表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不良の俺、異世界で召喚獣になる  作者: アイビス
1章 不良の俺、召喚獣になる
7/72

7話

 ―――『吸血鬼(ヴァンパイア)』のアルマが一緒に暮らすようになってから、1週間が経った。


「キョーガ……」

「……アルマァ」


 部屋の中で、上半身裸のキョーガと、熱っぽい視線を向けるアルマが見つめ合っている。

 そして……アルマがキョーガに抱きつき、キョーガの首元に顔を埋めた。


「……それじゃあ……失礼します」

「あァ……」


 ダルそうに返事をするキョーガ……と、アルマが口を大きく開き、鋭い牙をキョーガの首元に突き刺した。

 日課となりつつある、吸血タイムである。


「あふ、あふぅ……キョーガ……美味しいですぅ……」

「そォかよォ……」


 漆黒の翼が、尻尾を振るようにバッサバッサと動き、アルマが恍惚(こうこつ)とした表情を見せる。

 状況を知らない人が見れば、『幼い女の子が男の首元に顔を埋め、幸せそうにしている』と、あらぬ誤解を生みそうな状況だ。

 アルマ(いわ)く、キョーガの血は美味らしい。

 味が濃厚で、いくら吸っても痛そうにしないキョーガが相手だから、アルマも嬉々として吸血を(おこな)えるのだ。


「……おい……吸い過ぎじゃねェかァ?」

「はふっ……も、もう少しだけ吸わせてくださぃ……」


 チューチューと遠慮なく血を吸うアルマを見て、キョーガが深いため息を吐いた。

 ―――本当に、元の世界じゃ考えられないことだ。

 キョーガが誰かのために、体を差し出すなど。


「……ふぅ……ご馳走さまでしたぁ」

「チッ……毎回毎回遠慮なく吸いやがってェ……少しは遠慮しろよなァ」

「だって……キョーガは痛そうにしませんし……」

「はっ……こんなのォ、()()に比べりゃァなんてこたァねェからなァ」

「実験……です?」


 首を傾げるアルマを見て、口が滑ったと顔を背けた。


「……キョーガ?」

「なんもねェ……今聞いた事は忘れなァ」

「?……?……はい、です……?」


 よくわからないまま、アルマが頷いた。

 ―――この1週間で、わかった事が2つある。

 1つは、今の吸血の後―――キョーガの首元には、牙の跡が残るはずなのに……今はもう、完全に治っているのだ。

 リリアナが言うには、『『反逆霊鬼(リベリオン)』には再生能力がある』との事なので、おそらくそれが原因だろうとキョーガは考えている。


「にしてもォ……飯の代わりに血を吸うってのはどうなんだァ?」

「うぅ……ボクたち『吸血鬼(ヴァンパイア)』は、ご飯を食べるより吸血する方が効率がいいんですよぉ……確かに、キョーガの作るご飯は美味しいですけど、キョーガの血の方が美味しいですし……」

「……俺が作った飯より、俺の血の方が美味いってのはァ、なァんか複雑な気分だなァ」


 2つは、アルマは血さえ吸っていれば、ご飯が必要ないという事だ。

 ちなみにアルマ(いわ)く、ご飯を食べた後のキョーガの血が一番美味しいとの事。


「……キョーガ、もう少し吸っていいですか?」

「もうやめとけェ、俺の血が無くなるゥ」

「もう少しだけですよぉ……ダメです?」

「ダメだァ」


 服を着直し、キョーガが立ち上がる―――


「―――おはようございます!キョーガさん、アルマさん!」

「リリアナかァ……おはよォ」

「おはようございますご主人様!」


 と、元気なリリアナがキョーガの部屋に入ってきた。

 その手には―――何か、紙切れのような物が握られている。


「……手紙かァ?」

「はい!先日、実家に手紙を送ったんで、その返事だと思います!」

「へェ……なんて書いてあんだァ?」

「今から読みますね!」


 嬉しそうに手紙を開くリリアナを、優しい眼で見るキョーガ……と、2人を見たアルマが嬉しそうに笑った。


「ご主人様は不思議ですね……ボクたち『死霊族(アンデッド)』にも普通に接してくれますし……」

「こいつは俺らを『人種が違うだけの友だち』としか思ってねェしなァ」

「……確かに、言われてみればそんな感じですね」


 ニコニコと手紙に目を通すリリアナ―――その顔が、凍りついた。


「……ご主人様?どうかしましたか?」

「そんな……お父様……?!」


 驚きに目を見開くリリアナ……それを見たアルマが、リリアナの隣に立ち、手紙に目を通す。

 何が書いてあるのかと、キョーガがリリアナに近づこうとして―――


「……なんだァ……?この気配はァ……?」


 眼を細くするキョーガが、何かを感じ取った。

 ―――殺気。

 物凄い殺気を放つ何かが、高速でここに向かっている―――?


「アルマァ、リリアナから離れんなよォ」

「キョーガ?」

「すげェ殺気だァ……しかもこの感じだとォ……かなりの手練れだなァ」


 掌を開閉させるキョーガが、リビングへと向かった。

 リリアナとアルマも、ようやく理解した。

 ―――キョーガに警戒心を持たせる何かが迫っていると。


「……やっぱりィ……まっすぐこっちに向かってやがるなァ」

「キョーガさん……その……もしかしたら―――」

「リリアナはアルマから離れんなァ……おいアルマァ、リリアナと一緒に俺の後ろにいろォ」

「はい、です!」


 アルマの手の上に、『赤黒い魔法陣』が浮かび上がる。

 そう―――アルマは魔法が使えるのだ。

 一度だけ、アルマが魔法を使う所を見た事がある。

 その際、キョーガが『おもしれェなァ。俺も魔法使えねェかなァ』と興味を示したが、キョーガには『魔法の才』が無いため、魔法が使えないとアルマに言われた。


「……来るぞォ」


 キョーガの低い声に、アルマが表情を引き締める。

 次の瞬間―――『スゥ―――ン』と薄っぺらい音が外から聞こえた。

 直後、扉がバラバラに崩れ落ち―――


「なっ……扉がバラバラになっちゃいました……?!」

「…………へェ……」


 フラリと、30代ほどの男性が、剣を片手に中に入って来る。

 それと向かい合うキョーガの口が『ニヤー』と裂けた。

 ―――おもしろい……俺と、()ろうってのか。


「……お前……か」

「あァ?誰だてめェ……まずはごめんなさいからだろォがァ。人ん()の扉バラバラにしておいてェ、謝罪も無しかァ?」

「………………人の娘に手を出しておいて……よくもまあそんな事が言えたな……」


 剣を構える男性が、狂気を含んだ視線を向ける。

 ……え?……娘って事は―――


「あんたァ、まさかリリアナのォ―――」

「死ねッ!貴様なんぞに娘はやらんぞッ!」


 風を斬る音と共に、神速の剣が放たれる。

 常人ならば、避けるのは至難の技だろう。

 ―――()()ならば、な。


「よっ―――と、まあちょっと落ち着けってよォ」

「うる、さいッ!」


 軽く避けるキョーガに、リリアナの父が再び剣を振る。

 それに対し、キョーガは―――最小限の動きで剣撃を避ける。

 首を傾け、体を反らし、小さく後ろに跳ね―――まるで、剣が見えているような回避技術だ。


 高速の剣を避けながら、キョーガは頭を回転させる。

 ―――知らない相手なら、キョーガも遠慮なく殴れるのだが……相手はリリアナの父親だ。殴れるわけがない。


「よっ、ほっ」

「くそ……ッ!小賢しい……ッ!」


 放たれる一撃一撃が全力。

 それを簡単に避けられるなんて―――と、リリアナの父親は、怒りでおかしくなりそうだったりする。


 ―――ふと、キョーガの足が止まった。

 これをチャンスと見た父親が、素早く剣を振り上げ―――


()った―――ッ!」


 一気に振り下ろした。

 全身全霊。全体重を乗せた渾身の一撃。

 リリアナの目にも、アルマの目にも、キョーガが2つに斬られる姿が容易に想像できた。

 いくらキョーガでも、肌は普通の人間。だからアルマの牙が刺さる。

 リリアナの父親も、勝利を確信し、口元に歪んだ笑みを浮かべた。


 だが―――たかだか剣が、キョーガを斬るなんて不可能だと、全員が思い知る事になる。


「―――『完全再現(リコール)』」


 振り下ろされる剣に対し―――キョーガは、剣先に向かって手を伸ばした。

 直後―――剣の軌道が逸れた。

 まるで、剣がキョーガを避けるように、キョーガの真横に振り下ろされる。


(わり)ィなァ―――もう飽きたァ」

「なっ―――ぐっ?!」


 拳を握ったキョーガが、軽く父親を殴る。

 ―――と、父親の姿が消えた。

 違う。飛んで行ったのだ―――キッチンに向かって。


「お、お父様ー?!」

「……あれェ……そんなに強く殴ってねェんだけどなァ」


 慌てたように駆け寄るリリアナを見て、キョーガが『ヤバイ』と冷や汗を流す。


 ―――アルマは、ハッキリと見た。

 リリアナは気づいていないが……最上級召喚獣のアルマは、確かに気づいてしまった。

 今のキョーガの動き……まるで、武術の達人のような動きだった。

 1年?10年?それ以上?

 どれだけの時間を掛ければ、あんな鮮やかな動きができるようになる?

 いくらなんでも―――洗練()()()()()()()


「キョーガ……」

「んァ?」

「い、今の……なんですか?」

「………………俺の地元にあった技だァ……まァ気にすんなよォ」


 そう言って視線を逸らすキョーガは―――どこか、寂しそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ