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不良の俺、異世界で召喚獣になる  作者: アイビス
5章 『魔物の波』
63/72

2話

「……よォ」

「キョーガ……早かったですねぇ?」

「あんまり待たせても男らしくねェしなァ」


 黒いだぼっとした服を着たキョーガが、部屋のベッドの上で座っていたアルマに近づく。

 どこか火照ったように頬を上気させたアルマが、期待するような眼でキョーガを見つめた。

 熱っぽい視線が交差し……ふっと、アルマが力を抜き、キョーガに寄り掛かった。

 顔を上げ、にへらっと笑い……そんなアルマを見て、キョーガの顔にも自然と笑みが浮かぶ。


「……ボクは―――」

「俺ァ、アルマが好きだァ。俺は恋愛感情とかよくわかんねェしィ、楽しいとか嬉しいとかって感情もォ、最近になってようやくわかるようになってきたァ……けどォ、アルマの事が好きだって確信してるゥ」

「ぁ、え……?」


 先を越されて愛を囁かれ、アルマの体が硬直した。

 何を言われたのか?と呆然した顔でキョーガを見つめる。


「なんでだろォなァ?……おめェが欲しくてたまらねェんだァ……」

「……ズルいですぅ……ボクが先に言おうと思ってたんですよぉ?」

「どっちが先でもいいだろォがァ……こっち向けよォ」

「はいぃ……」


 くるりと体を回転させ、潤んだ『紅眼』が、黒髪の少年を捉えた。

 その小さな肩をガシッと掴み、若干(じゃっかん)緊張したようなキョーガが唇を引き締め……覚悟を決めたように、顔を近づけた。

 桃色の唇に引き寄せられるように、あるいは磁力のように。キョーガとアルマの顔が近づいていき―――


 ―――ゆっくりと、重なり合った。


「……………」

「……………」


 ……何秒ほど、そうしていただろうか。

 やがて、キョーガから唇を離した。


「ぁ……もう、終わりなんですぅ……?」

「別に長くする必要もねェだろォ……おめェがしたいって言うんならァ、もうちっとしてもいいけどなァ」

「……それじゃあ、もう少しだけ」


 そう言って、アルマが顔を突き出した。

 桃色に染まる頰に手を添え……もう一度唇を落とそうと―――


「―――キョーガさんっ!」


 ―――突然の大声に、キョーガとアルマが勢い良くその場から飛び退()いた。


「ォ―――いっだァッ?!」

「あうっ?!」


 勢い余ってキョーガがベッドから転げ落ち、アルマが壁に頭をぶつけた。

 バッと体を跳ね起こし……扉から入ってきた橙髪の少女を見て、キョーガの喉から掠れた空気が漏れ出した。


「ァ……リリアナァ……起きてたのかァ……?」

「当たり前ですっ!どこに行ってたんですか?!キョーガさんが帰ってこなくて……私、心配したんですからね?!」


 どこか涙声なのは、気のせいではないだろう。怒ったように目をつり上げているが、目の端には涙が溜まっている。

 キョーガの心に、珍しく罪悪感が生まれた。


「……(わり)ィ……」

「もう!これからは早めに帰ってきてくださいね?!」

「あァ……気を付けるゥ……」


 ふんす!と鼻息を荒く吐き出し、リリアナがキョーガの部屋を後にする。

 静寂に包まれる室内……と、ベッドに座っているアルマが、苦笑いを浮かべながら頰を掻いた。


「あはは……タイミング悪いですねぇ……」

「……マジで怒ってたなァ」

「そりゃそうですよぉ。ご主人様にとってキョーガは、初めてできた友だちですからねぇ……心配するのも、無理はないですよぉ……それで、どうしますぅ?」

「あァ?何がだァ?」

「続きですよぉ……仕切り直しますぅ?」

「あー……いやァ……また今度だなァ」


 キョーガのヘタレ発言に、アルマがくすくすと小さく笑った。


「それじゃあ……寝ますぅ?」

「……あァ、そうだなァ」


 ぽんぽんと自分の隣を叩き、早くこっちに来いと(うなが)す。

 はぁ……と小さくため息を吐き、何も言わずにアルマと向かい合うようにして寝転がった。


「……そう言えば……キョーガ、1つ聞きたいんですけどぉ」

「なんだァ?」

「あの褐色ロリは……異端児なんですぅ?」


 意図のわからぬアルマの質問。

 そう言えば、シャルアーラは自分の事を異端児と言っていた。

 その事を思い出し、アルマの問い掛けを頷いて肯定する。


「あァ。なんかそれっぽい事ォ言ってたなァ……それがどうかしたかァ?」

「……いえ……ただの確認ですよぉ」

「んっだよオイ。なんかあんのかァ?」

「え?……あ、キョーガは異世界から来たんでしたねぇ。それじゃあ、あの褐色ロリが言ってた異端児の意味も知らないですかぁ……」


 キョーガの胸に顔を埋めながら、アルマが説明を始める。


「『地精霊(ドワーフ)』は普通、『魔法の才』を()()()()種族なんですよぉ。それでも、数十年に一度、『魔法の才』を持って生まれてしまう『地精霊(ドワーフ)』がいるらしいんですぅ。その子の事を、軽蔑と差別の意味を込めて『異端児』と呼ぶんですぅ」

「……って事ァ……シャルは『魔法の才』を持ってるってことかァ?」

「おそらく、そのはずですよぉ」

「けどよォ、アイツが魔法使ってる所なんざァ見た事ねェぞォ?」

「隠してるんじゃないですぅ?」


 隠す理由がわからないのだが。

 そもそも、本当にシャルアーラが『魔法の才』を持っているのか疑わしい。

 本当に魔法が使えるのなら……『禁忌箱(パンドラ)』の迷宮の時、なんで何もしなかった?

 ただ怯えるだけではなく、少しだけでも戦う事ができたんじゃないか?


「……隠してるってのァ、なんか理由があるのかァ?」

「それをボクに聞かれましてもぉ……考えられる理由と言えば、使うと周りを巻き込んでしまう魔法、とかですかねぇ」

「周りを巻き込む魔法だとォ?」

「はいぃ。威力が強すぎて仲間にまで被害を出してしまう魔法……『爆発魔法』や『破滅魔法』、ボクのお祖父さんが使っていた『毒魔法』とかですよぉ」

「あー……おめェのじいさんが使ってた『毒魔法』かァ……確かにありゃァ危険だよなァ」


 アルマの説明を聞いて、キョーガが納得したように頷いた。


「……もしくは……ボクたちに知られると、何か困る事でもあるのか……ですぅ」

「魔法が知られて困る事なんざあるかァ?」

「うーん……ちょっと思い付かないですけどぉ」

「……まァ、言いたくねェ事を無理矢理聞く趣味はねェからなァ。アイツが自分から言わねェって事ァ、なんか理由があるんだろォ」

「優しいキョーガ、素敵ですよぉ」


 ―――この時のキョーガとアルマは、後に後悔する事になる。

 シャルアーラの『魔法の才』を、無理矢理にでも聞き出さなかった事を。シャルアーラ・オルオンという存在を、過小評価しすぎていた事を。

 もちろん、そんな事を今のキョーガたちが知るはずもなく。

 今日も、平和な睡眠に意識を預けた。


―――――――――――――――――――――――――


「―――『全能神(ゼウス)』様」

「……『伝令神(ヘルメス)』か……何用だ?」

「4度目の『神殺し』が成されました」

「……なんだと?」


 玉座に座る、神々しい男。

 背中から生えている8対の羽や、身体中に刻まれている白い紋様を見る限り……かなりの力を持つ男だとわかる。


「……それで?殺された『神精族(デウスロード)』は誰だ?まさか『十二神』の誰かではないよな?」

「はい。殺されたのは『禁忌箱(パンドラ)』です」

「………………あの最弱か……それで、殺した者は何者だ?『紅眼吸血鬼(ヴァンパイア・ロード)』か?それとも……あの忌まわしき『始祖巨人(ユミル)』か?」

「いえ……『反逆霊鬼(リベリオン)』です」


 淡い青色の髪を揺らしながら、小柄の少年が頭を下げる。

 ―――直後。辺りを殺気が覆った。

 神々しい男の体から、空間が軋むほどの殺気が溢れ出している。


「……確かなのか?」

「はい……先日、『紅眼吸血鬼(ヴァンパイア・ロード)』のミロード・エクスプロードが、何者かによって瀕死の状態に追い込まれていました。おそらく、それも『反逆霊鬼(リベリオン)』の仕業かと」

「そうか……」

「『反逆霊鬼(リベリオン)』が現れたと知り、『魔帝王(ノーライフキング)』も動きを見せています……どうしますか?」

「『十二神』を集めるぞ。『魔帝王(ノーライフキング)』に先を越されるな。『反逆霊鬼(リベリオン)』は我々が殺す」


 そう言って、神々しい男が手を鳴らした。

 ―――瞬間。男の座る玉座の回りに、12人の男女が現れた。


「『全能神(ゼウス)』様。どうされましたか?」

「私たち『十二神』を集めるなんて……緊急事態ですか?」

「緊急事態だ……4度目の『神殺し』が成された」


 男の言葉に、12人の男女が表情を引き締める。


「誰ッスか、殺されたザコは」

「『禁忌箱(パンドラ)』だ」

「あー……『禁忌箱(パンドラ)』ッスか。まあ、あのザコならいつ殺されてもおかしくないッスからね」

「ヘラヘラしている場合じゃないわ……由々しき事態よ」

「……『全能神(ゼウス)』様。4度目の『神殺し』を成した者の名前は?」

「『伝令神(ヘルメス)』が言うには……『反逆霊鬼(リベリオン)』らしい」


 ざわっと。

 12人の男女が一気にざわめき立った。


「……『鍛治神(ヘパイストス)』、お前は何も知らんのか?」

「俺は何も知らん……過去に関わったのは、オルヴェルグという『反逆霊鬼(リベリオン)』だけだ」


 神々しい男の問い掛けに、白いひげを長く伸ばした男が首を横に振った。


「そうか……まあいい。『十二神』に選ばれし12人の『神精族(デウスロード)』よ。お前らに任務を与える」


 玉座から立ち上がり、神々しい男が獰猛に笑みを浮かべながら続けた。


「あちら側の世界に干渉し、『反逆霊鬼(リベリオン)』を殺せ。ただし、殺しに行って逆に殺される、なんてふざけた事だけは許さん……いいな?」

「「「「「はっ!」」」」」

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