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不良の俺、異世界で召喚獣になる  作者: アイビス
1章 不良の俺、召喚獣になる
12/72

11話

「………………う……ぁ……?」

「目が覚めたみたいですね……どこか変な所はありますぅ?」

「あ……『吸血鬼(ヴァンパイア)』……♪ここどこ~♪」

「ボクがお世話になってる召喚士の家ですよぉ……あなた、気絶してたんですよぉ?」


 ムクリと体を起こす『地獄番犬(ケルベロス)』……その横には、アルマが座っていた。


「あたしが気絶~……?……あはっ♪それはあり得ないでしょ~♪だってあたし『地獄番犬(ケルベロス)』だよ~?そんな簡単に気絶するわけないじゃ~ん♪」

「……うーん……キョーガかご主人様を呼んだ方が速いですかね……ボクだと話が通じませんよぉ……」

「―――あ、アルマさん。その方、起きたんですね!」

「ご主人様……グッドタイミングですよぉ」


 柔らかい笑みを浮かべるリリアナ……と、その姿を見た『地獄番犬(ケルベロス)』が、驚いたように目を見開いた。


「……へぇ~♪……その人、『死霊族(アンデッド)』に偏見(へんけん)が無いんだね~♪」

「えっと……体は大丈夫ですか?」

「あは~♪大丈夫だよ~♪」


 心配そうな視線を送るリリアナに、『地獄番犬(ケルベロス)』はヒラヒラと手を振った。


「……もう……いくら手を出されたからって、やり過ぎですよキョーガさん」

「あァ?俺が(わり)ィのかよォ……どっちか的に言やァ、先に手ェ出したそいつが(わり)ィだろォがよォ」

「そうですけど……少し手加減できません?キョーガさんは強すぎるんですから、普通に殴ったら相手を殺してしまいますよ?」

「……一応、手加減したんだがなァ……」


 部屋に入ってくる男―――その姿、声を聞いた瞬間、『地獄番犬(ケルベロス)』の本能が危険を訴えた。

 体は、頭は、わかっているのだろう。

 ―――この男が、自分を気絶させたやつだ、と。


「……あなた……何者……?」

「あァ?人に聞く前にてめェが名乗れやァ」

「キョーガさん」

「……チッ……俺ァキョーガだァ……おめェはァ?」

「あっ……あたしは『地獄番犬(ケルベロス)』の『サリス』♪……その、あなたも召喚獣?」

「まァそォだなァ。俺ァ『反逆霊鬼(リベリオン)』だァ」


 ―――『反逆霊鬼(リベリオン)』……なるほど、この底知れぬ覇気は、気のせいではなかったのか。


「えっと……それで、『地獄番犬(ケルベロス)』のあなたが、何故あんな町中に?『死霊族(アンデッド)』のあなたが見つかったら、ただじゃ済まないでしょうに」

「ん~♪まぁそうだけどね~♪あたしにも色々と事情ってのがあってね~♪」


 リリアナの問い掛けに、サリスがゆらゆらと体を揺らしながら答える。

 ―――話を聞く感じ、こういう事だ。

 『地獄番犬(ケルベロス)』は名前の通り地獄を守る番犬……言うならば門番だ。

 今から大体3年前に、サリスは父から地獄を守る仕事を継いだとの事。

 だが……サリス(いわ)く、ものすごく暇な仕事らしい。

 毎日毎日退屈な仕事をしているサリスは、2日ほど前に、この世界に召喚された。

 とりあえず門番の仕事を辞めたかったサリスは、嬉々としてこの世界に来たのだが―――サリスは召喚士に『毎日退屈させない事』を契約条件として提示した。


 ここで思い出してほしい。サリスの格好(かっこう)を。

 黒いブラジャーと黒いパンツの下着同然の服装に、甘ったるい口調。そして巨乳。

 この姿の女に、『毎日退屈させない事』なんて言われて。

 ―――卑猥な事を考えないやつなんて、いないだろう?

 サリスとしては、3年も門番をしていて『暇にしないでほしい』という意味だったのだが、サリスを召喚した召喚士は『卑猥な事』という意味で捉えてしまった。

 気持ち悪くなったサリスは、その召喚士から逃げ出した。

 帰ったら門番。契約すれば18禁。となれば、サリスは逃げるしかなかった。


「で♪たまたま町で『吸血鬼(ヴァンパイア)』を見つけたから♪ちょっかい出そ~って思って♪」

「アホかてめェ。なんでそこでアルマに手ェ出そうとすんだァ?ってか殴られたの俺じゃねェかァ、ふざけんなこのボケェ」

「あは~♪それはごめんね~♪」


 ニコニコ笑いながら謝罪するサリスに、キョーガは小さく舌打ちをする。


「と言うか♪よくあたしが『地獄番犬(ケルベロス)』だってわかったね~♪」

「『サモンワールド』にいた時、一度だけ地獄に行った事がありまして……あなたの姿を見たことがあったんですよぉ」

「地獄に用事って……な~にしに来たのかな~♪ってか、あたしは覚えてないんだけど~♪」

「……そこは内緒ですぅ……2年以上も前の事だから、あなたが覚えてないのも無理もないですしぃ……」


 そう言ってフイッと顔を(そむ)けるアルマの顔を……キョーガは見逃さなかった。

 ―――スゴく悲しい顔だ。これまで見た事がないほどに。

 その事には触れないようにして、キョーガは今の会話にあった気になる事を聞く事にする。


「なァ、その『サモンワールド』ってなんだァ?」

「召喚獣が住む世界の事ですよぉ。召喚士によって召喚される召喚獣は、みんなそこから来るんですぅ……キョーガは『サモンワールド』から来たんじゃないんですか?」


 ―――『サモンワールド』。

 召喚獣が暮らす、この世界とは別の世界。

 天国、地獄、海、なんでも存在し、サリスはそこの地獄の番犬なのだ。


「……サリスさんは、どうするんです?」

「ん~♪そだね~♪とりあえず楽しい事でも探そっかな~♪」

「楽しい事……ですか?」

「帰っても暇だし~♪それならここに残って遊ぶ方が楽しいかな~って♪」


 楽しそうに笑うサリス……その笑みは、どこか無理をしているように見える。

 どうやらリリアナもキョーガと同じように感じたらしく、サリスに向かって手を差し出した。


「えっと……何のつもりかな~♪」

「1人で楽しい事を探すより、4人で一緒に過ごす方が楽しいですよ!それに、契約していない『死霊族(アンデッド)』が町中をウロウロしていたら、色んな人から……嫌な事されちゃいますし……なら、私たちと一緒に遊びましょう?」


 ―――『地獄番犬(ケルベロス)』は理解した。

 ……この()、本当に甘いんだ。

 偏見が無いとは言え、何の躊躇(ためら)いもなく手を差し出すなんて……狂暴と名高い『吸血鬼(ヴァンパイア)』と、最強無敵と言われる『反逆霊鬼(リベリオン)』が契約を結ぶのも納得だね~♪


「………………あっは~♪確かに、そっちの方が楽しそうだね~♪」


 差し出しされる手を握り、サリスが嬉しそうに笑みを深めた。


「……契約条件は、『あたしを退屈させない事』だよ~♪頑張って契約条件を守ってよね~♪」

「はい!みんなで楽しく過ごしましょう!」


 ―――こうして、リリアナは新たな召喚獣。最上級召喚獣の『地獄番犬(ケルベロス)』と契約した。


―――――――――――――――――――――――――


「……リリアナァ?」

「あっ……キョーガさん。どうかしました?」

「そりゃァ俺の台詞(セリフ)なんだがなァ……こんな夜中に何やってんだァ?」


 夜中。

 リリアナがリビングの椅子に座っていた。


「キョーガさんこそ……眠れないんですか?」

「眠れねェってかァ……アルマが俺のベッドに潜り込んで来たからよォ……前みてェに血ィ吸われたら嫌だからァ、起きて来たんだよォ」

「あはは……アルマさん、最近よくキョーガさんの部屋に行きますね」

「あァ……あいつァ最年長なのにィ、頭はロリだかんなァ……俺の事も『怖い兄ちゃん』としか思ってねェんだろォよォ」


 ちなみに、この4人の中で一番若いのは……驚くことに、サリスだ。

 本人(いわ)く、なんと15歳らしい。あんな15歳がいてたまるか。


「……んでェ?リリアナァどうしたんだァ?いつもは寝てるだろォ?」

「はい……その……ちょっと幸せ過ぎて……眠れないんです……」

「どういう事だァ?なんかあったんかァ?」

「いえ……皆さんと一緒にいられるのが幸せで……この数日間は色んな事があって……友だちがたくさんできて……夢なんじゃないかって思う日もあって……寝て起きたら、皆さんがいなくなってるんじゃないかって思ってしまって……」


 ポツリポツリと話し出すリリアナ……その顔は、幸せと不安が混ざりあった、複雑な表情だ。


「…………アルマさんが現れて……慌ただしくて、可愛くて、優しい方で……今日はサリスさんと契約して……大人っぽくて、強くて、いつもニコニコしてる方で……」


 遠くを見るような眼は、まるで夢を語っているようにボンヤリとしていた。


「そして……あの日、キョーガさんと出会って……最初は暴力的で、怖くて、乱暴な方だな、って思ってました」

「まァ否定できねェなァ」

「でも……本当は誰よりも優しくて、誰よりも人の事を考えていて、誰よりも強くて……人のために行動できる方で、頼れる方で……幸せを呼んでくれる方で……」


 そして―――キョーガの瞳を真っ直ぐに見つめ、ニッコリと微笑んだ。


「キョーガさんのおかげです……ありがとうございます、キョーガさん」

「はっ、笑わせんなよォ……全部おめェの力だァ。おめェの優しさがァ、あの2人の心に届いたんだろォ……おめェの強さはそこだなァ」

「私の……強さですか?」

「あァ……俺には持ってねェ強さだァ」


 そう……リリアナの強さは、キョーガも持っていない強さで……キョーガでも、勝てない強さだ。

 最初こそ反発していたが……リリアナの甘さと優しさに、いつの間にかキョーガも居心地の良さを感じている。

 まだ出会って1ヶ月も経っていないが……それでも2人の間には、確かな信頼関係ができている。


「……なァリリアナァ」

「はい?」

「……1つ、昔話をしてやるよォ」

「昔話……ですか?」

「あァ」


 暗いリビングの中―――キョーガの顔が、悲しく笑った。


「……とある研究機関に体を売られた、かわいそうな男の子の話だァ」

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