本当に異世界でしたが、思っていたのと違うようです
転移すると、アミナが待っていた。ジョンの上で。
え?なんでジョンを椅子にしてるんだ?
「どうしてジョンの上に座っているのですか?」
「レイヤード!?見えないから、ビックリするね!」
「すみませんでした。」
「いいよ。転移って便利そうだね。ジョンのことは、こうすれば起きた時にすぐ気付けると思ったんだ。こんな顔のいい男を踏んでると案外気分がいいよ。」
「そうでしたか。洗脳されていたことに対して、恨みがあるわけではありませんか?」
「恨み?乙女の純情を踏みにじって…って、怒るほどのことはされて無いからね。結果的にユーナの役に立ったでしょ。契約に逆らえなかったみたいだし、顔もいいからちょっと脅かすくらいで許してあげるよ。」
「そうですか。」
アミナはやっぱりジョンの顔が好きなんだな。確かに美形だけど、自分の好みの顔ではない。
好みの顔を椅子にすると楽しいのだろうか?想像したけど、あまり楽しそうではないな。アミナの個人的嗜好ということだろう。もしくは、脅かすと言った部分の一案かもしれない。
「順調に集まってる?」
「はい。」
念のため、もう一度空間の感覚を辿る。
ほとんどが聖堂に移動を完了している。
慣れたからか、人の動きが減ったからか、気持ち悪い感覚はかなり減っている。
動く気配がないのは、ここに3人。アミナとジョンともう一人の気絶している異世界人。下のほうで4人。たぶん、サイトとアサとセルディと残りの異世界人だろう。と思ったら、その4つの感覚が消えた。ここに来る。
目を開けたのと、どさりと音がして気絶した人が増えたのは同時だった。
次いで何も見えないかった場所に3人が現れた。隠蔽を解除したんだと思う。
「ほぼ、聖堂へ移動しています。他の動いていない気配はありません。」
「そうか!最後が召喚陣の改変をしていた異世界人だろう。ラストにまとめて記憶消去されると面白くないな!早く確保しよう!」
「人間とどう判別して確保しますか?」
「アサが鑑定すれば分かるだろう。後はその場で意識を落として、連れてくればいい。洗脳が効いているから抵抗は無いはずだし、隠蔽すれば気付かれない。頼めるか?」
「分かったよ。」
「うむ。では、アミナとセルディは見張りを頼む。行くぞ!」
サイトに手を握られた。仕方ないので、苦笑しているアサの手も取る。
聖堂に転移した。
※
サイトとアサの手の感覚があるが、姿は見えない。
タイミングよく隠蔽したようだ。さっきもそうだが、どうしてこんなに他人の転移に合わせたタイミングで隠蔽できるのだろう?謎だ。
自分は天使と聖女の見学をするつもりなので、二人の邪魔にならないよう手を放す。
再度空間の確認をすると、移動が完了しそうなところだった。
もう壁への攻撃の心配もないと思うので、かなり魔力消費の大きいこの空間を縮めたい。グラウンド…庭?の所はもういらないと思う。政務棟・聖堂・兵舎棟だけ囲ってあれば十分だよな?直感は、正。問題なさそうなので、さっそく壁を狭めるイメージで縮めた。
昨日の練習が活きているようで、スムーズだった。体積が半分くらいになり、空間維持に必要な魔力消費も50%カット出来た。
また目を瞑っていたようだ。
広範囲の操作中に視覚情報が入ると集中できない頭の出来だという意味だろうか。そんな気がする。ここは直感に聞いたつもりじゃなかった。地味に、傷ついた。
「こちらが、神の意志を伝えに来てくださった天使様です。その証拠にこちらを頂きました。」
ユーナの声がする。見ればユーナは立ち上がっていて、両手で時計を持っていた。
なるほど。ここで利用するのか。そしてラストには出来るだけしゃべらせない作戦か?
「それが、街の聖堂のものではない証拠は?」
「それは…。」
特別大きい声では無かったが静まり返った聖堂にその声がよく響いた。
後ろの方にいた茶髪の女性。全員洗脳されていたんじゃなかったのか?
ユーナが言葉を詰まらせている。これは良くない。目視転移でユーナの隣に行き、隠蔽を打ち消す。
微笑を浮かべて、アイテムボックスから出した時計の花をユーナと同じよう掲げた。
「私も受け取っています。これが証拠になりましょう。疑うのは、失礼ではありませんか。」
返事は無い。見れば、あの茶髪の女性は居なかった。異世界人だったのだろうか。アサとサイトが確保したということか?そんな気がする。
それなら、出しゃばらなくても良かったかもしれないが、もう出てしまったのは仕様がない。目の合ったユーナに頷き、微笑を浮かべたその姿勢のまま静止しておく。
あとは、任せた。
「証拠になったようですね。これより先は、疑うことなく耳を傾けてください。
神は戦いを望んでいません。かの場所は神域です。人の身で入れる場所ではありません。魔族と呼んでいる彼らはあなた方が命を落とすことのないように、あの場所を守っているだけなのです。
魔獣と呼んでいる獣たちも、かつて侵した神域から流れた者たちです。あなた方の罪を忘れ、その罪の責任を神域に住むものに押し付けてはなりません。
異世界人は、異世界から神が呼んだ客人です。あなた方の戦いに巻き込むのはやめなさい。
天使様より、あなた方にお言葉をいただきます。」
ユーナが一歩下がり、祈りの姿勢になった。合わせて下がり、同じように祈りの姿勢をとる。
頑張れ、ラスト!
「我は主の左羽。我が主の言葉を伝える。人よ、子を生み増えて地に満ちよ。全地で種をまき緑を育て、地を開拓せよ。
嘗て主が人に贈った言葉である。忘れたというなら思い出せ。忘れぬように刻め。
地が未だ未開拓であるのに、戦いを望むな。人よ、開拓せよ。地を従わせよ。地と共に生きよ。
そして、我が主から与えられた召喚の知識を思い出せ。主に繋がる特別な術である。その知識を我が権限で取り上げる。地が満ちるまで、主からの助力は無いと思え。主の好意を無下にした償いとする。
人の中の代表者よ、今ここで戦いを止めることを誓いなさい。」
微笑の表情を動かさないように、静かに感動した。
ラストが、天使様だ…。偉そうで、神々しい!
神々しいのは、ユーナの範囲治癒による後光の光量が増えたことで、余計にそう見えるのかもしれないけれど。
人達の中ほどいた、中年の男性が立ち上がった。カラフルな色彩の袈裟のようなものを付けている。国王ということだろうか?そんな気がする。
「天使様に戦いを止めることを誓います。」
その言葉を受けてラストは頷いた。
…特にしゃべらないようだ。ユーナを見ると、こちらを見ている。そろそろ撤退だろうか?
ユーナはそのままこちらを見ている。
もしかして、撤退の仕方を考えて無かったとか?そんな気がする。
…とりあえず立ち上がると、ユーナも同じように立ち上がる。
今までのように皆で手を繋いで転移するような雰囲気じゃないよな。このまま接触無しで転移出来るか?出来る気がした。
このままジョンの部屋まで転移した。
※
「どうだ、上手くいったか?」
「はい。ラストとユーナが頑張っていました。」
「いいえ!レイヤードも有難うございました。まさか、証拠なんて言われると思って無くて…あと、撤退もあんまり考えて無かったです。」
「そうですか。何とかなってよかったです。」
「ぼく、大丈夫だったよね?ちゃんと出来てた?」
「流石の天使様でしたよ。昨日考えていたセリフよりも倍くらいに長くなっていましたけど、自分で増やしたんですか?」
「いやー、練習してたら、ルルとリリに付けた足されたんだよー。」
「そうだったんですね。聖書の一説のようでしたよ。」
「本当に頑張りましたね。私も見ていて感動しました。」
「そうだよね?ぼく頑張ったよね?ちゃんと出来て良かったよー。」
やっぱり撤退の仕方は忘れてたんだ。あのまま転移出来て良かった。行きよりも魔力消費が多かった気がすから、接触しなくても転移は出来るけど魔力節約するなら接触した方がいいという事か?そんな気がする。それなら、今後も接触状態の転移を推奨した方が良さそうだな。
ラストが羽をパタパタ動かしながら喜んでいる姿が可愛い。天使様な雰囲気は凄かったが、こっちの方が断然可愛い。
でも、ユーナが館で聞いたことと同じようなことを言ったということは、あの相談をしていた時にラストが話してたってことだよな?サイトはそれを横で聞いてたのだろう。ルル達にバレたら、怒られるんじゃないか?頑張ってほしい。
「記憶の消去も大丈夫か?」
「大丈夫!召喚の知識のある人は、今日は全員居たみたい。幸運だね。」
「本当に戦争が終わったって、どうやれば分かるんだ?」
「鑑定すればいいじゃないか。契約はどうなった?」
「ああそうか。…契約が、満了に変わってる。ほんとに、終わったんだ…。」
「そうか。終わると満了に変わるのか。アサ、賭けは俺の勝ちでいいな?」
「賭け?…そうだったな。負けるとは思ってたけど、早く終わったんならそれでいいや。」
アサとサイトの視線を受けるが、まだ両生体のままだ。30分以内のスピード解決だった。超直感でそうなると知っていたけど。
書類も何もなく戦争が終わったということは、本当に人間が勝手に戦争だって言い張っていたということだな。
先に戦いに洗脳を持ち出したのは人間側だ。洗脳で解決させた事を、後からとやかく言われる筋合いは無いし、罪悪感を持つ必要も無いな。
「あとは、この異世界人達の洗脳解除と契約が終わったことを伝える事と、資料の破棄ですか。資料の場所は分かりますか?」
「記憶を見たから、ぼくが分かるよ。そこの子だけ干渉力が強かったから、他とまとめての操作が上手くいかなかったんだよね。分けてくれてありがとー。今から消しちゃうね。」
気絶している人の山を見ると、先ほどの茶髪の女性らしき姿があった。
異世界人で他の人間よりステータスが高かったから、途中であんな発言を許してしまったのか。確保が上手くいって良かった。
「待ってくれ!資料を残さないようにするし、人側には話さないようにさせるから、見逃してもらえないだろうか!」
「その子だけ、特別扱いってこと?」
「少し違うな。俺も、召喚陣の知識が欲しい。俺も使わないし、広めないと約束する。半年以上の研究成果があるのに、知らずに葬り去られるなんて辛すぎる!」
「ええー?ぼくには判断できないよー。とりあえず、その子が何もしないように見ててね?えっと、アサだよね?資料の破棄をしてくる間、その子とサイトを見張っててー!」
「え?俺?いいけど。」
「お願いね!レイ、目視転移で転移して行って。しばらく祈ってるように操作したから、そのしばらくが過ぎるまでに、資料の破棄をしないと!」
「はい。分かりました。」
知識か。そういえばサイトは、それ目当てで確保したがっていたからな。
でも、こんな必死そうなのサイトを見たのは初めてだ。召喚陣の知識にそれほどの価値があるのか?それとも、この異世界人にその価値を見出したのか。
まぁいいや。先に資料の破棄に行こうか。




