い出した。
私は死んだはずだ。何か証拠があるわけではないが、あの自分から何か大切なものが抜け出た感覚は、本能的に死を自覚するものだった。
しかし、現実には、 体の感覚全てが自分に生きているという事を伝えてくる。
私は混乱しながら、唯一あり得る仮説を確かめるべく、 自分が 刺されたと思われる場所を鏡を使い見てみた。
しかし、そこには傷跡と思しきものは、いくら探しても見つけることはできなかった。
まさかと思った。冷や汗が浮かぶ、しかし、その仮説には今のところ矛盾はなかった。
「そんなこと………あるはずがない」
ようやく絞り出した声は、掠れてまるで自分の声ではないようだった。
すぐに着替えた。そして、食卓へ向かう。
そろそろ朝食があるはずだ。おそらく、それで全てがわかるだろう。
ーーーーーーおはよう 母に挨拶をされた。しかし、私は普段ならありえないことに それを無視し、
ざわめく気持ちを抑え 机の上を見た。
そこには、見覚えのある食事、母がわざわざ買ってきた、私の好物まである。
それは、Kが殺され 私も殺された あの日の朝食だった。
もう確定だろう、私は、どうやら 死んでタイムスリップしたらしい。
神さまは私に過去をもう一度やり直すチャンスをくれたらしい。
正直 意味がわからないが、まあ考えるだけ無駄だろう。
存外 、復讐の機会は早く訪れたようだ。 これからするべき事を頭に浮かべながら、私はゆっくりと笑みを浮かべた。