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不良の俺、異世界で召喚獣になる  作者: アイビス
1章 不良の俺、召喚獣になる
6/72

6話

『『霊鬼(オーガ)』とは。

 最上級召喚獣の中でも、上位3番以内に入る『破壊力』と、自身の傷を癒す『再生能力』、そして自身の強さの象徴である『紅角』を持っている。

 魔王襲来の際も、『死霊術士』が召喚した『死霊族(アンデッド)』の中で、最も撃退に貢献したとされている。

 だが、その後の『死霊事件』以降、『霊鬼(オーガ)』の名前が変えられた。

 現在では、『反逆霊鬼(リベリオン)』と呼ばれている』


「………………うーん……」


 『反逆霊鬼(リベリオン)』の召喚書を閉じ……リリアナが深いため息を吐いた。

 ―――何も、当てはまらない。

 キョーガさんは、確かにスゴい力を持っているけれど……傷を再生している所を見たことないし、何より角が生えていない。

 ……それに……まったく召喚獣っぽくない。


「……キョーガさん……何者なんでしょう……」


 ―――人間には、『魂の器』というのが存在する。

 どんな人間にも『魂の器』は存在し、『魂の器』が大きいほど、多くの召喚獣と契約することができる。

 リリアナの『魂の器』は―――本人は自覚していないが、かなり大きい。

 しかし……いくら『魂の器』が大きいと言っても、召喚獣を召喚できなければ、契約を結ぶ事はできない。


「……考えてもわかりませんよね」


 リリアナが紙を取り出し、ペンを走らせる。

 ―――リリアナは、来月に学院を卒業する。

 無事に卒業できる事を家族に報告するために、手紙を書いているのだ。


『拝啓 お父様、お母様。

 お元気ですか?私はなんとか元気です。

 学院を卒業できるか不安でしたが、頼れるパートナーができたので、どうにか卒業できそうです。

 初めて会った時は乱暴で暴力的でしたが、今はとても優しく接してくれています。

 学院を卒業した後も、1、2年は『プロキシニア』に滞在しようかと思っています。

 いつか、お父様とお母様に彼を紹介しようと思います。

 それでは、いつか遊びに行きます』


「よし……完璧ですね……!」


 この時、リリアナは気づいていなかった。

 ―――乱暴、暴力的と書いた事。

 『彼』と書いた事。

 そして何より―――リリアナの父親が、過保護だというのを忘れていた。

 そんな父親が怒らないはずがなかったのだが……それはまた、近い未来の話。


「……キョーガさんの部屋に遊びに行きましょう」


 初めてできた友人―――リリアナは、友人依存症のようなものだった。


―――――――――――――――――――――――――


「……ったくよォ……夜中に何しに来たかと思えばァ、外を歩こうなんてよォ……昼間も行ったじゃねェかァ」

「い、嫌でしたか……?」

「いや……別に嫌じゃねェけどよォ……」


 夜の町―――昼間とは変わり、静かな住宅街を歩いていた。

 ふと、キョーガがリリアナに問いかける。


「なァ、昨日も思ったんだがァ……電気とか火とかってどうやって出てんだァ?」

「それは『魔法の才』がある人のおかげなんです」

「へェ……自力で炎とか電気とか出せんのかァ……ずいぶんとエコだなァ」


 元の世界でそんな事ができたら、環境問題なんて解決できるだろうに……とか思いつつ、キョーガは興味深そうに辺りを見回した。


「……って事はァ、『魔法の才』があるやつはァ、職を得たようなもんなのかァ?」

「そうですね……国内に電気や炎を送るか、『魔術士』としてモンスターを討伐するか……『魔法の才』を持つ人の将来は、基本的にこの2択ですね」

「……待て待てェ……モンスターとかいんのかァ?」

「はい。昔話の魔王がつれてきたんですけど……まだ残党が残っていまして」


 魔王の連れてきたモンスター。

 それこそ、弱いものから強いものまで……多種多様に存在する。

 『騎士』や『魔術士』、『召喚士』は、モンスターを討伐したり、悪党を成敗したり……まあ、この世界に残っているモンスターの数が多いので、モンスター討伐を仕事にしている人が多い。


「……んァ……?」

「どうかしましたか?」

「いやァ……なんか飛んできて―――」


 キョーガが言い終わる前に、その()()が飛んできた。

 闇夜に光る紅眼、黒色の翼……とても、人間には見えない。

 その()()は、まっすぐキョーガたちの方に向かって飛んできて―――


「―――ほっ」


 弾丸のごとく突っ込んできた()()は―――キョーガの右手によって、弾き返される。

 『ドゴンッ!』と鈍い音と共に、()()が殴り飛ばされた。

 だが―――尋常ならざる勢いだった事を、キョーガの表情が示している。

 サイクロプスの一撃を受けても、顔色1つ変える事のなかったキョーガが―――()()と衝突した際、顔を少しだけ歪めていたのだ。


「……なんだァあいつはァ……?」

「あ、う……あうあう……」

「オットセイかよおめェはァ……」


 突然の轟音に、リリアナが口をパクパクと開閉させている。

 それにツッコミを入れつつ……キョーガは、飛んできた()()に目を向ける。

 キョーガの一撃を受けた()()は……何事もなかったように立ち上がったのだ。

 もちろん、キョーガも本気で殴ったわけではないが……


「……俺の一撃受けて立ってられるたァ……ありゃ化け物かァ……?」


 いや、化け物のあんたが言うか。とリリアナが言いたくなったが―――立ち上がった()()を見て、リリアナの顔から血の気が引いていった。


「……?おいリリアナァ、ありゃァなんだァ?」

「嘘……?!『吸血鬼(ヴァンパイア)』……?!」

「……『吸血鬼(ヴァンパイア)』だァ……?」

「キョーガさんと同じ『死霊族(アンデッド)』で……最上級召喚獣です……!」


 ユラリユラリと近づいてくる『吸血鬼(ヴァンパイア)』……なるほど、最上級召喚獣ならば、キョーガの一撃に耐えたのも納得だ。


「………………を……」

「あァ……?」

「……ぃ………………をぉ………………」


 顔を上げた『吸血鬼(ヴァンパイア)』が、最後の力を振り絞ったように叫んだ。


「―――血を、吸わせてくださいぃぃ!」

「……はァ?」


―――――――――――――――――――――――――


「えと……たす、助かりました……」

「いえいえ、困った時はお互い様ですよ」


 申し訳なさそうにペコペコ頭を下げる『吸血鬼(ヴァンパイア)』を見て、リリアナが優しい笑みを見せる。

 ちなみに、血を吸わせてあげたのはキョーガで、本人は吸われた首元に手を当てて『気色(わり)ィ』と眉を寄せていた。


「……ボク、『吸血鬼(ヴァンパイア)』の『アルマ』って言います……血を吸わせていただき、ありがとうございました……」


 青髪のアルマが、キョーガに深く頭を下げた。

 ……一人称と髪色のせいで、男の子のように見えるが……胸部の小さな膨らみと、スカートを見る限り、女の子だろう。


「……気にすんなァ……別に、血なんて減るもんじゃねェしなァ」

「いえ、減りますよね?」


 ここはしっかりとツッコんで行く。

 ―――『吸血鬼(ヴァンパイア)』。

 血を吸えば吸うほど強くなる、特異な種族。

 逆に、血を吸わないと弱体化する。

 とは言っても……先ほどの突進。あれは血をまったく吸っていない状態だった。

 つまり、弱体化すると言っても―――強力な事に変わりはないのだ。

 キョーガと同じく『死霊族(アンデッド)』に分類されており……血を限界まで吸った状態だと、全ての最上級召喚獣の中で、5本指に入る力を発揮する。


「それで……召喚獣であるはずの『吸血鬼(ヴァンパイア)』が、なぜ単独行動をしていたんですか?」

「……その……ボクたち召喚獣は、召喚士と契約する前に『契約条件』を出すのは知ってますよね?」


 アルマ(いわ)く、こういう事らしい。

 ―――アルマを召喚したのは、この『プロキシニア』でも有名な召喚士。

 その者と契約する際に―――アルマが出した『契約条件』は、『毎日血を吸わせてもらう事』だった。

 普通の人間は、『吸血鬼(ヴァンパイア)』に血を吸われるのは体が持たない。

 だからその召喚士はアルマと契約しないことにしたのだが―――その召喚士は、アルマと契約する気が満々で、召喚した際、『契約条件』を聞く前に、アルマが帰れないように魔法陣を破壊してしまっていたとか。

 まあ確かに、帰る事ができなければ契約を結ぶしかないが……この早とちりがアダとなった。

 契約をしない。しかも帰れないとなったアルマは『それは困りますぅ!』と泣きつくも……その召喚士はアルマを追い出したらしい。


「そこで……行く当てもなく3日ほど、この国をウロウロしていたんですけど……『死霊族(アンデッド)』のボクと契約したがる人もいなくて……血も吸えなくて……お腹空いて……」

「なァ、俺ァリリアナにその『契約条件』とか出してねェんだがァ?」

「それはその……キョーガさんが『契約条件』を出す前に契約を結んでしまったので……」

「俺が(わり)ィのかよォ……」

「あの、話し聞いてくれてます?」

「あァ聞いてる聞いてる……はよ続けろォ」

「うぅ……ボク、一応最上級召喚獣なのにぃ……」


 雑に対応されるアルマが、不満そうに続ける。


「たまたまここを飛んでる時に、あり得ないような気配を感じたんですぅ……人間のようで、人間じゃない……濃厚で美味しそうな気配を……」

「……それが俺だったってのかァ?」

「はい……気配を感じた瞬間、理性が飛んでしまって……いきなり襲い掛かってすみませんでした……」


 アルマの言うことが正しいのであれば、あの時のアルマの思考は『血だぁああああっ!』って感じだったのだろうか。


「でも……あなた、ボクに血を吸われてもピンピンしてますよね?……失礼でなければ、あなたが何者か聞いてもいいですか?」

「……俺ァキョーガ。てめェと同じ『死霊族(アンデッド)』でェ、最上級召喚獣の『反逆霊鬼(リベリオン)』だァ」

「なっ……『反逆霊鬼(リベリオン)』ですです……?!」

「んだよですですってェ……」


 ため息を吐くキョーガを見て、アルマは納得したように頷いた。

 ―――なるほどです。ボクの突進を跳ね返して、血を吸われてもピンピンしてるのも納得です。


「……それでは、ボクはこれで失礼します。助けていただき、ありがとうございました」

「えっ……アルマさん、どこか行く所があるんですか?」

「……ないですけど……モンスターの血でも吸って、どうにか頑張るですぅ……あんまり美味しくないですけど……」


 そう言うアルマの顔は……疲れきっていた。

 それを見た甘々のリリアナが―――(ほう)っておけるわけがない。何か言いたそうにキョーガを見る。

 リリアナの視線に気づいたキョーガは……無言で頷いた。

 『俺はお前の判断に従う』という意思表示だ。


「あの……アルマさん。よかったらうちに来ます?」

「……えっ………………いいんですか?」

「もちろんですよ。アルマさんに血をあげられるのはキョーガさんしかいませんし……それに、友だちは多い方がいいですから!」

「……でも……『反逆霊鬼(リベリオン)』と契約しているんですよね?その……『魂の器』に、余りはあるんです?」

「そんなの、やってみないとわかりませんよ!」


 そう言ったリリアナが、アルマに手を差し出した。

 なぜ、わざわざ契約を結ぶのか。

 簡単な話だ……『死霊族(アンデッド)』は嫌われている。

 そんなやつが、契約もされていない状態でウロウロしてたら―――攻撃されてしまう。

 というか、アルマが今まで無事だったのが不思議なくらいなのだから。

 それくらい『死霊族(アンデッド)』は嫌われている。


「ほら、握ってください」

「……はい、失礼しますぅ……」


 恐る恐るリリアナの手に触れ―――何も起こらない。

 だが―――直後のリリアナの発言で、契約が成功した事がわかった。


「『命令 しゃがめ』」

「うおっ?!」

「あわわっ?!」


 リリアナの命令に従い、アルマが地面に座り込み―――なぜかキョーガまで地面に座り込んだ。


「……契約成功ですね!」

「……です!」

「どォでもいいけど早く解けェ!」


 嬉し気なリリアナの声とアルマの声、そしてキョーガの怒声が、夜の公園に響いたのだった―――

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