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不良の俺、異世界で召喚獣になる  作者: アイビス
1章 不良の俺、召喚獣になる
9/72

9話

「……なァリリアナァ」

「本当にすみません」

「まだなんも言ってねぇよォ……」


 部屋で眠る姉……それを見て、リリアナがキョーガに頭を下げる。

 眠る姉の隣には、包帯をグルグルに巻かれた父が座っていた。


「……あのなァ、俺ァ別に気にしてねェし、アルマの傷も、どォにか治ったから文句ねェよォ……ってかァ、むしろ謝るのは俺じゃねェかァ?リリアナの父ちゃん殴っちまったしィ、姉ちゃんも地面に叩き付けちまったしよォ」

「キョーガさんは何も悪くないですよ。悪いのは……私の父と姉なので」

「まァそォかもしれねェけどよォ……」


 いきなり斬りかかってきた父親に、いきなり魔法を撃ってきた姉。

 日本ならば確実に警察行きだ。

 まあ日本には魔法などないが。


「……本当に大丈夫ですか?アルマさん?」

「はい!キョーガのおかげで大丈夫です!」

「おかげで俺ァ貧血なんだけどなァ……」


 少し顔色が悪いキョーガ……無理もない。今日だけで3回も吸血を(おこな)ったのだから。

 普通の人間は、1回吸血するだけで体が持たないのに……キョーガはそれを3回も(おこな)ったのだ。


「すみませんキョーガ……さすがに3回は吸い過ぎましたぁ……」

「気にすんじゃねェよォ……1回目は日課ァ、2回目は太陽光、3回目は俺が吸えっつったんだからなァ。おめェは何も悪くねェ」

「……そう言ってもらえると、ボクも気が楽ですよぉ」


 にへっと、アルマが年相応の笑みを見せる。

 その頭を撫でながら―――ふと、キョーガは、ずっと気になっていた事を口にした。


「……なァ、アルマって何歳なんだァ?」

「そっ、それ聞きますぅ……?」

「んァ、別に言いたくねェんなら言わなくていいんだがァ」

「……えっとぉ………………30ですぅ……」

「……30って……歳がかァ?」

「はい…………正確に言うなら、37ですぅ……」


 そう言いながら、アルマが恥ずかしそうに顔を()せる。

 ―――キョーガは困惑した。

 37って……冗談か?だって見た目は13歳か14歳くらいじゃん。こんなロリっ子が37は……えぇ?


「……37には見えねェなァ」

「えへへ……嬉しいですぅ」


 紅眼を嬉しそうに細め、漆黒の翼をバッサバッサと動かす。


「それでェ……その2人、どうするんだァ?」

「帰ってもらいたいですけど……帰れそうにないですもんね」

「どうするんだァ?部屋は1つしか余ってねェだろォ?」

「……アルマさんと私が一緒に寝ますか?」

「ボクです?」


 誰がどう見ても、リリアナとアルマが一緒に寝るのが一番だと思う。

 だがそれは……アルマが人間ならば、の話だ。


「でも……ボク、寝相(ねぞう)悪いですよ?うっかりご主人様の骨とか折っちゃったり……血を吸ったり……するかもですよ?」

「物騒な『吸血鬼(ヴァンパイア)』だなァ……ってかァ、リリアナが姉ちゃんと寝りゃァいいじゃねェかァ?」

「……お姉様と私が一緒に寝るのは……ちょっと嫌なんですけど……」


 リリアナは、姉の事があまり好きではないらしい。

 もっとも……姉はリリアナの事が大好きなのだが。

 ちなみにその姉は、父親が嫌いとの事。

 『リリアナの身に危険が迫っている!』と父親が姉に伝え、可愛い妹のために、わざわざ『クラリス』から『プロキシニア』に来てくれたのだ。


「……それなら、ボクとキョーガが一緒に寝ればいいですです!」

「はァ?何言ってんだおめェ?」

「キョーガなら……ほら、ボクの腕がうっかり当たっても、死なないですよね?それに、うっかりたまたま血を吸っちゃっても……えへへ……」

「却下だ却下ァ」


 ―――この後、『それならお父様とキョーガさんが一緒に寝ますか?』とリリアナに聞かれ、『それだけは勘弁してくれェ』となったので……キョーガとアルマが一緒に寝ることになった。

 ちなみに、キョーガとリリアナが一緒に寝るという案は出なかったと言う。


―――――――――――――――――――――――――


「チッ……なァんで俺があの2人の飯をォ……」

「すみません……私の料理だと、怪我した体に追い討ちしてしまうので……」

「まァ間違いねェけどよォ……アルマは血さえ吸ってりゃいいからァ、飯を作る技術がねェしィ……」

「うぅ……そう言われてもぉ……ボクは料理なんて覚えなくても、血があればいいですし……」


 不機嫌そうに料理を作るキョーガ……その表情とは裏腹に、料理の腕前はプロ級だ。


 ―――この世界の料理の仕方は、魔力を使う。

 例えば、コンロから炎を出すには魔力を使わなければならない。

 『魔術士』が炎を送っても、それをいつ使うか決めるスイッチがない。

 だから、魔力でスイッチのONとOFFを決めるのだ。

 ちなみにこの魔力、誰にでも存在する。『魂の器』と同じだ。

 だが、魔力があっても『魔法の才』が無かったら魔法が使えないため、意味がない。


 リリアナの『魂の器』と同じだ。

 『魂の器』が大きくても、召喚獣を召喚できなければ意味がない。

 キョーガにも魔力が存在しており―――まあもちろん、あり得ないくらいの量の魔力を所有している。本人はまったく自覚していないが。


「……よっとォ」


 ゴトッと、机に敷かれた布の上に鍋を置き、キョーガが鍋の蓋を開いた。

 ―――柔らかい香りが部屋中に広がる。


「……これは……?」

「肉じゃがだァ……食った事あんだろォ?」


 柔らかい香りの正体は、誰でも食べた事があるであろう料理―――肉じゃがだ。

 もっとも、異世界に肉じゃがという料理が存在するかどうかは怪しいが。


「皿用意すっからァ、ちっと待ってろォ」

「キョーガさん!私も!私も食べたいです!」

「あァもちろんだァ」


 手際よく食事の準備をするキョーガを見て、誰もがこう思うだろう。

 ―――お前の正体は何なんだ、と。

 だが、誰も口出ししない。

 父と姉は、ボコボコにやられた恐怖で問いかけられず、リリアナとアルマは、何者でも別にいいと思っているからだ。


「あのぉ……今日はボクも食べていいですか?」

「へェ……珍しいなァ、アルマが飯を食いたいなんてよォ」

「その……今日は血を吸い過ぎたので、自分で栄養を補給しようかなぁ、と思いまして……」


 さっきは『寝てる間に血を吸います』的な事を言ってたくせに。


「……あァ……マズイとか言ったら殴っからなァ」

「はい、です!」


 キョーガとアルマで皿を運び、慣れた手付きで肉じゃがをつぎ分ける。


「……残したら殺すからなァ」


 ―――予想外の美味しさに、キョーガの作った肉じゃがは跡形もなく完食されたという。


―――――――――――――――――――――――――


「―――いっづゥ……ッ?!」


 ―――深夜、みんなが寝静まった時間。

 キョーガは、鋭い衝撃を受けて目が覚めた。

 ……腹部に……何かが突き刺さっている……?


「……ッ……!おいアルマァ……おい、起きやがれェ」


 キョーガの腹部―――アルマがキョーガの服の中に潜り込み、牙を突き刺していた。

 まさか、本当に寝ている間に吸血するとは。

 リリアナとアルマが一緒に寝なくてよかった、と心から思いつつ、キョーガはアルマを起こそうと、頭を叩いたり頬を引っ張ったりするが―――


「……はひっ……やめてくらしゃいよぉ……」

「こいつ……本当に寝てんのかァ?」


 無理矢理引き離そうとしても、ガッシリとキョーガを掴んだまま離さない。

 せっかく少しずつ血が回復してきたのに、吸われたら意味がない。

 頭を掴み、少し強めに押し退けるが―――


「あっ……きょおがぁ……」


 牙を抜いた―――かと思えば、アルマが力を込め、キョーガの体を『離してなるものか!』と抱き締める。


「……力(つえ)ェなこのロリ吸血鬼がァ……ッ!」


 無理に離そうとすればするほど、アルマが尋常じゃない力で抱きついている。


「…………きょ……がぁ……」

「チッ……まァいいかァ……」


 キョーガは、人の温もりに慣れていない。

 だが……この1週間で、リリアナとアルマには、かなり心を開いている。


 それでも、まだ完全に開いているわけではない。

 たまにスゴく不安になり、リリアナとアルマに壁を作ろうとしてしまう事がある。

 『俺はここにいて良いのか?』『人を傷つけ、暴力の中で育ち、『鬼神』と恐れられたクズ人間が……こんな温かい2人の隣にいて良いのか?』と考えてしまうのだ。


 キョーガが完全に心を開く時……それは―――


「……いつかおめェらに、俺の正体をォ……話せる時が来ればなァ……」


 そう言って、アルマの頭を撫でるキョーガの顔は―――どこか、辛そうで、苦しそうだった。

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