表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不良の俺、異世界で召喚獣になる  作者: アイビス
4章 禁忌の箱を開けし者
57/72

14話

 ―――体が、死ぬほど重い。

 目が覚めると同時、キョーガは不鮮明な思考の中でそう思った。

 指を動かし、体が動く事を確認する。

 ゆっくりと体を起こし、現状の確認をしようと頭を動かそうとして―――


「がっ……!ぐゥ……?!」


 身体中に、激痛が走った。

 この痛みは……ずっと味わっていなかった痛みだ。この先、永遠に味わう事のないだろうと思っていた痛みだ。

 筋肉の超回復―――いつぶりになるかわからない、筋肉痛。

 と、キョーガの呻き声が聞こえたのか、近くの椅子に座っていた少女がバッと振り向いた。

 キョーガと目が合い……嬉しそうに、けれども心配そうに声を掛けてくる。


「キョーガ……!大丈夫ですぅ?」

「アルマかァ……?……ここォ、どこだァ?」

「えっとぉ……ほけん、しつ……?とか言ってましたよぉ」

「保健室ゥ……?って事ァ、ここァまだ学院かァ」


 キョーガの呟きに、アルマが無言で頷く。


 ……少しずつ、何があったかを思い出してきた。

 確か俺は……『禁忌箱(パンドラ)』を殺したんだ。それで、あのガルドルとかふざけた男を掴み上げて……


「そうだァ……!リリアナはァ?!リリアナはどこだァ?!」

「お、落ち着いてくださいよぉ。ご主人様は無事ですぅ。今は別室でこの学院の先生に事情を説明してますぅ」


 掴み掛かるキョーガを(なだ)めるように、アルマが説明しながら扉の方に目を向ける。

 アルマの視線を追い、扉を見つけたキョーガが、ベッドから飛び降りて―――ガクンッと膝を落とした。


「あァクソッタレェ……!久しぶりすぎてきちィなチキショォ……!」

「キョーガ?どこか痛むんですぅ?」

「……何もねェ……行くぞォ」


 強がり、痛む体を無理に動かして扉を目指す。

 ―――と、アルマがいきなりキョーガの左足を蹴った。躊躇(ちゅうちょ)なく。

 パァンッ!という爽快音が室内に響き―――突然の蹴撃を食らったキョーガは、目を大きく見開いて床に崩れ落ちた。


「いぎっ―――?!」

「……強がりたいのはわかりますけどぉ……足、ガクガクですよぉ?」


 座り込むキョーガの背中を優しく撫でながら、心配そうに声を掛ける。

 蹴りの痛みに絶叫を上げなかったのは、キョーガが声を出さないように踏ん張った―――のではなく、単に痛すぎて声が出なかっただけだ。


「て、めェアルマァ……!筋肉痛の場所を蹴るとかマジふざっけんなよオイ……!」

「……まったく……いい加減、他人を頼る事を覚えましょうよぉ。あなたの目の前には誰が立ってるんですぅ?あなたに惚れ込んだ女がいるんですよぉ?……少しくらい、ボクを頼ってくださいよぉ」


 どこか悲しそうに瞳を揺らすアルマ……そんなアルマを見て、キョーガは小さく舌打ちした。


「……はァ……アルマァ、肩を貸せェ……リリアナん所に行くぞォ」

「……はい!」


 ―――この後、2人の身長が合わなくて、よくわからない体勢のままリリアナたちの所に向かったのは……まあ、言うまでもない。


―――――――――――――――――――――――――


「……今回の件。君がいなかったら大変な事になっていた。本当にありがとう」


 美しい女性が、向かい側に座る少女に深々を頭を下げる。


「そ、そんな、頭を上げてください、学院長。私は大した事はしていません。むしろ、アバンさんやデントさん、ラッセルさんの方が頑張っていました」

「何を言っているんだリリアナ。今回の騒動、お前がいなかったらどうなっていたか……」

「そうよリリアナ!『禁忌箱(パンドラ)』なんて、ラナじゃ絶対に勝てなかったわ!」


 苦笑を浮かべるデントが、リリアナの手を取るラッセルが、今回の騒動について思い返す。


 キョーガたちが『禁忌箱(パンドラ)』と戦っている時、デントとラッセルは、生徒と保護者の安全を確保していたのだ。

 出口がないように思えた『封じられし禁忌迷宮(ナイトメア・パンドラ・ボックス)』……しかし、デントの召喚獣である『金欲竜(ファフニール)』の『転移魔法』を(もっ)てすれば、外に出る事など簡単。

 『氷結銀狼(フェンニル)』で『人類族(ウィズダム)』を探し、『金欲竜(ファフニール)』で外に出す。

 デントとラッセルは、見えない所で活躍していたのだ。実際、2人のおかげで死人はいない。


「……ふむ……リリアナ」

「は、はい?」

「君は、何匹の召喚獣と契約しているんだ?」


 慣れない褒め言葉に、リリアナが顔を真っ赤に染め……学院長の言葉に、今度は表情を引き締める。


「君の噂は、前々から聞いていたよ。どれもこれも、あまり良い噂ではなかったがね」

「それは、まあ……そうでしょうね」

「しかし、今日の君の働きは、職員たちから聞いていた無能とは程遠い……初級召喚獣すら召喚できなかったはずの君が、どうやって『禁忌箱(パンドラ)』を討ち取った?君は、何匹の召喚獣と契約している?」


 現在、リリアナは1人だ。

 キョーガとアルマは保健室。サリスは……何故か消えてしまった。マリーとシャルアーラは、消えたサリスを探している。

 『今日の自分たち、何だか人探しをしてばかりではないでありますか?』と言っていたシャルアーラが、マリーに引きずられて外に連れ出されたのはついさっきの出来事だ。


「私が契約しているのは、4匹の召喚獣です」

「ほう……種族と、召喚獣名は?」

「……『死霊族(アンデッド)』の『反逆霊鬼(リベリオン)』、『吸血鬼(ヴァンパイア)』、『地獄番犬(ケルベロス)』。そして、『精霊族(スピリット)』の『地精霊(ドワーフ)』です」

「……うん?先ほどの金髪の少女は?」

「『機巧族(エクスマキナ)』という種族です。人工的に造られた種族……と聞きました」


 ちなみにアバンは、この場にいない。別室で拘束されているガルドルの見張りだ。


「……ふむ……最上級召喚獣4匹と契約か……」

「で、でも、自分で召喚できたのは『反逆霊鬼(リベリオン)』と『地精霊(ドワーフ)』だけで……『吸血鬼(ヴァンパイア)』と『地獄番犬(ケルベロス)』は、たまたま契約できただけなので……」

「それでも、2匹の最上級召喚獣を召喚するなど……それに、『魂の器』はどうなっている?4匹もの最上級召喚獣を許容する『魂の器』など、聞いた事もない―――」


 そこまで話して、ガチャっと会議室の扉が開けられた。

 マリーとシャルアーラが帰ってきたか?と室内の全員が視線を向け―――現れた2人の男女を見て、思わず固まった。

 不愉快そうに顔を歪めている黒髪の男と、『頑張った!』とニコニコ笑っている青髪少女。

 どちらも底知れぬ覇気をその眼に宿しており、尋常ならざる実力を持っているのは(あき)らか……なのだが。


「……キョーガ、さん?えっと……その体勢は……?」

「聞くんじゃねェリリアナァ……!俺だってェ、俺だってこんな無様(ぶざま)な姿ァ……!クソォ……!」


 少女に両足を持たれ、体を引きずられているその姿は、とても『禁忌箱(パンドラ)』を討ち取った―――史上4度目の『神殺し』を成した人物には見えない。

 なんというか……まるでキョーガが物のようだ。


「オイアルマァ、手ェ放せェ……」

「大丈夫ですよぉ!ボクまだピンピンしてますぅ!このまま椅子に座らせますよぉ!」

「だから放せってェ―――がっ?!」


 1歩踏み出し、会議室に足を踏み入れた。

 その際、キョーガが段差に頭をぶつけていたのだが……気づいていないのか、ズルズルと引きずって笑みを浮かべている。


「はいっ!着きましたよぉ!」

「……てめェ後で覚えてろよォ」

「そんなぁお礼なんて良いですよぉ!」


 ビキキッとキョーガの(ひたい)に青筋が浮かび上がる。

 キョーガの手伝いができた事が嬉しいのか、鬼気を放つキョーガをスルーして一層笑みを深めた。


「はァ……んでェ、今ァどういう状況だァ?」

「あ、えっと―――」

「君が『反逆霊鬼(リベリオン)』か?」


 リリアナの声を(さえぎ)り、キョーガに問い掛ける女性。学院長だ。


「あァ……?……いや誰だてめェ。まずは名乗れや話はそっからだろォがァ」

「ああすまない。私は『シエラ・マスカレード』。この学院の学院長を務めさせてもらっている」

「学院長ゥ……?……そうかァ。俺ァキョーガだァ」


 立ち上がり、握手を求めて手を差し出すシエラ。

 対するキョーガは……ペコリと頭を下げるだけで、握手を交わさなかった。

 ギョッとした表情でキョーガを見るリリアナが、『何してるんですか!握手してください!』と視線で訴えてくるが……それでもキョーガは動かない。

 いや……正確に言うなら、『動かない』ではなく『動けない』の方が正しいのだが。

 もちろん、リリアナがキョーガの筋肉痛を知るはずもなく、強制的に握手させようとキョーガの腕を持ち上げた。


「バカバカバカバカやめろォッ!」

「何してるんですか?!キョーガさんが他人嫌いなのはわかってますが、握手を求めている相手に会釈だけってあんまりですよ!ほら、早く学院長と握手してください!」

「待てわかったァ!わかったから落ち着けェ!自分のペースで握手させろォ!」


 震える足で立ち上がり、力の入らない手で握手を交わす。

 そのままドカッと乱暴に腰掛け、背もたれに体重を預けるようにしてシエラと向かい合った。

 ……だらしなく椅子に座り、シエラを見下ろすように顔を上げているキョーガの姿は……誰がどう見ても、生意気な小僧だ。

 わざとではない。そうわざとではないのだ。

 力を入れると体が痛むため、とりあえず脱力しているのだが……それがむしろ、生意気さを引き上げている。


「……キョーガさん。いい加減にしないと、『命令』で立たせたまま話し合いに参加してもらいますよ?」

「いや(ちげ)ェんだよォ。筋肉痛が酷いんだってェ」

「キョーガさんが筋肉痛なんてなるわけないじゃないですか!冗談もほどほどにしてください!私も怒りますよ!」

「冗談じゃねェんだってェ!」


 さすがにこのままではキョーガが立ったまま話し合いに参加すると思ったのか、アルマがリリアナに事情を説明し……キョーガを疑ったリリアナが、首が取れるほどの勢いで何度も謝ったのだが……それはまた、別の話。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ