2話
「キョーガっ」
「あァ……んっだよアルマァ?はよ寝ろや成長しねェぞォ?」
「……何が成長しないのかは、あえて聞きませんよぉ」
深夜。リリアナ宅。
いつも通り、枕を持ったアルマが、キョーガの部屋にやって来た。
「……んでェ、何しに来たんだァ?言っとくがァ、俺ァまだ寝ないぞォ?」
「あれ、珍しいですぅ。何かしてるんですかぁ?」
言いながら、アルマがキョーガに近づく。
そのキョーガの手には……幼い子どもが読むような本があった。
「えっ、と……それ、なんですぅ?」
「……言葉の勉強してんだァ、邪魔すんなァ」
「え?……キョーガ、文字がわからないんですぅ?」
アルマの問い掛けには返事せず、ただ無言で本を読む。
そして―――唐突に、パタンと本を閉じた。
「……終わりだァ」
「諦めるんですぅ?まあでも、文字を覚えるなんて何日掛かるか―――」
「違ェ違ェ……覚えたってんだよォ」
「えっ……え?覚えたって……えっと……いつから勉強してるんですぅ?」
「あー……10分前だなァ」
『10分で文字を覚えた。理解した』と言うキョーガ。
もちろん、アルマは信じていない。
というか、キョーガが文字を知らなかった事に驚いている。
「うっしィ……次だなァ」
「……?……それは、何の本ですぅ?」
「知らん。リリアナに借りたァ」
雑に返事しながら、キョーガが本に目を通す。
その様子を黙って見ていたが……ふと、何かに気づいたように声を上げた。
「それ……『神精族』の本……ですぅ?」
「『神精族』ォ……?んっだそりゃァ?」
「えっとぉ……普通の召喚獣なんて相手にならないほどの実力を持つ、神と呼ばれる種族ですぅ」
「……神ねェ……」
どこか嬉しそうなキョーガに、嫌な予感を感じる。
「あのっ……キョーガ?その、『神精族』に喧嘩を売るのはやめた方が良いかとぉ……」
「わかってるわかってるゥ……アルマァ、その『神精族』ってのについてェ、詳しく教えろやァ」
「見かけたら喧嘩売る気ですねぇ……」
大きくため息を吐き、ベッドに座る。
キョーガも本を閉じ、アルマの隣に座った。
「えっと……先ほど言った通り、『神精族』は神と呼ばれる種族ですぅ。とにかくデタラメに強くて、『サモンワールド』を治めている種族、と言っても過言ではないですぅ」
「強ェっつってもよォ……アルマは勝てねェのかァ?」
「相手によりますよぉ……倒せるとすれば、そうですねぇ……『月神』や『狩猟神』ぐらいでしょうかぁ……でも、ボクも本気を出さないと勝てませんけどねぇ……」
指折り数えながら、それでも神に勝てると言うアルマ。
心強いアルマに笑みを向け―――ふと思い出したように、慌てて続けた。
「あ、あっ、でもでも、『神精族』を倒したら、他の『神精族』が復讐に来ますから、手を出さないのが一番ですよぉ」
「あァん?報復に来んのかァ?」
「う~ん……どうやって説明しましょうか……」
悩むように腕を組み……ゆっくり、1つずつ説明を始める。
「まず、『神精族』を倒す事を『神殺し』と言うんですよぉ」
「『神殺し』ねェ……」
「『神精族』はプライドがとても高いので、『神殺し』を恐れてるんですぅ……だから、もしも『神殺し』が起きたら……その負けた『神精族』もろとも、『神殺し』を成した召喚獣を滅殺するんですよぉ」
恐れるように話すアルマ……と、今の話の中で、疑問に感じる箇所があった。
「報復する事がわかってるって事ァ……誰か『神殺し』をした事あるんかァ?」
「はいぃ……『神殺し』は、これまでに3回あってますよぉ……1回目は、数百年前に『盾女神』が殺された時。そして、その『盾女神』を殺した者を、『太陽神』が殺そうとして、返り討ちにされた時……これで2回なんですよぉ」
「……つまりィ、同じやつが2回も『神殺し』をしたって事かァ」
「その通りですぅ。その召喚獣は、『サモンワールド』じゃない世界……この世界で殺されましたけどぉ」
「へェ……その2回も『神殺し』をした召喚獣ってのァ、何者なんだァ?」
何気ないキョーガの問い掛けに……悩むように沈黙した後、決心したように答えた。
「……『死霊族』、『反逆霊鬼』の『オルヴェルグ』ですぅ」
「『反逆霊鬼』だとォ……?」
「はいぃ……そのオルヴェルグという『反逆霊鬼』は、伝説の『死霊術士』が使役していた召喚獣なんですよぉ―――あ、そうですぅ」
再び思い出したように声を上げ、キョーガの額に指を当てた。
その部分は―――『紅角』が生える部分だ。
「前にキョーガ、魔法が使いたいと言ってましたよね?」
「あァ、んな事言ったなァ……なんだ、使えんのかァ?」
「はい……あ、正確には魔法ではないんですけどぉ……知りたいですぅ?」
「勿体振んなァはよ話せェ」
「うぅ……キョーガ、せっかちさんですぅ……」
早く言えと顎をしゃくるキョーガに、残念そうに口を尖らせるアルマ。
「……角の生えた鬼……キョーガや『悪鬼羅刹』、それと『鬼夜叉』などの事ですぅ。これらの鬼は、『焼却角砲』という『種族能力』が使えるんですよぉ」
「……『焼却角砲』ってのも気になるがァ……その『種族能力』ってのァなんだァ?」
「えっとぉ……サリスが『三頭犬の狩猟』という魔法を使うのは知ってますよね?」
「あァ、あの分身する魔法だろォ?あれ便利だよなァ」
「あの魔法は、正確には『種族能力』なんですよぉ……『地獄番犬』のみが使える魔法だから、『種族能力』に分類されるんですぅ」
珍しく、ポカンとした表情を見せるキョーガ。
つまり……まったく理解できていない、という事だ。
「え、えっと……『金欲竜』の『破壊の咆哮』がありますよね?」
「……あァ」
「あれも『竜族』なら誰でも使える『種族能力』なんですよぉ……多少、出力に差が出ますけどぉ」
……無言。
腕を組み、眉を寄せるキョーガは―――1つの答えに行き着いた。
「……つまりィ、特定の召喚獣のみが使える魔法、もしくは能力がァ『種族能力』って事かァ?」
「はいそうですぅ!で!キョーガたち『角を持つ鬼』は、共通して『焼却角砲』という『種族能力』が使えるんですぅ!」
言っている事が伝わって嬉しいのか、親指を立てて肯定する。
「……でェ、その『焼却角砲』ってのはどんなのなんだァ?」
「えっとぉ……ボクは『角を持つ鬼』じゃないから詳しくはわからないですけどぉ……『角の先端に魔力を凝縮して、高熱の球にして発射する』……的な感じだったと思いますぅ」
「詳しいんだなァ……アルマってェ、意外に頭いいんかァ?」
「……昔、色々な召喚獣と手合わせをする機会がたくさんありまして……」
そう言って、キョーガから視線を逸らす。
その顔は―――前に見た、スゴく悲しい顔だ。
「ったくよォ……んな顔すんじゃねェ」
「ぁ……え?顔……ですぅ?」
自覚が無いのか、自分の顔に手を当て首を傾げる。
「……なァおいアルマァ」
「はい?」
「おめェ……過去に何があったァ?」
直球の質問に、アルマの表情が強張る。
そんなアルマに手を伸ばし……その小さな頭を、優しく撫でた。
「……話したくねェんならァ、話さなくていいんだァ……ただァ、ちっと心配でなァ」
「心配……ですぅ?ボクの事が?」
「……ちっとだけなァ」
ゴロンとベッドに寝転がり、枕元の装置に魔力を流す。
よくわからないが、この装置に魔力を流すと、部屋の照明が消える仕組みなのだ。
「えへへ……ボクは大丈夫ですぅ。それに、何かあっても、キョーガが守ってくれますよね?」
「…………………………あァ」
「……えへ、へへへ……えへへへ……」
「んっだよ気色悪ィなァ……寝るんだから早く布団入れやァ、寒ィだろォ」
キョーガは気づいていないが……アルマはしっかり気づいた。
アルマが部屋に来て、一緒に寝ようとすると文句を言っていたキョーガが……自分から、一緒に寝るよう誘っているのだ。
「……えへへ……失礼しますぅ」
「あァ……」
キョーガの背中に抱きつき、力を込める。
―――離さないと、離れないと、そう態度で表すように。




