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不良の俺、異世界で召喚獣になる  作者: アイビス
1章 不良の俺、召喚獣になる
3/72

3話

「……これがグラウンドかァ?」

「はい!」


 元気な返事を聞き、キョーガは建物を見回した。

 ……グラウンド?いや違う。これはまるで闘技場だ。

 中央に試合場があり、それを囲うようにして観客席が(もう)けられている。


「……行くかァ」

「あ、あの、キョーガさん」

「あァ?」

「……アバンさんは、上級召喚獣を使います……無理だけは、絶対にしないでくださいね?」


 心配そうなリリアナの視線を受け、キョーガはヒラヒラと手を振った。

 ―――リリアナは言った。俺と仲良くなりたいと。

 リリアナは言った。俺の事を友だちだと。

 だから―――


「俺の友だちに手ェ出しといてェ、無事に済むと思うなよォ……」

「―――『サイクロプス』っ!」


 アバンが手を前に出した―――瞬間。

 辺りに凄まじい轟音が響き渡る。

 さすがのキョーガも、轟音の理由がわからなかった。

 だが―――それも一瞬の話。

 キョーガを見下ろすようにして現れた()()を見て、理解した。

 あの轟音は、こいつが現れたからだ、と。


「……4メートルってとこかァ」

「気を付けてくださいキョーガさん!アバンさんの『巨人族(ギガント)』の力は、建物を簡単に壊すくらい強いです!」


 『巨人族(ギガント)』……そんなのもいるのか。

 そんな呑気な事を考えられるほど、キョーガには余裕があった。


「準備はいいな?それでは―――始め!」

「『命令 そいつを潰せ』!」

「オォ、ォオオオオオオオオオオンンッ!」


 アバンの命令に従い、サイクロプスが雄叫(おたけ)びを上げた。

 空気が震え、地面が揺れるような錯覚を覚えるほどの声量。

 ……目の前に立つ獲物(キョーガ)は逃げなかった。

 キョーガの実力を知らない者が見れば、誰しもこう思うだろう。

 ―――ああ、恐怖で動けないんだろうな、と。

 このサイクロプスも、その内の1匹。

 動かない獲物を見て、余裕を持って拳を振り上げた。


「―――ォオオオオオオオオオオッッ!!」


 再び雄叫びを上げ、兵器とも言える拳を振り下ろした。

 拳の大きさ、60センチ。

 そんな鈍器で殴られたら―――簡単に死んでしまうだろう。

 だがそれは―――

































『ズッ―――ゴォオオオオオオオオッッ!!』






































 ―――普通の人間ならば、の話だが。


「……あのよォ」


 緊張感が溢れる試合場に、気の抜けた声が響いた。

 亀裂の入った試合場、立ち込める粉塵、そして拳を振り下ろしたサイクロプス。

 この状況で―――人間が立っているなんて、誰が考えるだろうか?


「それェ……本気かァ?」


 そこには、サイクロプスの拳を片手で受け止め、心底退屈そうに声を出すキョーガが立っていた。


「―――っ?!『命令 潰せ』!」

「ルォ、オオオオオオオオオ……ッ!」


 反対側の手がキョーガを握り潰さんと迫る。

 それに合わせて、キョーガも反対の手をサイクロプスに向けた。

 手四つの形になり、サイクロプスがさらに力を込める。

 どんどんサイクロプスが前のめりになり―――キョーガが劣勢のように見え始めた。


「―――キョーガさんっ!」


 切羽詰(せっぱつ)まったようなリリアナの声に、キョーガは苦笑した。

 ―――情けない『召喚士』だ。考えも甘々で、頼りにならない。

 だが―――それが良い。それで良い。


『…………メキッ……ミシミシッ……』

「……?なんの音だ……?」


 突然、辺りに奇妙な音が聞こえ始めた。

 ……まるで、何かを()()()()ような鈍い音が―――


「……はははっ……やっぱり、サイクロプスの力には勝てないみたいだね」


 ニヤリと、アバンが邪悪に笑った。

 それを見たリリアナの顔が、泣きそうに歪む。

 多くの生徒を見てきたであろう教師でさえ、これから訪れる残酷な未来を想像し、眼を閉じた。


 ……全員、1つ大きな勘違いをしている。

 それは―――『被害者がキョーガである』という事だ。


『メキメキメキッ―――パキッ!』


 決定的な音が響いた。

 鉛筆の芯が折れるような軽い音。

 それを聞いたリリアナが、キョーガの絶叫を聞きたくないと耳を塞ぎ―――


「ル―――ォオオオオォオオオオオオオッ?!」


 絶叫を上げたのは、サイクロプスだった。


『メキメキメキメキメキメキッ……』

「ルガァ!オオォルルルガァアアアアアッ!」

「うるせェデカブツだなァ……その頭潰せばァ、絶叫は()むのかねェ?」


 誰もが、眼前の光景に目を疑った。

 痛みに膝を突くサイクロプス……その大きさ、およそ4メートル。

 対するキョーガの身長、170センチ。

 身長差、約2メートル30センチ。

 ―――そのサイクロプスが膝を突き、己より小さいキョーガを見上げているのだ。


「……さっきから聞いてりゃァ、てめェは上から目線にペラペラペラペラとォ……なァ?」

「ひっ……!『命令 早くそいつを殺せ』!」

「ルルゥ、ルガァァァァァァァァ……ッ!」


 怒りを込めた視線に、アバンは焦る。

 ―――どうにかしないと、僕が殺される。

 そんな気持ちを踏み(にじ)るように、キョーガが凶悪に笑った。


「安心しなァ……俺ァ『喧嘩は1発で終わらせる』主義でなァ、2発も3発も入れる気はねェ……てめェもしっかり1発で終わらせてやるよォ」


 『凶』悪に歪む口から、肉食動物のように鋭い『牙』が現れる。

 ―――その姿。まさに『凶牙』。


「―――おらァッ!」


 グッと、キョーガが力を入れた―――瞬間。

 ―――あの大きな巨人の姿が消えた。


「ほらァ、てめェの召喚獣だろォ?しっかり受け止めてやれよォ!」


 違う、消えたのではない。

 浮いていたのだ。あの巨体が、少年の片腕に持ち上げられていたのだ。

 そのまま勢いを付け、サイクロプスが地面に接近し―――


「や、やめ―――」


 何かを言いかけたアバンを押し潰し、サイクロプスが地面に沈んだ。

 シン……と、試合場が静まり返る。


「……おい、俺の勝ちだろォ?」

「キョーガさん……!」


 ダルそうに振り向くキョーガ……それを見たリリアナが嬉しそうに笑った。


―――――――――――――――――――――――――


「上位召喚獣……『巨人族(ギガント)』のサイクロプス……思ったより大した事なかったなァ」

「スゴいですよ!だってキョーガさんは、あのアバンさんに勝ったんですよ!はぁぁ……!いまだに信じられません!」


 わたわたと先ほどから落ち着かないリリアナを見て、キョーガは本日何度目になるかわからないため息を吐いた。

 ―――これでリリアナは学院を卒業できる。

 『もう学院には行かねェのかァ?』とキョーガが聞くと、『はい!出席日数とテストの点数は足りてますから!あとは来月の卒業式に出るだけです!』と喜んでいた。


「……んでェ?今どこに向かってんだァ?」

「私の家です!そこそこ大きな家なので、キョーガさんもバッチリ住めますよ!」


 テンションが高いまま、グッと親指を立ててくる。

 ―――心配したり泣きそうになったり、嬉しがってテンションが高くなったり。こいつは忙しいやつだ。

 心の中で苦笑し、楽し気なリリアナの後を、ゆっくりとキョーガが追いかける。


「……現実、なんだよなァ」


 後を追うキョーガが、どこか寂しさを含んだ声を漏らした。

 ふと、リリアナがキョーガを見ている事に気づく。

 首を傾げ、キョーガを待つリリアナ……再びキョーガが苦笑を浮かべる。


「どうかしましたか?」

「んやァ……なんもねェよォ」


 キョーガが異世界から来たと言った所で、別に状況が変わるわけではない。

 そもそも、あの世界にキョーガの居場所はない。

 キョーガと友だちになろうとする物好きもいない。

 なら―――この優しい少女のために、力を貸すのも悪くない。


「……はっ……(がら)にもねェなァ」

「キョーガさん?」

「……なんもねェ」


 そう言って、リリアナを見るキョーガの眼は―――今まで見たことないほど、優しさに満ちていた。

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