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不良の俺、異世界で召喚獣になる  作者: アイビス
4章 禁忌の箱を開けし者
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12話

「よォリリアナァ……無事っぽいなァ」

「キョーガさん!」


 壁を粉砕しながら現れた『鬼』を見て、リリアナが嬉しそうに名前を呼ぶ。

 名前を呼ばれたキョーガは、ニイッと凶悪な笑みを浮かべ……すぐに表情を切り替えた。

 その視線の先には―――騒動の元凶となっている少女の姿が。


「おうコラァ、念のために確認するぜェ?……お前がこの迷宮を作り出したァ『禁忌箱(パンドラ)』だなァ?」

「そだよー……そういう君は、『反逆霊鬼(リベリオン)』だねー?」

「あァその通りだァ」


 ミーシャの発言を肯定すると同時、ミーシャの背後でガルドルが声を上げた。


「り、リリアナの召喚獣なのか……?」

「あァ?」

「なんで……僕より召喚の才能がなかったのに……!リリアナだけは、迷宮から無事に出してあげようと思ってたのに……!」

「ガルドルー?どーしたのー?」


 握った拳を震わせ、ガルドルが憎悪に満ちた視線をキョーガに向ける。

 何故そんな視線を向けられるのかわからないキョーガは……ガルドルの発言を聞いて、眉を寄せた。


 ―――リリアナだけは……無事に?

 それは、どういう事だ?リリアナがここにいたのは、偶然ではないのか?だとすれば、何の目的があって―――いや、違う。

 どんな理由があろうと、リリアナを……俺の召喚士を、俺の大切な人を、何も悪い事をしていないリリアナを(さら)ったのは―――


「許せねェよなァ……!」


 キョーガの眼に力が宿り、全身から鬼神のごとき覇気が溢れ出す。

 ―――刃物で肌を撫でられているかのような錯覚を覚えるほど、濃密な覇気。

 ミシミシッ……ビキキッ……!と床と壁に亀裂が走り―――その原因がキョーガの覇気と知って、ミーシャが一層(いっそう)警戒を深めた。

 覇気だけで迷宮にヒビを入れるなど……と、味方であるはずのサリスも、キョーガの覇気を感じて身を(すく)める。


「はぁ……ボクを置いて、他の女の心配をするなんて……まあ、ご主人様だから別にいいですけどぉ」


 ―――そう。忘れてはならない。

 尋常ならざる覇気を放つ『反逆霊鬼(リベリオン)』の隣―――そこに、幼い『紅眼吸血鬼(ヴァンパイア・ロード)』が立っている事に。


「で、どうしますぅ?」

「あァ?何がだよォ?」

「『禁忌箱(パンドラ)』ですよぉ……キョーガが1人で相手しますぅ?それだったら、ボクはご主人様を守るのに集中するんですけどぉ……」


 愚問だと言わんばかりに、キョーガが1歩前に出た。

 そのままミーシャと向かい合うように立ち、覇気を放ちながらミーシャを―――いや、ガルドルを睨み付ける。

 どうやら、キョーガにとっての『敵』は、ガルドルのようだ。


「なにー?お前は戦わないのー?」

「当たり前ですよぉ。キョーガが戦うなら、ボクの出る必要はないですぅ」

「ふーん……じゃーこの『反逆霊鬼(リベリオン)』を殺した後にぶっ殺してあげるねー?」

「……20年前、()()()()()もうまくできなかったボクに負けたあなたが、キョーガに勝てるわけないですよぉ」

「負けた覚えはないけどなー?」

「おっと、そうでしたねぇ……『神殺し』を恐れた他の『神精族(デウスロード)』が、あなたを逃がそうと必死に頑張ってましたからねぇ?あなたが尻尾巻いて逃げたおかげで、四度目の『神殺し』が()されなかったですから……まあ、ボクを止めるために4匹も『神精族(デウスロード)』が出てくるなんて思わなかったですけどぉ?」


 挑発するように笑い―――アルマが、キョーガの手を握った。


「まあまあでもでもぉ?この前あなたを殺さなくてよかったって思ってますよぉ?」

「……へー?」

「だって―――ボクの愛しいキョーガが『神殺し』を成す瞬間を見れるんですから。相手があなたみたいなザコ『神精族(デウスロード)』なのが残念ですけどぉ……贅沢は言ってられないですぅ。精々(せいぜい)頑張って、ボクのキョーガが『最強』に成るための踏み台になってくださいよぉ?」


 怒りで顔を真っ赤にするミーシャが、手の上に黒い箱を召喚する。

 怒れるミーシャには目も向けず、キョーガがアルマに疑問の声を上げた。


「あァ?おめェ、俺は『最強』じゃなくてもいいって言ってたじゃねェかァ?」

「ボク、ちゃんと言いましたよぉ?『『最強』を目指すのは、素晴らしい事』って……別に『最強』を目指すのに怒ったんじゃないですぅ。ボクが怒ったのは、『『最強』じゃないと自分には意味がない』って言ったからですよぉ?」

「……あァ、そォだったなァ」

「むしろ『最強』に成ってほしいですぅ……夫が世界最強なんて、カッコいいですからねぇ?」


 キョーガを夫と呼び、繋いだ手に柔らかくキスした。

 そのまま顔を上げ、妖艶な笑みを見せる。


 ……可愛い。

 何故か、今のキョーガには……アルマが、スゴく可愛く見えた。


 と、何故かアルマが嬉しそうに笑みを深めた。

 その笑顔を見て、ようやく自分がアルマの顔を凝視している事に気づいたキョーガが、少し顔を赤くしながら顔を()らし―――殺気を感じて、ミーシャの方を向く。


「ねー……!そろそろ殺していいかなー……!」

「わざわざ待っててくれるたァ優しいなァ……んじゃァ、()るかなァ」

「死ね……!『絶望を封じ込めし匣(ディスペアー・ボックス)』……ッ!」


 黒い箱がガパッと開き―――そこから、黒い触手が現れ、キョーガに襲い掛かる。

 迫る5本の触手を迎撃しようと、キョーガが腰を落として身構えるが―――キョーガの目の前で軌道を変えた。

 グンッと曲がり、キョーガの横……アルマを狙って触手が迫り、その可愛い顔に傷を付けようと―――


「なァに俺を無視してアルマに手ェ出そうとしてんだゴラァ?」


 2本の触手を手で掴み、残る3本を雑に踏みつける。

 グリグリと触手を地面にねじ込みながら、キョーガが凶悪な牙を剥き出しにした。


「はぁ……だから言ったですよぉ?ボクの出る必要はないです、って……あなたは、キョーガに負けますぅ」


 目の前まで迫っていた触手に微塵の恐怖も感じていないのか、アルマが表情を変える事なく、ミーシャを正面から見据える。

 そこでようやくキョーガの事を『敵』として……いや、『脅威』として認めたのか、ミーシャの眼がキョーガに向けられた。


「さっきからイライラさせてくれるねー……!そんなに死にたいなら、先に殺してあげるよー……!『絶望を封じ込めし匣(ディスペアー・ボックス)』―――!」


 と、箱が開き―――そこから、様々なモンスターが現れる。

 黒狼、黒騎士、黒岩石、黒巨人。そして、あの忌々しき黒竜。

 すでに存在していたモンスターと合わさり……その数は、まさに絶望的な数だ。


「楽には死なせないよー……!」

「はん……こりゃまたすげェ数だなァ」


 先ほど苦戦した黒竜……合計4匹。

 さすがのキョーガでも、4匹の黒竜を相手に戦うなど―――


「……って思ったらァ、相手の思うツボなんだよなァ……」


 そう。『禁忌箱(パンドラ)』は、絶望を糧として強くなる。

 ここで悲観的になれば、状況はさらに悪くなってしまうだろう。

 ……ここが、踏ん張り所だ。

 吼える黒竜と向かい合い―――キョーガの『紅角』に、尋常ならざる熱が収束し始める。


「あァ―――『焼却角砲(ホーン・ファイア)』ッ!」


 それはまるで、小さな太陽。

 ボウッ!と音を立てて現れた火球が、黒竜の群れ目掛けて放たれる―――事なく、キョーガの『紅角』の上で猛り狂っている。


 ……なんだ?

 違う……()()()()()()

 もっとこう、角全体に力が入るように……そうだ。もっと力を……!


「……んー……?」


 ミーシャが間の抜けた声を出し、キョーガを―――いや、キョーガの火球を見て、首を傾げた。

 まるで、予想外の何かを見たような……そんな顔で。


 ―――熱い……!でも、もっとだ……!もっと熱くできる……!

 ゴオッ!と、頭上で燃える火球が、一気に温度を上げる。

 ……限界?……いや、まだいける。


「あ、ァあああァあああああああ……ッ!」

「き、キョーガ……?」


 火球の猛る音が止まり……静かになった。

 ……限界?……いや、まだいける。


「もっとだァ……!もっともっとォ……!」


 全てを燃やし尽くさんと猛る火球の色が、赤色から紫色へと変化。

 ……限界?……いや、まだいける。


「わけわかんないけどー……殺っちゃえー」

「ルガァアアアアアアアアアアアアッ!」

「ガルァアアアアアアアアアッ!」

「―――ァアアアアァアアアアアアアッッ!!」


 ボッ……と音を立て、火球が青色に変化。

 美しい……目が覚めるような、優しい色だ。


「―――ゥるァああああああああああァあああああああああああああああああッ!」


 キョーガの『紅角』から蒼い火球が放たれ―――対する黒竜の群れも、その口から黒炎を放つ。

 たった1つの蒼球と、4つの口から放たれる黒炎が正面衝突し―――蒼球が、黒炎をあっという間に呑み込んだ。

 それだけでは止まらない。

 黒炎を呑んでさらに火力を増した蒼球が、モンスターの群れに突っ込み―――爆発。

 迷宮の内部を吹き飛ばし、耳を裂くような轟音を響かせ―――あれだけいたモンスターの群れが、1匹残らず全滅している事に気づく。


「……邪魔は消えたなァ……んじゃァ、殴り合おうかァ?」


 ニイッと笑うキョーガ……その角は、紅くではなく、蒼く輝いていた。

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