説明担当はいましたが、反対側のようです
マントたちに囲まれたまま森の中を進み、気が付くと部屋の中に居ました。
…気が付くと部屋の中に居ました?
はぁ!?記憶が確かなら、一面木々の風景が続いていたはず。それが、なぜ部屋に!?
全面白の床や壁でバスケットコート2面分くらいの広さの空間だ。
奥のほうに会議用なのか長机と椅子が置いてあり、その内の一つに座っている人がいる。こちらを見ているので目が合った。
黒髪黒目で日本人風の顔だちに、眼鏡をかけて真面目っぽい印象だ。高校生か大学生くらいの年齢に見える。服装はマントたちと似た黒いローブだが、フードは被っていない。ちなみに裾や袖口からは、手足と中に着ている服も確認できた。
マントの彼がその青年に近づいていき、会話ができる距離で止まり、フードを下ろした。今の自分より少し大きいくらいだったサイズが、一回り以上大きくなった気がする。
え!?後ろ姿ながら、先ほどの中肉中背といった特徴のないマントから、大柄で筋肉質な厚みが見えるようなマント姿に変わり、頭部は茶色の短髪に日に焼けたような首筋が見える。
…マントな異世界モンスターから、冒険者風異世界人に変身した…。
「それは誰だ?」
「今回召喚された異世界人らしい。森に落ちてきたらから連れてきた。」
「契約はどうなっている?」
「いや、それが俺たち以外には会っていないらしい。」
「契約陣はどうなってる?」
「あるはあるんだが…。おい。ちょっと左手をこの兄ちゃんに見せてやってくれないか?」
彼が振り返った。顔だちから強そうなイケメンだ。外人風の顔だちだから年齢の判断は難しいけど。むしろ異世界人だから、なおさらに。
うっそだー。だって優し気な話し方で中肉中背だから、優し気な感じの顔とか、特徴のない平凡をイメージしてたのに。むしろ中が入ってなかったりするほうが面白い!とか思ってたのに。
体格から変わるとかイメージ変わり過ぎるだろ!いや、イケメンは悪くないけど!
「おい。大丈夫か?」
「あっ…はい。大丈夫です。」
しまった。無視してた。
ワイルドダンディな彼に促されて、前に出た。日本人風青年に左手を出す。たぶん手の甲の魔法陣らしき模様のことだと思うので、手の甲を上に向けて。
「確かに…。念のため、袖をめくってもらってもいいか?」
「はい。」
袖を肘までたくし上げる。こうして見ると細くて白い腕だな。容姿の希望通り、キレイ、であるのは間違いなさそうだ。
「どこから来たか聞いてもいいか。」
「はい。日本…地球人です。」
「日本!日本人!?まじか。俺、同郷。よろしく!」
日本人顔だと思って勝手に親しみを感じていたけど、突然椅子から立ち上がって出した手を握られた。
握手のために手を出したわけじゃないんだけど。
急にフレンドリーになったな。さっきの真面目そうな表情が崩れ、人懐っこい笑みを浮かべている。日本人ならやっぱり高校生っぽい雰囲気するなぁ。
「なぁ、ほんとにこっち来て、人間に会ってないのか?」
「はい、会っていません。」
「おっかしいなぁ。召喚してるのは人間なんだけど。契約してないならいいんだけどな!もし意識がない状態で運ばれてきたか、記憶をいじられているようなら…」
え、なにそれ怖い。そんな可能性が!?無いでしょたぶん。記憶が確かなら間違いない。
「…兄ちゃん、一応報告だけどな。空中に召喚陣らしきものが一瞬光って、落ちてくるのを見た仲間がいる。」
「なるほど。召喚位置が間違ってたってこと?何度も召喚してるのに今更そんなことあるか?」
「さぁ。俺達は、召喚を見たことも無いから分からないな。」
え、なに。落ちてくるところから見られてたわけか?囲まれるまでに、何か変なことしてないよな。たぶん座ってただけ。大丈夫、大丈夫。
はじめに森で誰も見つけられなかったのは、召喚位置が違ってたらしい。マントに見られててよかった。
それはいいとして。もうクーリングオフが出来ないとしても、そもそもこの世界についての説明待ちなんだよな。
「あの。説明が聞きたいのですが、いいですか。」
「ああ、そうだった。同郷だし、ここに居るってことはこっちサイドでしょ。俺から説明するよ。」
ん?こっちサイドって?
「簡単に言えば、この世界は人間と魔族で戦争中。半年ごとに異世界人を召喚して戦争に利用しているのは人間側。でもってこっちは魔族側。ようこそ、歓迎するよ!」
本来の説明担当とは、逆サイドにいるようだ。
日本で平和に生きてきた人間として戦争と言われると良い印象はないし、その戦争に利用されると言われるととてもいい気はしないが、異世界というと勇者とか魔王とか冒険者とか魔物とか…日本のサブカル文化のせいか、戦うイメージを最初から持っていたのは間違いない。
魔族といっても、魔王とか魔族が悪くないパターンの物語もあるあるだ。
とはいえ魔族サイドについたとしても、魔族側に利用されることもあり得る話だ。
それでも、たぶん魔族だったのだろうマントの彼はいいヒトそうだし、歓迎してくれたフレンドリーな同郷がいるし、問題ないのか?…問題ないか。
このまま流されるままに、様子を見ることにした。