反対側のようですが、説明担当はいました
※※※
この世界は不公平だ。
魔法を使える人間は、年々減り続けている。魔力を持っていても、魔法現象を起こせる程の者は少ない。
数少ない魔法を使える人間は保護されて、力と権力を持つ。生まれながらの勝ち組だ。
魔法を使えなくとも、魔力があるものは魔石作りなどの特殊職に就けるため、学校への入学が保証される。
そして魔力の無い者たちも、金を払うことによって学校に入学できる。学校へ行き魔道具や化学などの学問を修め、その成績によって人間の優劣はきまる。
学校に通えない貧乏人は、学校へ行った者たちに劣る。学校へ通える歳であるの未成年は勤労は認められていないため、親の資金状況による。つまり、生まれながらの負け組だ。
その負け組であった俺は、詐欺師をしている。小物の詐欺師だ。
おもちゃのような製品を、魔術師の作品あるい魔法の品であると偽りって騙し売り、日銭を稼いだ。摘発されれば死罪かもしれないしれない詐欺をしても、小金しか稼げない状況には笑うしかなかった。
それでも俺は、生まれ持ったもの以外で、生活格差を上げることに固執した。
しかし、負け組の中にも格差はあった。
顔だ。顔がいいと、人の心は動くらしい。
異性に貢がせたりと、犯罪未満のことでも生きていける。結婚詐欺などをすれば、さらに大きな金額が動く。顔のいい詐欺師仲間の景気のいい話には、毎回驚いた。
不公平だ。生まれた時の運で、魔力も学歴も顔も決まる。生まれた後の頑張りなんか、意味は無い。
ヒエラルキーを覆すのは難しい。
俺の最期は、知り合いの結婚詐欺師のターゲットになぜか逆恨みされて殺さるとうあっけない終わりだった。最後まで運が無かった。
そんな俺に、最初で最後の幸運があった。
異世界で、生まれ変わる事ができるらしい。それも、好きな能力を持って。
もちろん欲しいものは、魔法と顔と学歴だ。異世界には学校が無いらしく学歴は無理で、身分も異世界人という以外には設定できないそうだ。
代わりに願ったのは、人の意識を操る術。禁術と言われ実在するかもわからない術だが、俺や他の詐欺師仲間達にとっては使えれば便利だと口癖のように言っていた術だ。
その力を了承した超常者にあっけにとられているうちに、足元の魔法陣のようなもので別の場所に移動していた。移動したことから、転送陣だろう。噂では聞いたことがあるが、見たのも使ったのも初めてだった。
転送されたその場に居たのは、偉そうな人間だった。
戦争に協力しろと言われたが、すぐには了承しない。
俺の前に同じように呼び出した者たちはどうしているのか聞く。
前回は召喚拒否をされ、その前の異世界人は人間を裏切り敵方に付いたようだ。他に居る異世界人も、その前々回の異世界人の影響を受けて、突然協力しなくなったという。
心底困った様子の人間に、俺は危険の及ばない範囲での協力することを約束した。
協力しても、途中で裏切ることは容易だと思ったからだ。意識を操る術を手に入れた俺は、この転送の陣から出てしまえば後はどうにでもなると思っていた。
勘違いだった。詐欺師だったくせに、契約に失敗した。
小物の詐欺師だから仕方が無いかもしれない。不意打ちで、魔法強制力のある契約を結ばされるとは思っていなかった。
行動制限がある契約なんて、今時国家契約くらいにしか使われて無いものだ。この異世界で使われている可能性を考えられなかった。
こうして俺の生まれ変わっても、立場の弱い状況は異世界でも継続していく。
初めて自分のミスによって起きた不利だ。不公平なんて言えなかった。この契約の打開策を考えながら、甘んじて受け入れることにした。
※
他の異世界人の洗脳に失敗した。
3人いる異世界人の内ユーナという少女には洗脳が効かず、アミナという美女にはかかったが、数時間後には打ち消された。セルディという男には上手くいったが、彼にも抵抗があった。
思念操作特化というだけあって、思念を操作するだけでなく、思念の読み取ることが出来る。
アミナやセルディから読み取れたのは、異世界人の地位向上とそのために動くユーナへの協力。
「異世界人は洗脳がかかりにくいのかもしれない。」
城に居ると、俺の契約のせいだけでなく、人間からの当りが強さで異世界人という身分そのものの立場が弱さを知った。
衣食住を保証されたが、他の人間達の中傷にさらされて摂る食事は最悪だった。本は俺が始めたことだが、異世界人の3食の食堂での食事は、通常0時・6時・12時頃のところを一時間後ろにずらして食べることが暗黙の了解となったくらいだ。
中傷を避けるために一日のほとんどを与えられた部屋で過ごすことは、楽ではあるが飼われていることと同然だ。
アミナとセルディが信じているユーナという少女が、本当に人間の意識を改革できるなら応援したかった。
しかし、危険を感じない範囲で協力するという契約だが、洗脳能力に特化したスキルでは危険に身を置くことも無く、協力するという大雑把な約束により国王から伝えられた意思に反する行動は制限されていた。
「もういい。あの三人は、召喚の契約も効いてないようだ。洗脳がかかったら、邪魔をしないようにだけ何とかしろ。」
「わかった。」
だからこの言葉を聞き、ささやかな抵抗をした。上手く洗脳のかかったセルディという男の洗脳を緩めた。今後の召喚や交戦の邪魔をさせない程度に、自由意思は最大限に残るように。
後日、出会ったアミナに洗脳をしないという選択肢は無かった。その代り、セルディと同じく緩めの洗脳を施した。
少しの出来心だった。アミナがあんまりにも、俺の顔が好きだという思念を訴えてくるからそれを恋心に変えて付き合うことにした。また洗脳を解除されたり、洗脳のかからないユーナに疑われたりするようなら元に戻そうと思っていた。だが、洗脳が打ち消されることは無かった。
次に、アミナはユーナを特に気に入っているから、緩い洗脳では俺の部屋に住む事を了承するなんて思わなかった。分かっていたけど、聞いてみた。
「ここに、一緒に住む?」
「いいよ。」
読み取った思念は、ユーナに避けられているから寂しい。俺の顔が好きだから眺めていられるのは役得。などという思念が流れてきて、あっさりと了承された。
アミナはその後2年程を、一向に進まないユーナの聖女活動の邪魔をしないために俺の所に居続けた。予想外だった。
美人なアミナと恋人関係でいられたのは、俺にとっても役得だった。
役得ではあったが、顔が好きという思念が流れ込んでくるたびに、今の顔も俺の顔であるのに元の俺の顔だったら嫌がっただろうと、変えられないヒエラルキーを思い起させた。
この世界でも、異世界人として差別されている。自分のせいとはいえ、逆らえない弱い立場。魔法が使えて顔がよくて禁術の思念操作が出来るのに、変わらない自分にうんざりしてした。
※
半年後に来た異世界人は、「召喚の契約もあるから洗脳も効きやすいはずだ。言う事を聞くように洗脳しろ。」と命令され、国王の指示に忠実であるように全力で思念操作した。
忠実な兵を作ることに成功し、俺の洗脳能力は俺以前の異世界人以外には有用と判断された。
次の半年後に来た異世界人は契約に指定をしていたようで、「契約もあるが念のため、研究を妨げない範囲では言う事を聞くように洗脳しろ。」と命令された。その通りにした。
この時の異世界人であるトーコが研究として選んだものは、召喚陣。
異世界人を増やしたい国に、俺の前の異世界人のように召喚拒否をされることを防ぐための計画を提案した。少ない契約文言で召喚を強制終了させて、その後すぐに俺のスキルで洗脳を施すという計画だった。
確かに俺が洗脳したが、研究を選ぶ自由意思はあったはずだ。それなのに、半年に一度実証できるならやりがいがあるという理由で簡単に研究内容を決めたことを、読み取った思念で知った俺は瞠目した。
魔法陣系の知識は難しいが汎用性が有ると聞いたことがある。さらにトーコは助手を求めて、俺を含めた城に居る異世界人に魔法陣や魔法知識が無いか確認してまわっていた。結局見つからなかったようだが、召喚の際の契約でも自分の意志を残し、魔法陣知識が有り、助手を求める姿は、前の世界でなら高学歴の優秀な学者であった様を見せつけられ、自分との違いに嫌気がさした。
その半年後の召喚は、異質だった。トーコが魔法陣を改変したことにより、召喚された異世界人は光る転送の陣と共に呼び出した召喚の陣の真上に現れた。上下逆さまになって天井に留まる姿に目を剥いた。
召喚された相手も同様で、自分の位置がおかしいと気付いて混乱し、その異常な状態を解除するために協力することを即座に頷き契約された。
光の転送陣消失とともに落下した異世界人には、予定通りの洗脳をした。
最終的には計画通りになったが、トーコの予定と違い、改変は失敗したようだ。
思念を読むと、重力で召喚陣から放り投げようとしたのが失敗で、最低契約の自動化が何とか云々と高速で理論を流し込まれて酔った。とにかく、完成の形は言葉による契約を結ばずに強制的に召喚を完了させることだったらしい。
この思念の読み取りで、一瞬にして自分の思考処理が追いつかない程の数字や謎の文字群を流し込まれて、数日頭痛に悩まされた。今後トーコの思念は読まないことにした。学歴があれば人生が開けると思っていたが、本人の能力も重要だと悟った。前の世界で学校に通えていたとしても、落ちぶれて行く将来は変わらなかったかもしれない。失望した。
※
最期の召喚が行われた。何も現れなかった。
改変したトーコによると、位置がずれて今回も失敗らしい。
召喚自体は上手くいっている可能性が有るという事で、トーコと他2名の異世界人は捜索に出た。
契約の縛りのない異世界人の召喚という事で、もしもの事があった場合に便利な洗脳能力者が居なくなると困るという理由で、俺は留め置かれた。
危険になったら洗脳を全解除して、見つけた異世界人に協力してもらって逃げようと思っていたのに当てが外れた。
俺の不運な不遇は、まだ続くようだ。
その3日後、捜索が終了しない異世界人に不安を感じた上層部から、アミナを街に返して念のためユーナの状況を探らせるように言われた。常にユーナを心配しているアミナは、俺が声をかけると勇んで帰って行った。アミナが家に着く頃、洗脳を解かれたことに気が付いた。
翌日、セルディの洗脳が解かれたことに気が付いた。
その少し後に、アミナはユーナと共に戻ってきた。
スキルが効かないユーナがアミナとセルディの洗脳を解いたのだと察していた。2度目の解除で俺が洗脳していることを確信しているはずなのに、此処に戻ってきたことに驚いた。
何事も無いようにユーナとアミナは分かれの挨拶を交わしている。その中で、ユーナがセルディと接触したことを知った。それを知ってしまえば、放置することは出来ない。アミナもその場に居たようなので、再度洗脳して聞き出すしかない。
ユーナが帰る際に、戸を大きく開いたアミナに部屋に押し込まれた。
読み取った思念は「レイヤード!」と呼ぶ声だった。開いた外を見るが、ユーナの他はいない。ゆっくりと戸は閉まっていった。掛け声なのか人名なのか判断できなかった。
アミナに今までと同じ緩い洗脳をした。抵抗力が昔より上がっている気がしたが、問題ない。
ただ、思念の読み取りが難しくなっていた。全体に雑音の混じるような読取難さが有り、所々弾かれる感覚もあった。
ともかく、「明日」「セルディの部屋」「作戦」「みんなでジョンを取り押さえる」「後は臨機応変」という部分が読み取れた。読み取れてしまった。読み取れなければ放置もできたが、知ってしまえば契約に逆らえない。
上層部に報告した。
そして、捜索に出ていた洗脳済みの3人の思念を遠隔操作して戻ってこさせた。
明日セルディの部屋に集まってから俺を捕まえる計画らしいので、セルディと俺の部屋と門や城の外周部の警備が厳重になった。セルディにはあえて再度の洗脳をせず、その動きを見張ることが決定した。
俺の報告のせいだが、未然に防がれてしまうユーナの作戦に舌打ちが漏れた。せめてアミナを返さずに決行してくれれば、具体的な情報が洩れずに済んだのにと。
決行の日、何事も無いまま6時の昼食の時間になった。この時間は食堂のある1階に人間が集中する。ユーナも侵入は難しいだろう。どちらにしても、門からもそれ以外も見張りの強化されている状況での侵入は難しいか。
今日は諦めて次の機会に、決行してほしいと思う。俺を捕まえて脅してくれれば、今の洗脳を解除して人間達の洗脳に切り替えるんだけどな…。聖女を目指しているらしいユーナがそんな荒っぽいことをするわけがないだろう。危険を感じない説得なら、契約が優先される。
下手をすると、ユーナを止めるために一緒にきたセルディとアミナを完全洗脳してユーナを取り押さえることになる。それが人間にばれれば、アミナとセルディも今後完全洗脳し続けるよう命令されるだろう。そうすれば逆らえない。
上手くやってくれと祈るしかなかった。
実際、上手く行ったようだ。
暗黙の了解である異世界人の昼食の7時を待つ間に、俺の意識は何者かに刈り取られた。
次に目が覚めた時は見知らぬ部屋で、洗脳状況にある相手は一人もいない状況で、ユーナとアミナとセルディと見知らぬ少年が居た。彼女達を前に動かなくても、行動を強制してくる痛みは来なかった。
契約の及ばない場所なのか。それとも、アミナから漏れる不穏な気配に俺が危険を感じているからか。
周りを見れば、トーコを除く2人の異世界人が気絶していた。
「起きたみたいだね!」
不意にアミナに顔を覗き込まれで、肩が震えた。心の底に沁みこんでいた恐怖が沸き上がるようだ。
どうして、こんなにアミナを怖く感じるのかは分からない。無意識に体が後退った。
「人間に契約の影響で従っていたんだろ?今の契約は、満了になっているからもう大丈夫だよ。」
「誰なんだ?」
「俺?リョータっていうんだ。はじめまして。」
「はじめまして。…リョータというと、リョータ・アサヒナだよな?」
「そうだけど。なんで、知ってるんだ?」
「有名だよ。よかった…ありがとう。」
有名だった。俺の前の前の召喚で現れた異世界人。
何らかの方法で、契約を振り切り裏切った。そして、他の異世界人にも裏切る術を与えた。
人間達には、悪の権化のように言われていたが、俺にとってはずっと会いたいと思っていた。そして、会えた。たぶんリョータの力で、俺の契約を解除してくれたという事だろう。
やっと解放された。後は思念操作スキルで、人間位どうにでも出来る。思わずこぼれた笑みをそのままに、深く頭を下げた。
「え?なんで頭を下げるんだ!?俺、なんかした?」
「契約を解除してくれたんだろう?助かったよ…。」
「違う!いや、俺も参加したけど…皆で協力した結果だ!今はもう帰ったけど、今いる以外の協力者も居るんだよ!」
「みんな?どういうことなんだ?」
「説明するから、落ち着いてくれ!」
見れば、アミナもユーナも苦笑していた。
俺の見たことのある異世界人は、後はトーコ位だ。
代表して、リョータが今回の作戦とその結果について教えてくれた。
アミナが全然進んでいないと思っていたユーナの聖女計画による意識改革がかなり進んでいたこと。反対側である魔族側に住み着いたリョータ他2名の異世界人と、魔族の一人が協力メンバーだったこと。その魔族のスキルで思念記憶操作をして、城内の異世界人に対する意識を変えて戦争を終わらせたことで契約が解除されたこと。今後召喚をさせないために、資料と記憶の消去をしてあること。
全て、終わった後という事だ。俺も手伝う前に、終わっていた。俺の努力とは無関係に、念願のヒエラルキーの順位が上がっていた。
嬉しいのと同時に、自身の存在感に空しさを覚えた。
※
その後、俺はユーナの活動を手伝った。思念操作を使い、ユーナの印象操作をしている。
思念操作を補助として自らの言葉と態度で地位を築き、異世界人のためにも人間のためにも開拓を斡旋する仕事はやりがいがある。
そんな今、念願だったヒエラルキーの順位上げに余念が無いとはいえない。
あいかわらず、アミナを見ると恐怖を覚える。
俺が完全洗脳していた2名に大げさなほど避けられるように、洗脳状態で付き合わせたアミナも恨んでいるのかもしれない。そうでないなら、俺の罪悪感から派生した感情か。
いつかアミナへの恐怖が薄れるまで、聖女の手伝いを無心で頑張ろうと思う。
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名前-ジョン (濃紫髪黒目)
契約-戦争中、自身の危険を感じない範囲で国に協力する→満了
種族-異世界人
性別-男
物理-干渉力9/10
魔法-全属性 干渉力10/10
スキル-魔法特化 思念操作特化
名前-トーコ・ルーン・ドーシア (茶髪黒目)
契約-戦争中、自身の研究を妨げない範囲で戦争に協力する→満了
種族-異世界人
性別-女
物理-干渉力9/10
魔法-全属性 干渉力10/10
スキル-魔法特化 魔力感知 演算
ジョンの視点でした。
進化ラストの思念操作は、ユーナでは解けません。
しばらく、そのままにされます。




