表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不良の俺、異世界で召喚獣になる  作者: アイビス
1章 不良の俺、召喚獣になる
8/72

8話

「……う……ぐぅ……?」

「おォ、目ェ覚めたかァ」


 キョーガの部屋の中、眠っていたリリアナの父親が目を覚ました。

 体を起こし―――キョーガと目が合った瞬間、父親が立ち上がろうとするが―――


「い……ッ?!づぅ……ッ!」

「無理すんじゃァねェよォ……めっっっちゃ軽く殴ったつもりだがァ、俺の一撃を食らったんだァ……」


 アルマを殴った時は、もっと強く殴っていたのだが……と考えると、やはりアルマはスゴいのだろう。


「んじゃァ、リリアナを呼ぶかァ……ちょっと待ってろォ」


 言い残し、キョーガが部屋を出る。


「リリアナァ、目ェ覚ましたぞォ」

「本当ですか?!」


 リリアナがキョーガの部屋に突っ込み―――父親の姿を見て、目を細めた。


「……リリアナ……すまない。お前を守る事ができなかった……だが『シャーロット』が来るはず―――」

「バカーーーっ!」

「へぶうっ?!」


 父親の腹部に、リリアナの中段突きが炸裂した。

 しかも……キョーガが殴った所に。


「うっ……ぐぉぉぉぉぉ……ッ!」

「あー……リリアナァ、後は任せっぞォ」

「任せてください!お父様には言いたい事がたくさんあるんですから!」


 プンプンと怒り、リリアナが父親の前に立つ。

 申し訳なさそうに正座する父親を横目で見ながら、キョーガが部屋の扉を閉めた。


「よしィ……アルマァ、買い出し行ってくるからァ、留守番頼んだぞォ」

「あ、キョーガ……ボクも行きたいんですけどぉ……」

「あァ?なァんでだよォ?」

「ボク、こっちに召喚されてから命懸けで……ゆっくり歩く時間が無くてですね……」


 確かに。

 アルマはこの世界に召喚されて―――いきなり捨てられた。

 空腹と孤独で頭がおかしくなりそうになるも……どうにか食料(キョーガ)と住む場所を確保できたのは、本当に運が良かったのだろう。

 それに、ここ1週間は、キョーガのお金(スマホ)のおかげで、特に外に出ることなく過ごしていたから、アルマも外に行きたいんだろうな。


「だから一緒に行きたいんですけど……ダメです?」

「……俺ァ知らん……ただァ、付いてくるんなら手伝ってもらうぜェ」

「はい!任せてくださいです!」


―――――――――――――――――――――――――


 ―――と、元気いっぱいに返事するアルマと共に、キョーガが買い出しに来たんだが。


「……ごめんなさいですぅ……本当にごめんなさいですよぉ……」


 なぜか、アルマがキョーガの背中に乗っていた。

 ―――『吸血鬼(ヴァンパイア)』は、太陽が苦手らしい。

 今は昼間なので……太陽が一番働いている時間。

 グッタリとしたアルマが、フラフラとヤバイ感じになってきたので、仕方なくキョーガが背負う事にしたのだ。


「チッ……おい背中で泣くんじゃねェよォ」

「うぅ……ごめんなさいですぅ……」

「わかったわかったから泣き止めェ。周りからの視線がうぜェ」


 グズグズと泣くアルマを見て、近くを通る住人が不快そうな視線を向ける。

 ……泣いてる女の子を見るような感じの視線じゃない、とすぐに気づいた。

 ―――キョーガは直感的に理解した。

 なるほど……翼が生えてるアルマを見て、すぐに『吸血鬼(ヴァンパイア)』だと理解したのだろう。

 『死霊族(アンデッド)』への嫌悪感が丸出しだ。


「…………キョーガぁ……」


 ギュッと、アルマが不安そうにキョーガの背中を抱き締める。


「チッ……イライラする視線だなァ……ここら辺のやつらァ、まとめて殺すかァ……?」

「そっ、それはダメですよぉ……あ、キョーガ、血をください……血をくれたら歩けるくらいには元気に……」

「ふざけろバカがァ。1日1回の吸血はもうやっただろうがァ」


 そんな視線もどこ吹く風。

 不快そうに舌打ちするキョーガ……アルマと話して気が紛れたのか、特に危害を加えるわけでもなく、食料を買いに向かう。


「……にしてもォ……なァんで『死霊族(アンデッド)』って嫌われてんだろォなァ?」

「え……キョーガは、知らないんですです?」

「知らねェってェ……アルマは知ってんのかァ?」

「まあ……それなりには知ってますよぉ。というより……知らない方が珍しいんじゃないですか?」


 ちょくちょく『ですです』って付けるのは、意図的なのだろうか。

 そんな事を問う前に、背負われるアルマが、ポツリポツリと思い出すように話し始める。


「えっとぉ……昔、魔王が7人の大罪人を連れて、この世界に現れたんです」

「あァ……そりゃ知ってるよォ」

「……それなら……その後の『死霊事件』は知ってます?」

「……いや、それは聞いた事ねェなァ」

「『死霊事件』……これが原因で、『死霊族(アンデッド)』は嫌われてしまったんですよぉ……」


 ―――『死霊事件』。

 魔王を追い払った後……『死霊術士』は姿を消したのだ。

 理由は不明。生きているか死んでいるかもわからない。

 だが―――『死霊術士』が残した大量の『死霊族(アンデッド)』が原因だった。

 主を無くした『死霊族(アンデッド)』は―――解放感と、今まで(こく)な命令ばかりした『死霊術士』への腹いせに、近くの人間が暮らす国を破壊して回った。

 もちろん、そんな事を『勇者』と『魔女』が許すはずもなく―――『死霊族(アンデッド)』の群れは、全滅させられたのだ。


「……まあ、こんな感じですぅ」

「はー、なるほどなァ……俺らァその偏見(へんけん)を受けてるって事なのかァ」

「はい……あの、キョーガぁ……」

「あァ?」

「そのぉ……『死霊族(アンデッド)』が嫌われてる理由を教えたので……お礼に血を吸わせてください……」

「……はいはいわかったわかったァ、吸っていいから大人しくしてろよォ」

「わーい!」


 かぷっ、ちゅー……

 キョーガの体から、血液が抜かれる。

 正直、この吸血行為、キョーガはスゴく不安なのだ。

 体の内側にある筋肉の強靭さや、骨の頑丈さは、無敵と言って過言ではないが―――肌や血液、それに痛覚は、普通の人間よりちょっと頑丈だったり、多かったり、鈍かったりしているだけで、普通に『俺、貧血で死ぬんじゃないか?』とか、キョーガは心底不安だったりする。


「はぁ……おいひぃ……おいひぃれすぅ……!」

「黙って吸えやァ」

「……………」


 ちゅーちゅーと、幸せそうに吸血する。

 ―――ふと、何かが迫るような気配を感じた。

 バッと振り返り―――誰が投げたのか、石ころが飛んできている。

 そんなに早いわけでも、複数投げられているわけでもない、ただ投げられたような石―――キョーガは右手でキャッチし、飛んできた方向に視線を向ける。


「あ、コラ!何やってるの!」

「……………」


 ―――幼い男の子だ。

 その眼には……やはり、『死霊族(アンデッド)』への嫌悪感が宿っている。

 石を投げたのは、幼いから良いと悪いの判断がまだ育っていない(ゆえ)か。

 さすがにマズイと思ったのか、男の子の母親が、男の子を連れて立ち去ろうとしている。


「チッ……ガキがァ―――」


 ―――誰に喧嘩売ってんだァ?


 辺りを、不可視の重圧が襲う。息が詰まるほどの濃厚な殺気が充満する。

 ここにリリアナがいれば、事態は変わっていたのかもしれないが……ここにはキョーガとアルマしかいない。

 ―――最強と恐れられた『鬼神』が、子ども相手なら容赦するとでも?


「あ、あわ……」

「うひっ……!」


 口々に小さく悲鳴を上げながら、住人たちが少しずつ後ずさる―――と。


『ズドォォオオオオオオオオンッ!』


 ―――地面が割れた。

 『ビキビキィッ!』と亀裂が走り、近くの建物にまでヒビを入れる。

 突然の出来事と、濃厚な殺気に、住人たちは動けなくなってしまった。


 地面が割れた原因は―――キョーガだ。

 キョーガが地面を踏み込み―――亀裂を走らせたのだ。


「……3秒以内に散れェ……でねェと殺す」


 そんなキョーガの声を聞いた瞬間、住人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。


「……ぷはぁ……キョーガ、手を出さなかったんですね?」

「……おめェはいつまで吸ってんだよォ……ってか、手ェ出すわけねェだろォが」

「何でです?」

「……俺ァリリアナの召喚獣だァ……だからァ、あいつの迷惑になる事はしねェ」


 アルマを背負い直し、今度こそ食料を買いに行こうとして―――ふと、肩を叩かれた。


「チッ……今度は何―――あァ?」

「……その子……あなたの召喚獣?」


 橙色の髪……整った顔。

 白いローブを着た……聖女のような女性が、キョーガの肩に手を置いていた。


「答えて。その『吸血鬼(ヴァンパイア)』はあなたの召喚―――」

「礼儀がなってねェ女だなァ……まずは名乗れよォ。話はそっからだろォがァ」


 言葉を(さえぎ)り、肩に置かれた手を払い()ける。

 ―――キョーガの考えだと、この女も『死霊族(アンデッド)』の事を良く思っていないんだろう。


「そんなの関係ない……早く答えて、でないと―――消していい『死霊族(アンデッド)』か、わからない」

「………………はァ……おゥこらてめェ、あんま調子乗んなよォ。今ここで死にたくねェだろォ?」


 背負っていたアルマを下ろし、キョーガが威圧的に距離を詰める。


「……なるほど、消していい『死霊族(アンデッド)』と判断するわ」

「さっきからごちゃごちゃうるせェな―――」

「『神の聖域(サンクチュアリ)』」


 『ヴンッ』と、白い魔法陣がアルマの足下に出現する。

 ―――こいつ、『魔術士』か!


「アルマ―――」

「―――うあああああああああああっ?!」


 それは、神々しい光の柱。

 アルマの足下に現れた魔法陣から、美しい光柱が空に向かって一直線に伸び―――その中にいたアルマが絶叫を上げた。


「おい!アルマァ!」

「………………あ…………ぐぁ……」


 ところどころ黒く―――炭のように変化してしまっている。

 ―――『吸血鬼(ヴァンパイア)』のアルマが、キョーガの拳を食らっても余裕で立ち上がったアルマが……白目を向いて、フラフラとしている。


「……さすが最上級召喚獣の『吸血鬼(ヴァンパイア)』……この程度じゃ死なないわね」

「てめェ―――ぶっ殺すッ!」


 ―――殺意。

 キョーガの体から、尋常じゃない殺気が放たれる。

 その気配を感じた女が、慣れた様子で距離を取ろうとするが―――


「―――(おせ)ェんだよクソ女ァ!」

「は―――ぇ?」


 一瞬で背後に回り込んだキョーガが、女の頭を掴み―――思いきり、地面に叩き付けた。

 もちろん、加減はしている。顔に傷ができるかもしれない威力だったが、死ぬことはないだろう。


「アルマァ!大丈夫かァ?!」

「…………きょ……がぁ……」


 ガクガクと震える足―――だが、アルマは立っていた。

 膝を突く事なく、倒れる事なく、力強く立っていた。

 ―――しかし、大怪我なのは見ればわかる。


「おい!それァどうすりゃ治るんだァ?!」

「は……ふ……血を、吸えばぁ……」

「じゃあ早く吸え!」

「で、も……今日、はぁ……もう……2回もぉ―――」

「ごちゃごちゃうるせェ!とっとと吸えって言ってんだろォがァこのアホォ!」

「ふ、ぅ……しつれ、しますぅ……」


 アルマの体を抱き寄せ、吸血を(おこな)う。


「チッ……いきなり魔法撃ってきやがってこのクソ女がァ……」

「はふっ……おそらく、『クラリス』の国民れふぅ」

「『クラリス』……ってなんだァ?」

「『死霊族(アンデッド)』の事をとても嫌ってる国れすぅ……あ、あふっ……確か、『女神 クラリオン』を信仰している宗教国家ですね」


 ちゅーちゅーと吸血しながら、アルマが聞き慣れない国の名前を口にする。


「……なァ……さっきの魔法ってなんだァ?」

「あふっ……あれは『浄化魔法』れふぅ……普通の魔法と違って、対『死霊族(アンデッド)』専用に作られた魔法れすぅ……」

「はァ、なるほどなァ……だァからアルマがあんなに痛がってたのかァ」

「―――見つけましたぁあああああっ!」


 キンキンと甲高い声が聞こえた。


「リリアナァ……何しに来たんだァ?」

「お姉様が来てると聞いて、まさかと思いましたが……やっぱり『死霊族(アンデッド)』のキョーガさんとアルマさんに絡んでましたか……!」

「……あァ……?ちょっと待てェ、今……お姉様っつったかァ?」


 キョーガの問い掛けに、リリアナが困ったように答えた。


「……『シャーロット・ベルガノート』……私のお姉様です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ