17話
「……つーかよォ。なんで『森精霊』を召喚してんだよォ……こうなる事がわかってたんだろォ?」
「それを私に言われましても……」
無表情で魔法陣を浮かび上がらせる『森精霊』。
怒れる視線の先には……マリーのスカート内に隠れる『地精霊』が。
「……ボクが頼んだんですよぉ。本当に『森精霊』と契約しているか確かめるために」
「そういう事かァ……」
「でもですねぇ……『森精霊』が召喚されて、この褐色ロリが……その……セレーネに喧嘩を売りましてぇ……」
「うるさいわアルマクス。耳障りな声を出さないで」
「………………へぇぇぇ……?あれだけボコボコにされておいて、まだボクに喧嘩を売れるとは驚きですねぇぇぇ……?今ここで死んどきますかぁ……?」
シャルアーラを睨んでいたはずのセレーネが、何故かアルマに絡み始めた。
喧嘩を売られたアルマの顔から表情が消え、セレーネと対向するように赤黒い魔法陣を浮かび上がらせる。
「頑張るでありますアルマ殿!そんな雑草ぶっ殺すでありまぁす!」
「るっさいですよぉ!あんまりうるさいとぉ一緒に切り刻みますよぉ?!」
「うひいっ?!それは勘弁であります!」
スカートから顔を覗かせるシャルアーラが、しかしアルマの言葉を聞いて再びスカートに潜り込む。
……よく見れば、部屋の端にデントとラッセルが座っている。
デントはいつでも『金欲竜』を呼べるように構えているが、ラッセルは室内の空気に怯えて、完全にへたり込んでしまっている。
『ギアトニクス』に現れた時も思ったが、デントは意外と度胸があるようだ。
「……あなたは……誰?『人類族』?それとも召喚獣?」
「俺ァ召喚獣だァ……てめェが『森精霊』のセレーネってやつかァ?」
「そうよ。あなたは……見た事がないわね。そんなに強そうなのに……名前は?」
「『反逆霊鬼』のキョーガだァ」
「『反逆霊鬼』………………そう、あなたが……」
刺すような視線が一変。どこか尊敬を含むような視線へと変化する。
そんな視線を受けるキョーガは……どこか、居心地悪そうに肩を竦めた。
セレーネの見た目は……控えめに言って、かなり美しい。そのスタイルの良さは、サリスにも引けを取らないほどだ。
そんなセレーネと、熱い視線を向けられるキョーガを見て、アルマが不愉快そうに頬を膨らませた。
「ちょっと。ボクのキョーガをじろじろ見るのは止めてくださいよぉ―――怒りますよぉ?」
先ほどよりも殺気の込められた言葉に、セレーネがキョーガからゆっくりと視線を外す。
そして……シャルアーラに目を向けた。
「……もういいわ……そのモグラに言っておいて。今度会ったら、すぐに殺すって」
「はっ、てめぇ相手に負ける方が難しいでありますっ!異端児である自分に勝てると思っているでありますか?!」
「………………気が変わったわ。今ここで殺す」
―――室内を埋め尽くす、無数の魔法陣。
スカートの中に隠れるシャルアーラをいつでも殺せるように、全ての白い魔法陣がシャルアーラの方を向いている。
「オイいい加減にしろォ……じゃねェと物理的に静かにさせっぞォ」
―――ぞわっ、と。
室内を冷えきった覇気が埋め尽くす。
ようやく静かになった会議室……と、黙っていたシエラがゆっくりと口を開いた。
「セレーネ。こっちにおいで」
「………………わかったわ」
渋々と。本当に渋々といった感じでシエラの背後へと移動する。
離れていくセレーネを見て、再びシャルアーラが挑発しようと口を開くが……顔を出した瞬間、アルマに口と体を押さえられた。
「……さて。それでは、これからの話をしよう」
「これからの話……ですか?」
「ああ。今日起きた事件のおかげで、一生に一度の卒業式が台無しになってしまった……私としても、このまま終わるのは気に食わないからね」
難しそうな話だと判断したのか、サリスがその場に寝転がり、暇そうにし始めた。
コイツは犬か。とか思いながら、キョーガは近くの椅子に腰かける。それはもう、全身の力を抜くように。
ずるずるとシャルアーラを引きずりながら、アルマがキョーガの隣に置いてある椅子に座った。
「【理解】 卒業式をやり直すと」
「そう。しかし……その時、ガルドルを呼ぶかを、悩んでいてね」
「……どうしてだ、学院長?」
学院長の言葉に、部屋の端に座るデントが納得のいかない表情で問い掛けた。
「アイツは、事件を引き起こした原因だぞ?そんなやつを卒業式に参加させるなんて……他の生徒も納得しないし、先生だって納得しないだろ。何より、俺が納得しない」
「……デント。君にはわからないかも知れないが……強大な力を持った人間は、その力を誰かに自慢したくなるんだ」
「そんなの……」
それは、リリアナにも有り得た事。
普通、リリアナのように、4匹の最上級召喚獣と契約すれば……今までバカにしてきた者への復讐を考えるだろう。
たまたま、偶然、リリアナが甘々だから何もしなかったが。
キョーガとしても、もしリリアナがバカにしてきた者への復讐を願うのなら全力で協力するつもりだ。
ただ……リリアナが何も言わないから、何もしなかっただけで。
「……だからってよォ、許していいわけじゃァねェだろォ」
「『反逆霊鬼』……君も反対なのかい?」
「復讐に手ェ出したソイツが100%悪ィだろォがァ……リリアナを見てみろよォ。『無能』って呼ばれてバカにされてたのにィ、4匹の最上級召喚獣と契約してるのにィ、復讐なんざこれっぽっちも考えてねェぞォ?」
「それは……そうだが……」
はん、と不愉快そうに鼻を鳴らし、キョーガの瞳がリリアナを捉える。
『そんなの考えるわけないじゃないですか!』と怒ったようにキョーガを見ているが……事実、リリアナ以外だったら有り得たのだ。
「……もしリリアナが悪人だったら、この国終わってたよね!」
「もうラッセルさん!からかわないでください!」
調子を戻したラッセルが、明るい口調で笑えない事を口にする。
「……まあ、ガルドル本人にも卒業式に参加するか聞いて決めるとしよう。あとは―――」
「学院長ッ!」
会議室の扉が荒々しく開けられ、若い男性が慌てたように室内へ入ってくる。
突然の来訪者に、『人類族』全員が驚いたように肩を跳ね上げ……何やら尋常ならざる雰囲気を感じ取り、シエラが入ってきた男性に問い掛ける。
「どうしたんだい?そんなに慌てて?」
「そ、その、実は―――」
そこまで言って……ポン、と男性の肩に、シワだらけの手が置かれた。
手の主は……腰に剣を下げた、老人だ。
扉の向こうから現れた老人を見て、シエラが勢い良く立ち上がり、パクパクと口を開閉させる。
「あな、あなた、は……」
「久しぶりですな、シエラ学院長殿」
異様な存在感を放つ老人。
その雰囲気に、セレーネが思わず戦闘体勢に入り、シャルアーラも何やら身構えた。
だが……真っ先に反応するはずのキョーガが無反応だ。
だって、そこにいたのは―――
「アルヴァーナのオッサンじゃねェかァ」
「む?……おお、君はあの時の……久しぶりだな。リリアナ殿も、お久しぶりです」
「お、お久しぶりですアルヴァーナ様」
そう。老人の正体は、アルヴァーナだった。
鋭い眼に、姿勢正しく伸ばされた背筋……その姿は、まさに剣のよう。
と、さも当然のように挨拶を交わすキョーガとリリアナを見て、シエラが驚いたように問い掛けた。
「り、リリアナ?君はアルヴァーナ様と知り合いなのかい?」
「え、えっと……知り合いというか、一度だけ話す機会があっただけで……」
「何を言っているのですか、リリアナ殿。ワシ個人としては、あなたという『召喚士』を高く評価しているのですぞ」
「オイ、リリアナ口説いてんじゃねェよオッサン」
「やれやれ、相変わらず厳しいな」
アルヴァーナの事をオッサン呼ばわりするキョーガを見て、シエラがギョッとしたように顔を青くする。
それもそうだろう。アルヴァーナは『プロキシニア』最強の騎士として有名なのだから。
その実力は、『帝国 ノクシウス』の騎士にも匹敵すると言われており……『騎士』を目指す者は、ほとんどがアルヴァーナに憧れて『騎士』を志しているほど。
「んでェ、何しに来たんだァ?」
「ふむ……そうだな。単刀直入に行こう」
そう言うと、アルヴァーナはシエラに視線を向けた。
「今回起こった『神精族』の件について話を伺いたいのと……『魔物の波』の周期について、お話が」
「『魔物の波』……そうか、もうそんな時期だったんだね」
ふぅ、とため息を吐き、手を顎に当てて何かを考え始める。
そして、何かを思い付いたように、リリアナとデント、そしてラッセルに目を向けた。
「アルヴァーナ様。この3人も連れていって良いかな?3人とも、かなりの実力を持つ『召喚士』なんだ」
「そうですな……人手は1人でも多い方が助かるのも事実。グローリア様に頼んでみましょう」
「……というわけだ。リリアナ、デント、ラッセル。今から少し、時間を貰っても良いかな?」
シエラの言葉に、3人の『召喚士』は―――
「「「はっ?」」」




