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不良の俺、異世界で召喚獣になる  作者: アイビス
1章 不良の俺、召喚獣になる
4/72

4話

「…………はァ……」


 風呂に入るキョーガが、顔にタオルを当てながら深く息を吐いた。

 リリアナの家―――家というより、小さな屋敷だ。

 『なんだよボンボンの娘か』と思うキョーガ……あながち、外れではない。

 ―――リリアナは、伯爵の娘なのだ。

 もちろん、キョーガはそんな事は知らない。

 そもそも、そんな事に興味は無いし―――リリアナは悪いやつじゃないと信じているからだ。


「……んァ……?」

「キョーガさん!入っていいですか?」


 曇りガラスの向こう―――肌色の何かが動いていた。


「いやダメに決まってんだろォがバカかおめェ」

「えっ……でもお父様が『友だちができたら背中を流してやるんだぞ』って……」

「おめェバカだよな?普通、男女が一緒に風呂入る事なんてねェからなァ?」


 それでも、脱衣所にいるリリアナは、リビングに戻ろうとしない。

 と、何か白い物が宙に浮いた。

 曇りガラス越しだからよくわからないが……白いタオルだと思われる。


「……おい、入ったら殺すぞォ?」

「酷い?!私は仮にも『召喚士』ですよ?!キョーガさんの『召喚士』ですよ?!」

「だからなんだよォ……」


 キョーガがため息を吐く―――と同時、風呂場の扉が開けられた。

 白いタオルを巻いたリリアナが、少し顔を赤くしながら中に入ってくる。

 対するキョーガは、殺気を放つことでリリアナを外に出そうとするが―――


「ふふん!キョーガさんのその殺気は、怒ってないですね!」

「あァ……?んでおめェにそんな事がわかんだァ?」

「さっきアバンさんに向けた殺気……あれが本当の殺気ですよね?なら、今出してる殺気は、全然本気で怒ってないですもん!」


 小さな胸を張り、自慢気にリリアナが指摘する。

 ―――リリアナの言う通りだ。

 キョーガは本気で追い払いたいわけではない。

 別に、もっと濃密な殺気を出そうと思えば出せるのだが―――今のキョーガは、それをしていない。

 理由は単純。

 ……嫌われたくないのだ。

 キョーガはリリアナに嫌われたくない……たった1日しか付き合っていないが、キョーガはリリアナの事を気に入っている。


 それはリリアナも同じ事。リリアナもキョーガの事を気に入っている。

 キョーガが本気で拒絶するなら大人しく身を引くつもりだったが―――本気じゃなく、照れ隠しのように感じる殺気だ、とリリアナは感じた。


「ほら、浴槽から出てください!背中流します!」

「二度は言わねェ……今すぐ出ろォ」

「大丈夫です、痛くしませんから!」

「……今すぐ出ろォ」

「……キョーガさん、もしかして恥ずかしいんですか?」


 二度は言わないと言ったのに、同じことを言うキョーガ。

 ―――リリアナは美少女だ。

 それこそ、普通の人間ならば歓喜して背中を差し出すほどに。

 なら何故(なぜ)、キョーガはそうしないのか?

 ……リリアナの事は気に入っているが、今まで友人がいなかったキョーガにとっては、他人に肌を触らせるなんて、ハードルが高過ぎるのだ。しかもそれが美少女など、(もっ)ての(ほか)だ。


「……自分で物事を決められねェショボい女かと思えばァ、わけわかんねェとこで大胆たァ、どんなキャラだよォ」

「ほら!早く早く!」

「チッ……わかったわかったァ。早く終わらせろよなァ」


 そう言って立ち上がり、顔に当てていたタオルを巻くキョーガの顔は―――やっぱり、優しい表情だった。


―――――――――――――――――――――――――


「……これァなんだァ?」

「?……あ、それは昔話ですよ。かなり古いですが、本当に起こった出来事を書いてあるみたいです」


 リビングにポツンと置いてある本を見て、キョーガが夕食を作っているリリアナに問い掛ける。

 わざわざなんでリリアナに聞いたのか―――この本、日本語で書いていないのである。

 おそらく異世界語だろうと仮定し、キョーガが本を開く。

 文字は読めないが……小さな子どもが書いたようなヘタクソな絵を見たキョーガが、再びリリアナに問い掛けた。


「なァ、この3人の人間は何なんだァ?」

「『勇者』と『魔女』、それと『死霊術士』ですね」

「……なんだそりゃァ?」

「ちょっと待っててください、もうすぐ終わるので」


 せっせと料理をするリリアナを見て、『邪魔をしたな』と1人反省する。

 『勇者』に『魔女』、『死霊術士』……?

 それは、リリアナがキョーガに教えてくれた、『騎士』と『魔術士』と『召喚士』の事だろうか。


「さ、できましたよ!」

「んァ……ありがとよォ」

「いえいえ!キョーガさんは……一応召喚獣なんですから、召喚獣を養うのも、召喚士の務めですよ!」


 やはりキョーガの事を召喚獣と呼ぶのは嫌なのか、一応と付けるリリアナ。

 その言葉にキョーガは苦笑―――する事なく、リリアナの出した料理に目を向けていた。

 ……黒い塊。雑にみじん切りされた野菜。生の肉。


「なんだこれェ?」

「え?焼き魚とサラダとハンバーグですけど……苦手な物、ありました?」

「苦手とかそんなレベルじゃねェよォ!おめェこれが焼き魚って言うのかァ?!焼き過ぎて中まで(すみ)になってんじゃねェかァ!どうやって食うんだよォ?!これに至っては生肉だろォ?!チッ、食い(もん)粗末にしやがってェ……台所借りるぞォ!」


 サラダに口出ししなかったのは、もう野菜だからサラダで良いや、とキョーガが妥協したからである。

 リリアナの着ていたエプロンを剥ぎ取り、キョーガが台所に向かった。

 ―――キョーガは12歳()()施設に預けられていた。

 その施設は貧乏で、1日1食あるかないか、そんな環境だった。

 だから……食べ物に関しては、ものすごく厳しいのだ。


「ちょっと待ってろォ、すぐに作るからよォ」

「え?……キョーガさん、料理できるんですか?」

「おめェ俺をバカにすんなよォ?基本的には何でもできっからなァ?」


 不機嫌そうなキョーガが、置いてあった包丁を手に取り料理を始めた―――


―――――――――――――――――――――――――


「……ほらよォ、食えやァ」

「わぁ……!スゴいです!美味しそうです!」


 並べられた料理を見て、リリアナが歓喜する。

 リリアナが用意した料理―――あれのせいで残っている食材が少なかった。

 だからキョーガは少し工夫して、リリアナが作っていたハンバーグ(もどき)を焼き直して、食べられるハンバーグにした。

 雑に切ってあったサラダも、細かく切って食べやすいようにしてあり―――


「キョーガさんって、何でもできるんですね!」

「まあなァ……何でもできるように()()()()からなァ」

「されてる……って、どういう事です?」

「……気にすんなァ、とっとと食おうぜェ」


 誤魔化すようなキョーガの言葉に、リリアナが一瞬口を開くが―――キョーガの悲しそうな顔を見て、その口を閉じた。

 ―――話したくない過去があるのだろう。

 それはきっと―――私にも話せない。話したくないような内容だろう。

 ―――いつか、もっと仲良くなったら……話してくれるかな?


「……そォいやァ……その本、なんて書いてあんだァ?」

「『魔王』を討伐する昔話です」

「……って事はァ、昔は『魔王』がいたって事かァ?」

「はい、そうだと聞いてます」


 本を開くリリアナが、内容を話してくれた。


『昔々、平和な世界に『魔王』が現れました。

 『魔王』は七人の『大罪人』を連れ、平和な世界を支配し、何もかも自分の物にしようとしました。

 人間と『魔王』の戦いは、長年に(わた)って続きました。

 戦いの内に、海は蒸発し、木は燃え尽き、大地は砂と化し、空は赤く染まってしまいました。

 しかし、七人の『大罪人』が強くて、人間は負けそうになってしまいます。

 その時、3人の人間が現れました。

 『聖剣』を持つ『勇者』。強力な魔法を操る『魔女』。そして、死者を操る『死霊術士』です。

 3人の人間は、七人の『大罪人』を倒し、『魔王』を追い払いました。

 こうして世界に平和が戻りました。

 けれど、忘れてはいけません。

 私たちが生きていられるのは、この勇敢な3人のおかげだという事を。

 そして……『魔王』は、今この瞬間にも、再び世界を支配しようと現れるかもしれない事を』


「……です」

「……七人の『大罪人』だァ……?」

「この昔話に影響されて、今の『騎士』と『魔術士』と『召喚士』の制度が作られたそうです」


 パタンと本を閉じるリリアナを見て、キョーガが腕を組み、昔話の内容を思い返す。

 七人の『大罪人』―――キョーガには、どこか聞き覚えがあった。

 深く考えなくても、既視感の正体はすぐにわかった。


「『七つの大罪』……かァ?」

「え?」

「んやァ……なんもねェよォ」

「そうですか……それじゃあ、いただきますね!」

「あァ……」


 キョーガの料理を食べたリリアナが、とても幸せそうな表情を浮かべたのだが―――それはまた、別の話。

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