8話
「──ぁあああああッッ!! やってくれたッスねぇ『反逆霊鬼』ッッ!!」
蹴り飛ばされたアレスが怒号を上げ、建物を粉砕しながら戦場へと戻ってきた。
「あの威力の蹴りを受けてピンピンしてるとかァ……さすが『神精族』だなァ」
「あちゃ〜……『戦神』もいるんだね〜♪」
「あァ。正直ィ、アレスは『蒼角』使えばどうにかなんだよォ。だがァ……厄介なのは『時神』だァ」
そう。クロノスには攻撃が通じない。
だが、さっきクロノスに顔面を掴まれた時、キョーガはクロノスの無傷のカラクリについて、気づいた事があった。
キョーガの予想が正しければ、クロノスの能力は──
「アレス、やるぞ」
「わかってるッスよ……! オイラに指図すんじゃねぇッス……!」
キレるアレスの姿に、クロノスが肩を竦める。
そんな二人のやり取りを見て、キョーガは何かを確信したように目を細めた。
──あの二人は、全く連携が取れていない。
仲が悪いのか、性格が合わないのか──どちらにせよ、あの噛み合わなさは致命的だ。
「……オイサリスゥ」
「ん〜? どうしたの〜?」
「知ってたら答えろォ。クロノスの『種族能力』はどんな能力だァ?」
「相変わらず上から目線の言い方だね〜♪ ま、いいけどっ♪」
二人の神から目を逸らさず──サリスは、クロノスの『種族能力』を口にした。
「クロノスの『種族能力』は、『進む事のない時間』っ♪ 自分の体と、体に触れてる物の時間を止める能力だよ〜♪」
「やっぱりなァ……」
キョーガの『焼却角砲』を食らっても、クロノスの体には火傷1つ存在していなかった。
それ所か──服すら燃えていなかった。
あの現象は、クロノスが『進む事のない時間』を発動して、クロノスに触れている服の時間も止めていたから、炎が服に燃え移らなかったのだ。
その後、キョーガがクロノスの顔面を殴っても無傷だったのも、自身の時間を止めていたから──という事か。
「少し落ち着け、アレス。イライラしていては、勝てる戦いも勝てなく──」
「うるっせぇって──言ってんじゃねぇッスかッ!」
「むっ──」
イライラが最高潮に達したのか、アレスがクロノスに蹴りを放った。
風を斬りながら迫る蹴撃を──クロノスは、その場を飛び退く事で回避する。
「いきなり何をする。敵はあの『反逆霊鬼』と『地獄番犬』だろう」
「るっせぇんスよ……! どいつもこいつも、オイラをバカにしやがって……! オイラをバカにする奴はッ、一人残らずッ、ぶっ殺してやるッス……ッ!」
「……あァ……?」
……何故、避けた?
アレスの一撃を避けたクロノスを見て、キョーガは首を傾げた。
クロノスの『種族能力』ならば、自身の体の時間を止めてアレスの蹴りを防ぐ事ができたであろうに……?
いや……常に『進む事のない時間』を発動していれば、いちいち『種族能力』を発動すふ必要もないんじゃ──
「まさかァ……」
クロノスの『種族能力』は、連発して使用できない? もしくは、何らかの制限が存在する?
情報が足りない。アルマがいれば、クロノスの『種族能力』について詳しく教えてくれたのかも知れないが……アルマにはリリアナの保護を任せている。文句は言えない。
「キョーちゃん、どうしよっか〜♪」
「……とりあえず、アレスを先にぶっ殺すぞォ。クロノスの相手は、無敵のカラクリを解いてからだァ」
「りょうか〜い♪」
「……く、ははっ……はっははははははははははははははははははッ!」
いきなり笑い始めたアレスに、キョーガとサリスが素早く身構える。
「オイラを先にぶっ殺す? さっきから聞いてりゃ、まだオイラの本気も見てないのに希望ばっかり見やがって──オイラを舐めんじゃねぇッスよ、三下召喚獣共が」
「なっ──待てアレス!」
「『戦神の加護』」
そう言って、アレスが大きく両腕を広げた──瞬間。
──ゾクッと、キョーガとサリスの背筋に寒気が走る。
「あ、は……♪ 『種族能力』、『戦神の加護』……♪」
「……そりゃ、どういう能力なんだァ?」
「……自分の寿命を減らす代わりに、絶大な力を得る能力だよ〜……♪ 力の増加量は、減らした寿命に比例するって聞くけど〜……この感じだと、かなりの量を消費したんじゃないかな〜……♪」
「貴様、何をしているアレス?!」
「うるっせぇッスよクロノス……アイツを殺すのは、ゼウス様からの命令。であれば、全力を尽くすのは当然ッスよ」
アレスの左半身に、緋色の模様が浮かび上がっている。
その模様を睨み付け、クロノスがさらに叫んだ。
「その模様の量……貴様、余命の半分は消費したなッ?!」
「あーもううるさいッス……長くは維持できねぇッスから、早く終わらせるッスよ」
アレスが拳を握り、キョーガを真っ直ぐに見据えた。
──来る。
反射的に『蒼角』を生やし、迎撃の姿勢を取り──
「は──」
──眼前に拳が迫っている。
そう認識した次の瞬間、キョーガの頭部にアレスの拳が叩き込まれ──
──パァンッッ!!
「ぁ……へ……?」
ビシャッ! と辺りに血が飛び散った。
自分の顔に飛んできた血に手を当て、サリスがキョーガのいた方へと視線を向け──
──そこに、頭部を失ったキョーガがいた。
「──っ、っ────あああああああああああッッ!!」
「これも再生するんスね……」
瞬く間に頭部を再生したキョーガが、『蒼角』と『付属魔力』で強化した拳撃を放った。
それに対し、アレスは軽く叩くようにしてキョーガの右拳をはたき落とし──
「が、あッ……?!」
グシャッ、と──キョーガの右腕が、血飛沫となって消えた。
「くッ──そがァあああああああッッ!!」
キョーガが思い切り地面を踏み込み──地面が割れ、辺りを砂煙が包み込む。
そのままキョーガとサリスは大きく後ろに飛び、もうもうと立ち込める砂煙を睨み付けた。
「なんっだよアイツゥ……?! 『種族能力』使うだけでッ、こんな強くなるもんなのかァ……?!」
右腕を再生させ、キョーガが困惑の声を上げる。
「こ、れは……本っ当〜に……まずいかもね〜……♪ ……キョーちゃん♪」
「あァ?!」
「ここは、とりあえず逃げよっか♪」
サリスの言葉に、キョーガがポカンと口を開く。
「はっ──あァ?! 俺に尻尾巻いて逃げろってかァ?! せめて片方はぶっ潰さねェと気ィ済まねェぞォッ?!」
「ん〜……♪ それができたら苦労はしないんだけどさっ♪ 今のままじゃ、負けるのも時間の問題だよ〜? それより、アレスの『種族能力』が切れるまで逃げ回った方が得策じゃないかな〜?」
「それをアイツらが見逃すかよォ……!」
「ま、その通りッスね。大人しく殺され──」
そこまで言って──ふと、その場にいた全員が、何者かの気配を感じ取った。
その直後──ドオオオオンンッッ!! という爆発音と共に、アレスのいた所に何者かが降ってきた。
「──おっと。受け止められたか」
空から降ってきた者が踵落としを放っていたが──アレスはそれを片手で受け止めている。
空いている方の足でアレスを蹴って距離を取り、ソイツはキョーガに視線を向けた。
「いやぁ、戦いの邪魔して悪いなぁ。つっても、俺にも事情があるから許してくれよな?」
「……てめェ、何者だァ?」
突如として現れたソイツに、キョーガは警戒心を剥き出しにする。
薄紫色の髪に、濃い紫紺の瞳。中でも特に目を引くのは──額から生える二本の『黒角』だろう。
キョーガの知っている限り、角を持つ召喚獣は三種類存在する。
『反逆霊鬼』と『悪鬼羅刹』、そして──
「黒色の角……アンタ、『鬼夜叉』ッスね?」
「お。その通りだ」
『黒角』の少年が獰猛に笑い、声高々に名乗りを上げた。
「俺っちは『鬼夜叉』のヘルムート。ワケあってこの『反逆霊鬼』の助太刀にきたぜ」




